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22.ベンケイとの契約

 次の日も中盤を探索し続け、午後には深部に差しかかった。

 ここで出てくる風狼ウインドウルフの注意事項を改めて共有し、深部に踏み込んだ。


 やがて、ホシカゲが前方の分岐地点に、何かの気配を察知した。


 俺たちが慎重に分岐地点に近付くと、ぞろぞろと4匹の狼が現れた。

 こいつらが噂のウインドウルフだ。

 体格的には外にいるダークウルフと変わらないが、毛皮はずっと明るい灰色だ。


 ふいに敵の先頭がひと声上げると、2匹がこちらへ駆けだした。

 すぐにヨシツネやベンケイが迎撃しようとしたが、ウインドウルフは壁を足場にして俺達の後方に回り込んでみせる。

 この立体機動こそが奴らの名前の由来で、風のように身軽に動き回ることからウインドウルフと呼ばれるのだ。

 これを突破することこそが、鋼鉄スチール級から抜け出せるかどうかの試金石だとも言われている。


「打ち合わせどおりヨシツネとホシカゲは前、ベンケイは後ろを守ってくれ。スザクは危ない所を指示な」


 そう指示するとベンケイが背後に移動し、スザクが頭上に飛び上がった。

 その状態で俺も背後を向き、ベンケイの陰から左手を突き出す。

 これがウインドウルフに対抗するべく編み出した、俺たちの陣形だ。


 前方でヨシツネとホシカゲが防いでる間に後方の狼を掃討し、残りを全員で片付ける。

 しかしウインドウルフは身軽に飛び回るので、その行動にスザクが目を光らせるよう配慮した。


 奴らはすばやく動き回りながら攻撃を繰り出してくる。

 その動きを剣や斧で捉えるのはなかなか難しく、ヨシツネとベンケイは苦戦していた。

 俺も最初は奴らのトリッキーな動きに惑わされていたが、それも徐々に慣れてくる。


 やがて1匹が地面に降り立ったところを、旋条銃ライフルで打ち据えた。


「キャインッ」


 それを見たもう1匹が直線的に飛びかかってきたので、それもライフルで迎え撃つ。

 顔面に弾をくらったウインドウルフが昏倒し、ベンケイが追いすがって戦斧で始末した。


 後ろをベンケイに任せると、今度はヨシツネとホシカゲの加勢に入ることにした。

 2人とも防御に徹していたので、敵にダメージは無い。

 しかしここに俺のライフルが加勢すれば、状況は大きく変わる。


 まず1匹が近付いたところを狙撃すると、見事に避けられた。

 しかし、思わぬ攻撃で動きの止まった敵にヨシツネが駆け寄り、あっさり剣で仕留めた。

 さらにもう1匹にもライフルを連射すると1発が頭部に命中し、転倒したところをホシカゲがとどめを刺した。

 すでに後ろの1匹もベンケイが片付けていたので、戦闘は終了だ。


「フウッ、とりあえず無傷で倒せたな」

「はい、タツマ様の作戦が図に当たりましたね」

「そんな大した作戦でもないよ。今回は4匹しかいなかったしね」

「そうですな。あんな魔物が最大で10匹も出てくると思うと、ゾッとしますな」


 そう、ウインドウルフの本当の怖さはその数の多さにあるのだ。

 10匹もの狼に立体攻撃を仕掛けられれば、大変な脅威になるだろう。


「だよな~。まあ、地道に討伐して、慣れてくしかないでしょ」

「どうやら、そのようですな」



 その後は戦闘を1回だけこなして地上へ帰還した。

 今日の稼ぎも金貨を超えていた。

 ウインドウルフ1匹で銀貨5枚ってのは、けっこう美味しい。



 家に帰ると、ベンケイが武器や防具の整備をすると言ってきた。

 別にそれほどいたんでもいなかったのだが、とりあえず装備を彼に渡すと、夕食後に黙々と作業をしていた。

 それは剣の刃を研いだり、防具の傷みを補修したりと、なかなか本格的だ。

 俺たちも普段から布で拭いたり、油で磨くなどはしていたが、それよりもよほどていねいにやっている。


「やっぱベンケイは器用なんだね」


 ちなみに本人の希望で、彼に敬語を使うのはやめた。

 俺は彼の大恩人であり、パーティのリーダーでもあるのだからと言われれば、拒否もしにくい。

 まあ、俺の中身は、彼より年上なんだから気にするのはやめた。


「それほどでもありませんぞ。しかし、20年以上も修業をしていたので、これぐらいはお手の物ですわい。鍛冶魔法が使えればもっと本格的にやれるのですが……」

「ふーん……鍛冶魔法ってのは、どんなことができるの?」

「まず土精霊ノーミーと契約すれば、鉱石から金属を取り出したり、金属を思うような形状に成形できます。さらに火精霊サラマンデスと契約すれば、その場に炉が無くとも熱を加えて加工もできますな」

「へー、ノーミーとサラマンデス両方と契約するの?」

「いいえ、普通はどちらか片方ですな。両方と契約できた鍛冶師など、ドワーフの歴史上でもわずかですわい」

「ふーん……そういえばスザクって火属性を持ってるんだよね。ひょっとしてベンケイと俺が契約したら、ベンケイは鍛冶魔法を使えたりする?」


 スザクに聞いてみると、あいまいな答えが返ってきた。


「その可能性はありますね~。ただしノーミーにしろ私にしろ、主様を介して魔法を使えるかどうかは、やってみないと分からないのですよ~」

「そうだよな。あくまで可能性があるってだけなんだから」


 すると、ヨシツネも話に加わってきた。


「それなら、私で試してみてはどうでしょう?」

「て言ってるけど、できるの? スザク」

「うーん……ヨシツネは戦士タイプで、魔法適正も低いので難しいと思いますよ~。武器に属性を付与する方法もありますが、これは聖銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトなどの武器が必要ですね~」


 どうやら適性とかがあるらしい。

 それを聞いたヨシツネが、ガックリと肩を落とす。


「駄目ですか……しかし、いずれはミスリルやアダマンタイトの武器で、魔法を使ってみたいですね」

(わふ、僕は使えないですか?)

「ホシカゲも特殊な武器があれば使えるかもしれませんよ~」

「ハハハッ、それはいいな。”炎のアイアンクロー”とかどうだ? ホシカゲ」

(カッコいいのです。いつか作って欲しいのです、ご主人様)


 そんな風に盛り上がる俺たちを、ベンケイが羨ましそうに見ていた。

 おそらく、俺の使役リンクに加わるかどうかを迷っているのだろう。

 傍から見れば、使役契約なんて奴隷契約と変わらないから、強制はしたくない。

 彼の戦力と鍛冶師の技能は欲しいが、彼の選択に任せるしかないだろう。





 その後、3日間ほど3層深部の探索を続けていたが、あまり進捗は良くなかった。

 5匹ぐらいのウインドウルフまでは倒せるのだが、それ以上出てくると手が足りない。

 特にベンケイは使役リンクに加わっていないので連携に穴が開きやすく、そこを攻撃されたりもする。

 やがて、とうとうベンケイがケガを負わされ、ヨシツネのふんばりでなんとかしのぐ場面が発生した。



 危機を脱出して休憩していたら、ベンケイが改まって話しかけてきた。


「タツマ殿、お願いがあります。儂をあなたの家来にしてくだされ」

「……本当にそれでいいの? もし契約を交わしたら、秘密を守るためにも簡単に解除には応じられないよ。現状では鍛冶魔法が使えるって保証もないし」

「いいえ、この数日間でタツマ殿の人柄に接することができました。あなたは契約者を大事に扱われる。仮に鍛冶魔法が使えないとしても、儂はあなたの仲間になりたいと思うのです」


 予想以上に真剣な申し出を受け、ヨシツネに意見を求めた。


「良いのではありませんか。ベンケイは、この危険な迷宮で命を預けるに足る人物だと思います」

「そうか…………分かった、ベンケイ。真の仲間になろう。『契約コントラクト』」


 ベンケイに使役術を行使すると直ちに了承され、契約が完了した。


「おお、みんなの存在が感じられる。これからよろしくお願いしますぞ」

「うん、こちらこそ。ついでにノーミーも仲間にしておこう。また感覚を共有してくれるか? スザク」

「ノーミーとの契約はどうなるのか、よく分かりませんよ~。なので地上へ戻ってからの方がいいと思いま~す」

「うーん、それもそうだな。よし、一旦地上へ戻ろう」


 俺たちはその場を後にし、まっすぐに地上を目指した。

 半刻足らずで地上へ戻ると、近場の安全な森へ移動した。



 適当な場所でスザクと感覚を共有したら、ベンケイの後ろに幼女姿のノーミーが浮かび上がった。

 初めて自分の目でノーミーを確認したベンケイが、複雑そうな表情をする。


 それからスザクを介してノーミーを説得したのだが、最初はぐずっていた。

 自由を奪われることに、恐怖感があったのだろう。

 しかし、俺を介してベンケイとつながれると言ってやったら、凄い勢いで食いついてきた。

 最後には俺の足にまとわりついて、契約を迫るほどだ。

 さすがはストーカー精霊、欲望に忠実だ。


 ぶっちゃけ、こんなのと契約して大丈夫かとも思ったが、スザクの勧めに従って使役術を行使する。

 契約が成立した途端、ノーミーの輪郭がはっきりして、前よりよく見えるようになった。

 相変わらずちょっと透けてはいるが、おどおどした表情も読み取れるほどだ。


「主様。せっかくですから、名前を付けてあげてはいかがですか~?」

「えっ、ノーミーでいいだろ?」

「それは種族名ですよ~。個体名を付けてあげましょ~」

「個体名ねえ……」


 本来ならこいつ、ベンケイの精霊なんだよなあ。

 それならベンケイにちなんで付けてやるか。

 たしか、前世の弁慶は子供の頃、鬼若って呼ばれてたらしいな。

 オニワカの2文字を取って、ニカでどうだろう。


「よし、このノーミーの名前は”ニカ”だ……ハウッ」


 名前を付けた途端、ニカの体が光り、俺の意識が遠のいた。

 倒れかけたところをヨシツネが支えてくれたので、危うく転倒は免れる。


「大丈夫ですか? タツマ様」

「……ウアッ……今、急に気が遠くなったんだけど、何が起こった?」

「キャハハハハハッ、ご主人様の魔力をもらって、ニカが実体化したのですよ~」


 そう言われてニカに目をやると、彼女はもう透けていなかった。

 まるで本物の幼女みたいだ。

 一体、何が起こった?

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

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