24.3層突破
ベンケイとニカが俺と使役契約を交わしたため、ベンケイは鍛冶魔法を、俺は土魔法を使えるようになった。
おかげで俺は新魔法”石英弾”で実体弾を撃てるようになり、威力も射程距離も大きく向上している。
さらにベンケイは鍛冶魔法で俺達の武器を鍛え直し、新品のように仕上げてみせた。
これは想像以上の戦力アップだ。
さっそくその効果を確認するため、迷宮に潜ってみた。
すると3層では序盤のファントムフォックスはおろか、中盤のマッドボアをいとも簡単に倒すことに成功する。
「凄いよベンケイ、この武器」
「本当ですね。切れ味といい、バランスといい、まったくの別物です」
「ハハハッ、そう言ってもらえると、鍛冶師冥利に尽きますな」
「やったね、ベンケイ!」
「ありがとう、ニカ。これもお前のおかげだぞ」
ベンケイがニカの頭を撫でると、彼女は天にも昇りそうな笑顔になった。
この間まで陰から見るだけのストーカーだったのに、ずいぶんと変わったものだ。
聞けば、使役リンクを通じてベンケイに嫌われていないことが分かるので、安心して付き合えるんだとか。
今までは嫌われそうで近くに寄れなかったとは乙女らしい理屈だが、ベンケイも変なのに見込まれたもんだ。
「それにしても想像以上の切れ味でしたね~。いったい何をやったのですか~?」
「まだ試行中なのですが、鉄の中の成分をいじっておるのです。昔、師匠から習った秘術ですな」
「へー、成分をいじるっていうと、炭素とかクロムみたいな元素を調整してるのかな?」
「”たんそ”と”くろむ”ですか? それは、昨日聞いた異世界の知識ですかな?」
ベンケイが正式な仲間になったので、俺の転生についても話したのだ。
「うん、そうなんだ。その知識を応用したら、もっと凄いものができるかもしれない。暇のある時に教えるから、一緒に研究していこうよ」
「はい、ぜひお願いします」
その後も順調に探索は進み、とうとう深部に差しかかった。
まだ探索してない領域を進んでいくと、すぐにウインドウルフの群れと遭遇した。
「よし、出てきたな。ストーン、ストーン!」
7匹の群れに先制でストーンを撃ち込むと、まず1匹を仕留められた。
それを機に残りが襲いかかってきたが、ヨシツネとベンケイが落ち着いて迎撃する。
まずヨシツネに向かっていった1匹が正面から斬られ、あっさりと息絶えた。
今までは毛皮に弾かれることも多かったのに、切れ味が飛躍的に高まっている証拠だ。
一方のベンケイもウインドウルフを盾で受け止め、戦斧を叩き込む。
その刃は見事にウインドウルフの肩口をえぐり、苦鳴が上がる。
そこに俺がストーンを撃ち込むと、その狼も息絶えた。
しかし好調だったのはここまでだ。
ヨシツネたちが牽制している横を、1匹のウインドウルフがすり抜けた。
背後に回り込んだそれは、すかさず俺に飛びかかろうとする。
それを槍で牽制したら、今度は少し下がって威嚇してきた。
そいつは3メートルくらい先でこちらを窺っており、槍から手が離せない。
しばしストーンを撃つかどうか迷っていたら、ふいにウインドウルフの足元が陥没して後足を絡め取った。
「キャインッ」
動きの止まったウインドウルフを槍で突いて肩口に傷を負わせ、さらにストーンで始末する。
すぐに後ろを振り向いて加勢しようとしたものの、すでに戦闘は終わっていた。
ベンケイに倒されたばかりの狼の足も、やはり地面に拘束されていた。
戦闘が終わると、迷宮の壁の中からニカが姿を現した。
土精霊である彼女は、このように自由に土や岩に同化できるらしい。
「よくやったぞ、ニカ」
「うん、あたし、やくにたった?」
「もちろんだ。助かったよ」
ニカの頭を撫でてやると、彼女がまた嬉しそうに微笑む。
実はここに来る途中、俺たちの戦闘を見ていたニカが、何か手伝いたいと言いだした。
そこで考えだしたのが、土魔法による敵の拘束だった。
さっきのように俺達と対峙する敵の足元の土を操り、足を拘束する技だ。
そのアイデアは図に当たり、見事にウインドウルフを拘束してくれた。
今はまだ拙い技だが、今回のようなギリギリの攻防ではけっこう役に立つだろう。
今後もいろいろ工夫して活用していきたいと思っている。
その後も多くのウインドウルフを倒しつつ、探索を続けた。
おかげで深部の半分以上を探索し終え、40匹近い敵を仕留めることができた。
地上で魔石を精算したら、とうとう収入が金貨2枚を超えた。
ベンケイとニカを仲間にできて、本当に良かった。
翌日も3層深部の残りを探索したが、地図に乗っていない部分にも踏み入っていく。
そこは守護者部屋と離れた場所で、大抵の冒険者は守護者戦に集中したがるので放置されやすい。
しかし俺たちはホシカゲの探知能力でわりと安全に探索できるのと、良い稼ぎにもなるのでくまなく探索をする。
するとどうだろう。
その最深部には銀の鉱石が埋もれていたのだ。
鉱石で持ち運ぶとかさばるところを、ベンケイが金属収集で銀だけ抽出してくれた。
なんと、銀だけで2kgぐらいのインゴットになった。
鍛冶魔法バンザイ。
その後、守護者部屋の前で昼食にしたんだが、先客が2パーティもいた。
3層守護者は鋼鉄級を超えられるかどうかという試金石になるから、何日も泊まり込んで攻略してるんだろうな。
しかし昼食を済ませ、いよいよ守護者戦に挑もうかという時にトラブルが起きた。
「おい、役立たず! なんでお前がこんなとこにいるんだよ?」
いきなり絡んできたのは、ヨシツネの旧主だった。
迷宮の前でヨシツネを蹴っとばしてた、あの冒険者だ。
「俺が買った時はただのお荷物でしかなかったのに、なんでこんなとこにいるんだよ? しかも周りは弱そうなガキやドワーフじゃねーか。答えろっ! どうやってここまでたどり着いた?」
「別に、普通に魔物を倒してきましたが」
「ああん? ふざけんな。こんなメンツでウインドウルフを倒せる訳ねーだろうが……ハハン、さてはお前、以前は手を抜いてたな? そうに決まってる!」
そいつは、”犯人はお前だ”みたいな感じで、指をビシっと突きつけながら決めつけた。
そのままでは埒が明かないので、止めに入る。
「ちょっとちょっと。俺の仲間にずいぶんですね。今は俺が彼の主人なんだ。言いがかりはよしてくださいよ」
「なんだと、このガキ。ぶっとばすぞ。俺はなあ、そいつに金貨1枚払ったのに、全然役に立たなくて捨て値で売り払ったんだぞ。だけどこうやって3層まで来てるってことは、そいつが手を抜いてたに違いねえ……あの時の賠償として、金貨10枚払ってもらおうか」
「うるっさいなあ……隷属魔法が掛かってるのに、意図的に手を抜くなんてできるわけないでしょう? どうせあんたの扱いが悪くて、彼の才能を活かせなかっただけでしょうよ」
「んだと、こらっ!」
「うるっせーぞ、お前ら!」
とうとう、もう1組のパーティが怒り出した。
せっかく体を休めて作戦を練ってるのに、すぐ横で騒がれたら腹も立つだろう。
「な、なんだよ、俺はただこいつを……」
「やるんならよそでやれよ。迷惑だ!」
どうやら向こうの方が強い冒険者らしく、目の前のクズはすごすごと引き下がった。
助けてくれた冒険者に軽く頭を下げると、手を上げて応えてくれた。
けっこういい人みたいだ。
俺は改めて守護者部屋の扉に向き直り、そこに手を当てた。
扉が横にスライドして開かれると、そこに足を踏み入れる。
仲間が全て侵入すると部屋が明るくなり、奥のウインドウルフが立ち上がった。
その群れの中に、牛並みの体格を誇る巨狼が1匹いた。
あれがこの部屋の主、風狼長だ。
さらにその周りには、5匹のウインドウルフがいる。
数的には6匹でしかないが、リーダーのおかげで倍以上は手強くなっているという噂だ。
だからこそ俺は、先制攻撃を仕掛けた。
「ストーン、ストーン、ストーン」
彼我の距離が30メートルくらいあったので、ウインドウルフ達も油断していたのだろう。
石英の鋭利な弾丸が2匹のウインドウルフの頭部を貫き、その命を奪った。
「グワウッ!」
いきなり仲間をやられて激昂したリーダーが声を上げると、奴らが向かってきた。
しかしすでに数の上では同等だ。
ベンケイがリーダーを牽制してる間に、俺達が雑魚を片付ける手はずになっていた。
俺の方に向かってきた1匹を槍で迎え撃つ。
あまり積極的に攻めずにしのいでいたら、自分の分を倒したヨシツネが加勢に入ってきた。
そいつはヨシツネに任せると、俺はホシカゲの敵を横からストーンで仕留めた。
最後はリーダーをみんなで囲んでフルボッコだ。
俺のストーン、ベンケイの戦斧、ヨシツネの剣の前に、みるみるリーダーが傷付いていく。
最後はちょっと動きが止まったところをヨシツネに首を切り裂かれ、リーダーは息絶えた。
俺たちが3層を突破した瞬間だ。