25.ショットガン
ベンケイとニカの加入で大きく戦力を高めた俺たちは、一気に3層守護者を攻略した。
見事に初見でウインドウルフリーダーとその配下を殲滅して喜んでいたら、リーダーの遺骸が霞のように消え去り、後には魔石と巨大な牙が残された。
「お、守護者の形見が残されてる」
「形見、ですか?」
「うん、この迷宮で守護者を倒すと、たまにその体の一部が残るんだ。それを形見と呼んでるのさ」
「なるほど。普通は魔石以外は残らないのに、守護者は特別なんですね」
「みたいだね。でも、牙かあ。何か武器に使えるかな?」
そう言ってベンケイに渡すと、しばらく調べていた。
「ふーむ、微妙に魔力を含んでいるようですが、これだけでは大した物はできませんな」
「やっぱそう? 一応、魔法の触媒としても売れるらしいんだけど、初めての形見だから取っておこうか」
「ええ、そうしましょう」
その後、一旦4層へ降りてから地上へ戻った。
換金所でウインドウルフリーダーの魔石を出したら、銀貨7枚だった。
他のを合わせると、今日だけで金貨1枚を少し割る程度の収入だ。
ちなみに3層の未踏部分の情報を売ったら、銀貨30枚になった。
案外安かったが、臨時収入としてありがたくいただいておく。
それから2kgの銀を商人に持ち込んだら、こっちは金貨2枚で売れた。
やはり未踏部分の探索は悪くない。
ベンケイにも感謝だ。
最後に冒険者ギルドへ実績ポイントを精算しにいったら、コトハが驚いていた。
「えーっ、もう3層突破しちゃったの?……本当だわ。しかも強化度15ってなによ。ここの3層なら、普通は10ぐらいしかいかないのに」
「へー、そうなんですか? まあ、僕らはていねいに探索して魔物を狩ってますからね」
「それってけっこう凄いことよ……でもこの分なら白銀級も夢じゃなさそうね。4層を突破すればぐっと可能性が高まるから、頑張ってね」
「はい、頑張りま~す」
その後、4層の情報を収集してから帰路に就く。
途中でちょっと豪華な食材とお酒を買い込んで、またシズクに料理をお願いした。
その晩はテッシンたちも入れてお祝いだ。
「それじゃあ、3層突破を祝って乾杯!」
「「かんぱ~い」」
乾杯すると、しばしシズクの料理に舌鼓を打つ。
最近はめっきりと肉料理を作ってもらうのが増えた。
ホシカゲにもしっかりと肉を食わせているので、彼も成長している。
ダークウルフにしては小柄だった彼もようやく並みの体格になり、しかも肉付きが良くなっている。
ちょくちょく体を洗ってもいるので、毛並みもフサフサだ。
「それにしても、タツマがこんなに早く3層を突破するとは驚きだな」
「ええ、俺自身も驚いてるぐらいです。これもヨシツネやベンケイのおかげですけどね」
「ワフ(僕は?)」
「もちろんホシカゲも役立ってるぞ」
ホシカゲが抗議の声を上げたので褒めてやると、食卓に笑いが巻き起こる。
「でも、短い間にけっこう賑やかになったわね」
「アハハ、すみません。こんなに仲間を増やしちゃって」
「あら、私は料理のしがいがあって楽しいわよ。いろんな食材を持ち込んでくれるから、料理の種類も増えたし」
「ハハハッ、そうだな。私もこの歳になって、こんな豪華な食事を食べられるとは思ってなかったよ。なにより、大勢で食べた方が美味しいしな」
「そう言ってもらえると、助かります」
あまり迷惑を掛けてないようで何よりだ。
テッシンにはこれからも、いっぱい恩返しをしたいと思う。
「それにしても、この間まで行き詰まっていたのに、急に強くなったみたいだね」
「ええ、3層深部のウインドウルフに手こずってたんですけど、武器が良くなって攻撃力が上がったんですよ」
「ほう、何かいい武器が手に入ったのかい?」
「いえ、ベンケイが鍛冶魔法に目覚めて、僕らの武器を鍛え直してくれたんですよ」
「ああ、ドワーフには鍛冶魔法を使いこなす者がいるという話だね。ベンケイさんはその奥義に目覚めたんですか?」
そう言われたベンケイが恥ずかしそうに答える。
「はあ、今まではどうしても精霊と契約できなかったのが、タツマ殿の助言でようやく実現しまして。タツマ殿には本当に感謝しております」
この話は事前に決めてあったことで、俺達が強くなった言い訳にしようと思ってる。
ドワーフからすればとんでもない話なのだが、テッシンさんもそんなものかと聞いている。
「そうですか。タツマから迷宮に潜ると聞かされた時にはどうなるかと思いましたが、上手くやれてるようで何よりです。今後もタツマのことをよろしくお願いします。ヨシツネ君も」
「もちろんです。精一杯支えていきますぞ」
「命に代えても守りますよ」
ヨシツネの言いようはちょっとオーバーだが、テッシンとシズクは安心したようだ。
その晩は、遅くまで冒険者の話で盛り上がった。
翌日はさっそく4層へ潜ってみた。
4層も3層と同じように動物系の魔物で、序盤で赤血山猫が出てきた。
それは名前のとおり、血の色をした山猫で、中型犬ぐらいの大きさがある。
こいつは1体1体は大したことないものの、最低でも5匹は出てきやがる。
しかもとても身軽で爪を立てて壁を走り回るもんだから、あちこちから攻撃されて非常にうざったい。
5匹くらいなら撃退できるが、10匹近く出てきた時にはこっちが逃げだした。
「アチチチッ……くそー、ニャンコどもめ!」
リンクスの洗礼を受けた俺たちは、4層入り口近くまで舞い戻り、治癒ポーションで治療をしていた。
顔や手など、むき出しの部分はひっかかれて傷だらけだ。
これは俺だけじゃなく、ヨシツネやベンケイも似たようなものだ。
「大丈夫ですか~? 主様」
(わふ、あの猫ども許さないのです)
「だいじょうぶ? ベンケイ」
人外トリオから心配されてるが、どうにもならない。
「ベンケイ、何かあいつら向きの武器とか作れないかな?」
「うーん、そうですな……もっと軽い剣とかメイスは作れますが、問題はあの数ですからなあ……」
「ヨシツネですら対応できないのに、小手先の武器じゃ無理か……」
「面目ありません……」
剣の達人のヨシツネですら、複数のリンクスにたかられて傷だらけにされたのだ。
少々軽い武器を使ったところで、解決には程遠いだろう。
「あれを封じるとなると、網で一網打尽にするとか、ショットガンでハチの巣にしてやるぐらいか……ん、ショットガン?」
「ショットガンとはなんですかな?」
「うん、広範囲に弾をばらまく銃なんだ。鳥を撃つのとかに使う……この世界に無いなら、作ればいいのか」
その後、人の来なさそうな場所に移動して、散弾の実現に取り組んだ。
とりあえず3ミリぐらいの小石を30個集めた弾を作ろうとしたが、それには異常に時間が掛かった。
小石を1個ずつイメージしないとひと塊になってしまい、上手くばらけないのだ。
30個もの弾を作ろうとすると、10秒以上掛かる。
これは使えん、とぼやいていたら、ニカが話しかけてきた。
「タツマ、なにしたいの?」
「ん? 散弾っていうのを作ろうとしてるんだけど、時間が掛かっちゃってさ。ちょっと悩んでるんだ」
そう言って見本の散弾を見せたら、ニカがひょいと同じ物を作ってみせた。
「これで、いい?」
「……ちょ、待て、ニカ。今どうやった?」
「べつに、タツマのまね、しただけ」
ニカはなんでもないように、散弾をもうひとつ作り出す。
「……凄いぞニカ! それじゃあ、この手の前に散弾を作り出せるか?」
俺は左手を突き出しながら、聞いてみた。
「うーん、タツマに、さわってれば、できるかな」
ニカがちょっと考えてから俺の足に触ると、左手の前に散弾が出現した。
すぐさまその弾の周囲に銃身を形成し、無属性魔法でぶっ放す。
擬似的な火薬を生成して、それを爆発させるイメージだ。
すると地球のショットガンのように、小石がばらけながら飛んでいった。
「やった! 使えるぞこれ」
「やくに、たつ?」
「ああ、凄い役に立つよ。偉いぞ、ニカ」
「アハハッ、やった~!」
頭を撫でてやったら、ニカが跳び回って喜んでいた。
この散弾を使えば、ブラッドリンクスにもお返しができそうだ。
待ってろよ、ニャンコども。