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21.ストーカー精霊

 ドワーフ族のベンケイと出会った俺たちだが、彼と一緒にいるとなぜか不幸が続くという話を聞いた。

 するとスザクが、その原因は彼に取りついた土精霊ノーミーにあると言う。


「ななな、なんですと? 儂はノーミーに恨まれておったのか?」


 ベンケイが大声を上げると、ノーミーが驚いて近くの木の後ろに隠れた。

 しかしすぐに彼女は顔を出し、ベンケイの方を覗いている。


「たぶん逆ですね~。そのノーミーは、あなたのことが好きで好きでたまらないのだと思いますよ~」

「なんで好きなのに疫病神になるんだよ?」


 俺がつっこんだら、スザクも首を傾げた。


「さあ~、それはよく分かりませんね~。とりあえず彼女の話を聞いてみましょうか~」


 スザクはパタパタとノーミーの所まで飛んでいき、何やら話をし始めた。

 パニックに陥っているベンケイをなだめながらしばらく待っていると、ようやくスザクが戻ってきた。


「やはり私の思ったとおりでしたよ~。あのノーミーはベンケイが生まれた時からあなたに恋をしていて、陰から見守っていたそうで~す。しかし、あいにくと精霊召喚の儀式でベンケイのパートナーには選ばれなかったため、それを邪魔したうえでつきまとっているそうですよ~」


 なんとあのノーミー、ベンケイが生まれた時から彼を見守ってきたのに、彼の契約相手に選ばれなかったことで逆上したそうだ。

 ブチ切れた彼女は精霊召喚の儀式に乱入し、契約候補を追い払ってしまった。

 さらにその後もベンケイに悪い虫が付かないよう、こうしてつきまとっているんだと。


 うん、それってストーカーだよね。

 ひょっとして、そのストーカー的怨念に魔物が引き寄せられ、彼の身辺に不幸が起きやすくなっているんじゃないの?


「そんな……我々の友人のはずの精霊が儂を不幸にしていただなんて……こんな、こんなことがあっていいのか……ウワーーッ」


 その話を聞いたベンケイが、とうとう泣き出してしまった。

 ノーミーの方は、そんな彼を愛しそうに見守っている。

 まるで、彼には私が付いてなきゃ駄目なの、なんて考えてそうだ。


 ベンケイがあまりにも可哀想だったので、何とかできないかとスザクに相談してみた。


「なあ、スザク。あのノーミーを、ベンケイと契約させてやれたりしないのか?」

「あいにくとそれができないのですよ~。あのノーミーちゃんはとてもシャイで、ベンケイと直接契約なんてしたら死んじゃうとか言ってるんで~す」

「なんだよ、それ。ベンケイの契約邪魔しておいて、自分はできねーとか」

「愛とは、かくも不条理なものなんですね~」


 呆れて言葉が出ねえ。

 彼らに救いは無いのか?


 するとスザクがおかしなことを言いだした。


「しか~し、そんなベンケイさんに朗報がありま~す! どうですか、ベンケイさん! あなたが主様の家来になれば、鍛冶魔法が使えるかもしれませんよ~」

「「ハアーッ?」」


 いきなりの話に、みんなが変な声を上げた。

 しかし、なぜか当のベンケイがそれに食いつく。


「そ、それはどういうことですかな? なぜタツマ殿の家来になれば鍛冶魔法を使えると?」

「ンフフフフーッ。偉大な使役師である主様がそのノーミーと契約すれば、その力を引き出せるのですよ~。さらにあなたも主様と契約を交わせば、ノーミーの力を使えるようになるかもしれませんね~」


 スザクが翼を振り回しながら、怪しい仮説を熱弁する。


「おいおいスザク。本当にそんなことできるのか?」

「今はまだ、できるかもしれないとしか言えないですね~。しかし、成功の可能性は非常に高いと思いますよ~」


 それを聞いたベンケイが、マジで考え始めた。

 しばらく腕を組んで黙考してから、こう言った。


「さすがにこの場では決断できないので、しばらく考えさせてもらえませんかな? よろしければしばらくの間、儂をお仲間に加えていただけると助かります」


 おいおい、スザクの与太話を信じるってのか?

 しかし、ベンケイの表情は実に真剣であり、その頼みをむげに断るのも忍びない。

 それにヨシツネにベンケイときたら、何か運命的なものを感じるしなあ。

 パーティが強化されれば、迷宮の探索も進むだろうから、可能性に賭けてみるのもいいか。


「分かりました。契約をするかどうかは別として、しばらく一緒に行動しましょう。迷宮の探索を手伝ってください」

「ありがとうございます。誠心誠意、お手伝いしますぞ」

「よし、それじゃあ、とりあえず町に戻って装備を整えようか。ついでに服も買いましょう」

「いや、儂はこのままでけっこうです……その、元手がありませんので……」

「それぐらい貸しますよ。今の俺達でも1日で金貨1枚ぐらいは稼げるんだから、すぐに元は取れますって」

「そ、それではお言葉に甘えて……」



 それからすぐに町へ戻って装備を整えた。

 まずボロボロの衣服を着替え、革鎧と鉄の盾、両刃の戦斧を買い揃える。

 ベンケイは盾と斧は今までのを使うと言っていたが、どちらもボロボロだったので強引に買い換えた。

 これだけで金貨2枚近くを使ったが、後悔はしていない。


 まだ時間があったので、ベンケイに2層侵入資格を取らせるべく迷宮の1層に潜った。

 彼の加入効果は抜群で、ゴブリンズを物ともせずに突き進む。

 あれよあれよという間に守護者部屋に到着し、あっさりと1層を突破してしまった。



 ちょうどよい時間になったので、ベンケイを連れて家へ帰った。

 最初、彼を見たテッシンたちは驚いていたが、またもや快く迎えてくれた。

 本当にいい人達だ。


 5人で食卓を囲みながらベンケイの話をする。


「ベンケイさんはオウミ国の出身ですか。あの辺は鍛冶業が盛んで、ドワーフも多いと聞きますからね」

「はい、儂は鍛冶師に成り損ねた落ちこぼれですが、今も多くのドワーフが鍛冶業に従事しております……しかし、本当にこのような見ず知らずの者を泊めていただけるのですかな?」

「タツマが連れてきたんだから大丈夫でしょう。あいにくと部屋の空きは無いので、ヨシツネ君の部屋で寝てもらいますが」

「すみません、テッシンさん。もちろんベンケイさんの家賃も払いますから」

「ああ、分かった。そういうわけだからベンケイさん、遠慮なんてしなくていいんですよ」

「ありがとうございます、ありがとうございます~、ウウーッ」


 またベンケイが泣き出した。

 基本的に涙もろい人なのだろう。


 その晩、ベンケイはヨシツネの部屋で床の上に寝てもらった。

 さすがにベッドをもう1つ置くスペースも無いので、しばらくはマットを敷いて寝てもらう。

 さんざん野宿をしてきた彼にとっては、これだけでも極楽だと言っていたが。





 翌日は朝から迷宮2層に潜った。

 ここも遠回りはせずに、まっすぐ守護者部屋を目指す。

 2層でもベンケイの恩恵は抜群で、破竹の勢いで突き進んだ。


 前衛が増えたので、守護者戦も余裕だ。

 ベンケイとヨシツネがコボルドリーダーを相手してる間に、俺とホシカゲがメイジを片付け、リーダーも簡単に倒してしまった。

 こいつはちょっと理想的な展開だ。



 まだ昼にもなっていなかったので、迷わず3層を探索する。

 まっすぐに中盤を目指し、久しぶりに狂暴猪マッドボアと対峙した。

 2匹のボアが土煙を上げて突進してきたが、ベンケイは見事にその突進を止めてみせる。


 1匹はヨシツネとホシカゲが連携して攻撃した。

 もう1匹をベンケイが押さえているところを、俺が旋条銃ライフルを撃ち込む。

 その攻撃で注意が逸れたボアに、今度はベンケイが戦斧を叩き付けた。

 そんな攻撃を何回か繰り返すと、あっけなくボアが倒れる。

 その頃には、残る1匹もヨシツネにとどめを刺されていた。


「むう、実に見事な連携ですな。それにタツマ殿のライフルというのが、また強力です」

「いやいや、ベンケイさんも凄いですよ。1人でボアの突進を止めちゃうんだから」

「いえ、儂は足も遅いし、機敏に動けないのでまだまだです。しかしこのパーティの中でなら、少しはお役に立てそうですな」

「そうですね。全部独りでやるんじゃなくて、仲間同士で補えばいいんですよ。これからもバリバリいきましょう」

「ええ、よろしくお願いします」



 その後も危なげなく探索が進んだ。

 マッドボアが3匹出ても、前衛がそれぞれ1匹ずつ受け持ち、俺が支援して1匹ずつ潰していく。

 最大で4匹出てきた時は少々困ったが、ベンケイと俺で2匹を押さえた。


 なんと言っても、俺への攻撃をベンケイが防いでくれるので、安心してライフルを撃つことができる。

 おかげでその威力と精度が高まっていて、有効にダメージを与えられるのだ。

 頼れる壁役の存在は大きい。


 その日のうちに中盤の半分強を探索することができ、マッドボアを25匹も仕留めた。

 これで金貨1枚分の稼ぎになる。

 今後はこの稼ぎの中から4分の1をベンケイに渡し、そこから彼の装備の借金を返してもらうことにした。

 いきなりの高収入に、ベンケイも大喜びだ。


 彼が俺との契約を受け入れるかどうかは分からないが、この調子で迷宮を探索していきたいものだ。

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新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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