表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/116

20.ベンケイ

 3層中盤でなんとか狂暴猪マッドボアを倒したものの、それ以上の探索は難しかった。

 2匹のボアにてこずっているようでは、この先あまりにも心許こころもとない。


 なのでその日はそのまま地上へ戻り、奴隷商をのぞきにいった。

 戦力不足を痛感したがゆえの仲間探しだが、そうそう都合の良い人材が見つかるはずもない。

 できれば屈強な壁役が欲しいところだが、まともそうなのは金貨50枚以上もするので、到底手が出なかった。

 ならば新たな魔法を開発するかと意気込んだものの、2日間粘っても大して向上は見られない。


 結局、地道に魔物を倒して、肉体を強化しながらお金を稼ぐしかないと思い至り、2層深部と3層序盤で狩りを続けることにした。





 そんな状況が10日ほど続いていたある日、迷宮の入り口で奇妙な人物を見かけた。

 それはずんぐりとした体形で、ひげをぼうぼうに生やしたドワーフだった。

 盾と斧を持っているので、おそらく前衛職の戦士なのだろう。


 しかしその見た目たるや、かなり残念な感じ。

 着ている服はボロボロで所々に穴が開いてるし、顔や手足も薄汚れている。

 しかも相当弱っているのか、表情や声にも張りがない。


 そんなドワーフのおっさんが、迷宮に潜ろうとする冒険者パーティに声を掛けていた。


「儂も一緒に連れていってはくれないだろうか?」

「ああん? うちはメンバー足りてるから必要ねーよ」

「臭えんだよ、おっさん。あっち行けやっ!」

「アウッ」


 若い5人パーティに声を掛けていたが、取りつく島もなく断られた。

 最後は蹴りまでくらう始末だ。


 ちなみにこの迷宮を攻略するには、人数制限がある。

 6人までが基本的な上限で、それ以上で魔物を狩っていると、やがて大量に魔物が湧いてくるそうだ。

 迷宮の中で別のパーティと遭遇することもあるのでそれほど厳格でもないが、調子こいて大人数で狩りなんかしていると、やがて自分が魔物に狩られるはめになる。


 だから野良冒険者は5人以下のパーティと交渉して迷宮に潜るんだが、そうそう都合良く受け入れられるはずもない。

 お互い、危険な迷宮の中で命を預けることになるのだ。

 受け入れ側の人選が慎重になるのも仕方ないだろう。


 しかし、今の若い連中は完全にドワーフを見た目だけで判断し、不当な扱いをしているように見えた。

 まあ、冒険者なんてそんな荒くればっかだけどな。


 断られたドワーフは、トボトボと広場の端に歩いていき、力なくその場に座り込んだ。

 そんな彼を見ていたら、ヨシツネが話しかけてくる。


「彼を誘ってみますか?」

「うーん、けっこう前衛に向いてそうだけど、どう思う? あれだけみすぼらしいのは、何か訳があるのかもしれないし」

「あくまで勘ですが、腕は悪くなさそうですね」

「ヨシツネがそう言うんなら、試してみる価値はありそうだね。とりあえず話をしてみよう」


 歴戦の勇士のヨシツネが悪くないと言うのなら、それなりなんだろう。

 俺はドワーフに近寄って声を掛けてみた。


「あのー、俺たちも仲間を探してるんですが、とりあえず話だけでもしませんか?」

「ファ?……ほ、本当ですか? ぜひ、ぜひお願いします!」


 最初は寝ぼけたような感じだったが、言葉の意味を理解すると凄い勢いで食いついてきた。

 俺の手を取って、ギラギラした目を向けてくる。


 と思っていたら、ふいに彼がへたり込んで盛大に腹の虫を鳴らした。


「こ、これは失礼。もう3日もまともな物を食っておらんのです。申し訳ないが、前払いで飯を食わせてもらえんですかな?」

「アハハッ……まあ、いいでしょう。町の中で飯を食いましょうか」


 俺は苦笑いしながら、町の方へ彼を誘った。


 適当な飯屋に入って料理を注文すると、彼は来た端から料理を平らげた。

 その勢いたるや凄まじいもので、俺たちが話を聞く暇もないほどだ。

 やがて通常の3人前を平らげてようやく落ち着いた彼が、お茶を飲みながら話し始める。


 彼の名はベンケイといって、オウミ国のドワーフ集落から流れてきたそうだ。

 オウミ国ってのはオワリの北西にある国だな。


 そしてドワーフと言えばモノ作りに長けた種族であり、中でも特に鍛冶師の人気が高く、多くの者が1度は目指すらしい。

 彼も厳しい修行を積んだものの、ある事情から正式な鍛冶師になれず、失意の果てに冒険者になろうと決心し、迷宮を渡り歩いているそうだ。

 しかし、あいにくとどこでも仲間に恵まれず、便利使いされた挙句に放り出されてきたとか。


「ふーん、ずいぶん辛い思いをしてきたんですね。それで、鍛冶師になれなかった事情ってのはなんなのですか?」

「いや、それが……」


 何気なく聞いただけだが、言いにくいことらしい。


「ああ、別に言いたくないなら――」

「い、いや、いいのです。ぜひ聞いてくだされ……わしは、儂は鍛冶魔法が使えんのです」

「はあ、そうなんですか……でも、そんな人はたくさんいるんでしょ?」

「たしかに、鍛冶魔法を使わないドワーフも数多くおります。しかし、しかし儂のように精霊召喚の儀式を行っても使えない者は、前例が無いのです」


 そう言ってベンケイが泣き出した。

 悔しそうに涙を流し、嗚咽おえつを漏らす。


 彼が落ち着いてから改めて話を聞くと、ドワーフの世界には大金を積んで精霊を召喚する儀式があるそうだ。

 召喚された精霊と契約を結んでしまえば、その後は強力な鍛冶魔法が使えるようになり、優秀な鍛冶師への道が開ける。

 逆にどんなに修行していても、鍛冶魔法の使えないドワーフは、1人前の鍛冶師とは認められない。

 そして、なぜかベンケイはその儀式に失敗し、鍛冶師になり損ねたというのだ。

 儀式のために大金を出してくれた実家からもとうとう見放され、追い出されてしまったらしい。


 なんとまあ、運の悪い。

 実に哀れな話ではあるが、こんな運の悪い人を仲間にして大丈夫かと心配にもなる。

 そんなことを考えていたら、スザクが念話を送ってきた。


(主様、ベンケイの不幸の原因に心当たりがありますよ~。どこか人目の無い所に行きませんか~?)

(原因を突き止めたら、何かいいことあるの?)

(保証はできませんが、面白いことになるかもしれませんよ~)


 俺はスザクの提案に乗って、場所を変えることにした。


「とりあえず、ベンケイさんがどれくらい戦えるか見せてください。ちょっと町の外へ行きましょうか」

「了解です。儂の実力をお見せしましょう」


 飯屋を後にして、ゴブリンの出る森へ向かった。

 森へ着くと、ホシカゲに敵を探してもらう。

 やがて見つかったゴブリンを相手に、ベンケイの腕前を見せてもらうことにした。


「それじゃあ、ベンケイさん。あのゴブリンたちを倒してください。1人でやれますよね?」

「もちろんです。とりゃーっ」


 そう言うや否や、ベンケイが斧を振り回してゴブリンに襲いかかった。

 さすが言うだけあってそれなりに強く、無傷で3匹のゴブリンを仕留めてしまう。

 魔石と耳を回収してから、改めて彼と話をした。


「ベンケイさん、けっこう強いじゃないですか。なんでそんなに仕事困ってるんですか?」

「それが……なぜか儂と組むと悪いことが起きやすいのです」


 彼が言いにくそうに、過去の経験を語る。

 いわく、強い魔物と遭遇しやすくなる、物がよく壊れる、ケガが増える、などなどいろいろだ。


「……なんていうか、大変でしたね。その原因に、何か心当たりは?」

「儀式に失敗してから悪いこと続きですが、原因はさっぱり……」


 首を振りながらぼやくベンケイを、スザクの甲高い声が遮った。


「キャハハハハハッ、そんな疫病神が付いていたら当然なのですよ~」

「な、と、鳥が喋った!」


 スザクの声にベンケイがひどく驚く。


「おいおい、あんまり驚かせるなよ。でも疫病神ってなんのことだ?」

「キャハハハハハッ、あれですよ~。ベンケイの後ろを見てくださ~い」


 その途端、視界に妙な色が付いて、景色が変わった。

 そしてスザクから指示された所を見ると、何かもやもやしたものが見える。


「なんだ、あれ?」

「あれが土精霊ノーミーなのですよ~」


 そう言われると、その何かの形がさらにはっきりとしてきた。


 それは俺の膝より少し大きいぐらいの、3頭身の幼女だった。

 茶色の髪が目元まで覆っていてよく見えないが、その輪郭は整っているように見える。

 体には古代ギリシャ風の白っぽい服をまとっていて、いかにも精霊って感じではある。


 そんな幼女が、背後霊のようにベンケイの後ろにくっついていた。


「ノーミーですと? そんなものがどこに?」


 スザクの声を聞いたベンケイが、辺りをキョロキョロ見回す。

 彼には何も見えないようだが、ヨシツネとホシカゲには見えてるみたいだ。


「ベンケイさんの背後に小さな女の子がいるんですけど、普通は見えないみたいですね」

「キャハハハハハッ、そうですよ~。そしてそのノーミーこそが、あなたの疫病神なのですよ~」

「そ、そんな馬鹿な。ノーミーは我らと契約を結び、鍛冶魔法を可能にする友人ですぞ!」


 そう言うベンケイに、スザクがさらに無情な事実を告げた。


「おそらくそのノーミーが、あなたの精霊契約を邪魔したんでしょうね~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ