26.射撃魔法の強化
4層序盤で赤血山猫の群れに敗退した俺は、散弾銃を作ろうと考えた。
あいにくと俺だけでは上手くできなかったのが、ニカに協力してもらったらあっさり成功する。
そこでより確実にリンクスを倒すため、さらに散弾の改良を試みた。
「それじゃあニカ、こんな形の石英を30個まとめたのを作ってくれ。この角はギンギンに尖らせてな」
「うん、いいよ」
俺は3ミリぐらいの正四面体を石英で作り出し、ニカに見せた。
すると彼女はいとも簡単にそれらを束ねた散弾を、俺の左手の前に形成してのける。
俺はその散弾に合わせた銃身を形成すると、壁に向かってぶっぱなした。
30個の三角錐が適当にばらけながら壁にぶち当たる。
その鋭利な弾体によって、壁が傷だらけになった。
新魔法”散弾銃”の完成である。
「いやはや、凄い威力ですな。これでブラッドリンクスの動きも止められそうですな」
「うん、これならちょこまか動くニャンコどもを捉えられる。さすがにこれだけでは死なないだろうけど、落ちてきたのを仕留めればいい」
「さすがですね、タツマ様」
「これもニカのおかげさ。ありがとな」
「アハッ、やった~」
俺たちの役に立てるのがよほど嬉しいのか、ニカが跳びはねながら喜ぶ。
そんな彼女を見たスザクが、面白いことを言ってきた。
「主様、ニカの能力は石英弾にも応用できるのではありませんか~?」
「うん、いいとこに気がついたな、スザク。実は俺もそれを考えてたんだ」
「なに、するの?」
「俺は今まで自分で弾を作ってたけど、せいぜい1秒に1発ぐらいしか撃てないんだ。だけど、ニカに弾を作ってもらえば連射できると思うんだよね」
「れんしゃ?」
よく分からないといった表情のニカに、俺はマシンガンによる連射のイメージを説明した。
さすがにフルオート射撃は難しいので、3点バーストのイメージを伝え、その手順を打ち合わせる。
まず俺が左手に形成した銃身の中に、ニカが石英弾を作り出す。
それを俺が射出した直後に次の弾丸を形成し、再び射出する。
これを何回か試してみると、スムーズに連射するコツが分かってきた。
俺の能力もあって実際のマシンガンほどではないが、そこそこの速度で3連射できるようになった。
これに”3連射”というキーワードを設定して、とりあえず完成とした。
そんなことをやっているうちに昼近くなったので、昼食を取る。
「ニカのおかげで、ずいぶんと主様の攻撃力が強化されたようですね~、もきゅもきゅ」
「うん、ニャンコにはやられたけど、思わぬケガの功名だったかもしれないな」
「ハハハッ、それにしてもタツマ様は思いもよらぬ魔法を作り出しますな」
「いや、これも前世の知識のおかげだから、そんな大したことないよ」
「キャハハッ、さすが主様は謙虚ですね~」
そんな話をしながら昼食を終え、再び探索に取りかかった。
すぐにブラッドリンクスの群れに遭遇したので、ショットガンを撃ってみる。
「ショットガン!」
俺達の背後に回り込もうとしていたリンクスに向けてぶっ放すと、あっさりとそいつが落ちてきた。
ホシカゲがすばやく駆け寄って、そいつを噛み殺す。
その後も近寄ってきたリンクスを片っぱしから撃ち落とし、それに仲間がとどめを刺す。
あっという間に、8匹のブラッドリンクスを殲滅してしまった。
「いや~、実に便利な魔法ですな、ショットガンは」
「本当に。さっきまでの苦労が嘘のようです。さすがはタツマ様ですね」
「これもニカのおかげだって。な?」
「アハハッ、ニカのおかげ~」
その後も危なげなくリンクスを狩り続け、序盤の3分の1ほどを踏破した。
ちなみに4層の地図は銀貨10枚もするくせに、中盤から空白の未踏領域があった。
ここまで来られる冒険者がそう多くはなく、さらに寄り道をする者も少ないのだろう。
地上に戻って魔石を換金すると、この日は銀貨120枚にもなった。
午後だけでリンクスを30匹も狩ったおかげだ。
その翌日も快調にリンクスを撃退し続け、序盤のほとんどを探索し終えた。
この日も50匹以上のリンクスを仕留めたため、とうとう稼ぎは金貨2枚を超えた。
そしていよいよ4層中盤の探索を開始する。
ここには剣角鹿という魔物が出るのだが、鹿といっても侮っちゃいけない。
これがまた凶悪な角を持った暴れ鹿なもんだから、その脅威度はウインドウルフ以上だったりする。
そんなのが3~6頭の群れで徘徊してるんだから、半端なパーティでは太刀打ちできない。
実際、この辺で命を落とす冒険者も多いそうだ。
ここで、開発したばかりの3連射が役立った。
まずソードディアの群れを見つけたら、問答無用でトリプルをぶっ放す。
よほど運が悪くない限り、大体これで1匹は倒せる。
この先制攻撃に怒ったソードディアの突進を、ヨシツネ、ベンケイ、ホシカゲが迎撃だ。
鋭利な角を振り回すディアの突進は凄まじいが、前衛には防御に徹してもらった。
勢いを殺すだけなら、2人と1匹でもなんとかなる。
そして彼らが足止めしている間に、俺がトリプルで1匹ずつ仕留めていく。
頭か心臓の辺りを狙えば、まず仕留められた。
なんてったって、俺たちには使役リンクがある。
上空で管制するスザクが敵の優先順位を指示してくれるし、俺がトリプルを撃つ時も前衛が射線を遮らないように連携もできる。
この連携をもってすれば、凶暴な殺人鹿もそれほど怖い存在ではなくなっていた。
しかし、快調にソードディアを狩っていた矢先、あるトラブルが発生した。
「タツマ様、ホシカゲがケガをしています」
「ワフ、クウーン(わふ、やられたのですぅ)」
「えーっ、大丈夫か? ホシカゲ」
慌ててホシカゲに駆け寄り、虎の子の治癒ポーションを傷口に塗ってやる。
最近は金に余裕が出てきたので、金貨1枚の高級品を使っている。
ホシカゲは肩口に傷を負っていたが、上級ポーションのおかげで表面上はすぐに治った。
「よし、これで大丈夫だぞ。でも完全には治ってないから、今日はこれで引き返そうか」
「そうですな。無理はしない方がよいでしょう。とりあえず昼食を取ってから、引き返すとしましょうかな」
ちょうど昼飯時だったので、休憩を兼ねて昼飯にした。
オニギリを食べながら、さっきのことを話し合う。
「そろそろホシカゲの防御力が心配になってきたね」
「うーん、そうですな。ホシカゲだけは生身ですからな」
(わふ、みんなに迷惑かけないよう、頑張るです)
「頑張るっていってもなあ……いっそのこと、ホシカゲ用に鎧を作るか?」
「鎧、ですか? 狼の鎧など見たことがありませんが」
俺の提案にヨシツネが首をかしげる。
「無ければ作ればいいんだよ。肩口や胴回りを革鎧で覆って、頭には鉄の兜をかぶせるってのはどうだろう?」
「ふむ、それは面白そうですな。この先のことを考えれば、それぐらいやった方がよいでしょう」
「でしょ? ついでに口でくわえられるような刃物を持たせられないかな。ベンケイが作った物なら、けっこう攻撃力の強化になると思うんだけど」
俺は思いついた武器の形を、地面に描きながら説明した。
基本的には柄の両側に片刃のナイフが付いたような武器だ。
その柄の部分をホシカゲがくわえ、敵に斬りかかる。
「兜に刃物を付けるのも手だけど、それだと敵に引っかかったりして危険だよね。いざというときに手放せる武器がいいと思うんだ」
「なるほど……儂の鍛冶魔法を使えば、形状の調整もしやすいでしょう。革鎧の方も材料があれば作れます。地上に戻ったらさっそく取りかかりましょう」
(わふっ、僕の武器を作ってくれるです?)
「ああ、そうだ。これでホシカゲもパワーアップできるぞ」
(楽しみです~)
昼飯を終えてすぐに地上へ戻った。
ソードディアの魔石は銀貨6枚だった。
今回はディア12匹と、リンクスを数匹狩っただけなので、金貨1枚足らずの収入となる。
さて、これからホシカゲの武具の材料を探しにいこうかね。