2.転生
「なあ、スザク。この体の持ち主はどうなったんだ?」
「死にました」
「死んだって、どうやって? なんで俺は生きてんだよ?」
「いわゆるクモ膜下出血ってやつでご臨終だったので~す。主様も地球で同じ目に遭って死んだんですよ~。ただし、主様にはこちらでやってもらうことがあるので、魂を引っこ抜いてきてこの体に入れました。あ、ちゃんと脳みそは治ってますから、安心してくださいね~」
なんとまあ、クモ膜下出血かよ。
あれってひどい頭痛に襲われるって話だけど、それを体験する暇もなく死んじまったのかね、俺は。
それよりも、やって欲しいことがあるって言ったな、今。
「俺がやることって、何?」
「簡単に言えば、こちらの世界をかき回して変化を起こすことで~す。だからあまり難しく考えず、好きに生きればいいんですよ~」
「なんだよ、それ? いいかげんだな」
「まあ、転生したのはあなただけじゃありませんからね~」
やっぱり転生したのは俺だけじゃないのか。
それにしても、本当に俺は自然死だったのか?
「……あのさ、この転生は、仕組まれたものなんじゃないだろうな?」
「どういう意味ですか~?」
「だからさ、地球で俺が死んで、そしてこの世界のタツマに転生するなんて不自然だろ? ひょっとして……俺とこの男は神に殺されたとかさ……」
俺はどうしても拭えない疑問を口にした。
これを言えば何かに睨まれるかもしれないけど、でもやっぱり聞かずにはいられない。
「あー、そんなことですか~。これは神様のサービスなんですよ~。どうせ新しい生活を始めるなら、同じ名前の方が暮らしやすいだろうという配慮ですね~。タツマなんて名前はこの世界にもいっぱいいるし、時間軸も異なってるので、2人が同時に殺されたとかもないですよ~」
「ふーん……本当に?……まあ、これ以上詮索しても、意味ないか」
「そうですよ~。せっかくもらった第2の人生なんですから、楽しんでくださいね~」
その無責任な言い方にちょっとイラッとしたが、気にしないことにした。
とりあえず立ち上がり、これからどうしようかと考えると、元のタツマが薬草を取りにいこうとしてたのを思い出す。
どうやらこの先の森の中に生えているらしい。
「とりあえず、薬草取りにいくか」
「それがいいですよ~。元々、その予定だったんですからね~」
「ああ、途中で倒れたみたいだな。まずはその仕事をこなして、お金を稼ごう」
「それが賢明ですよ~」
俺はスザクを肩に乗せたまま、歩き始めた。
薬草の採取場所まではまだ少しあるので、適当に彼女に話しかける。
「スザクはさ、喋る以外に何かできるの? 例えば目からビームを撃ち出すとか、口から火を吐くとか」
「キャハハハハハッ。マンガの読み過ぎですよ~、主様。そういうのを中2病っていうんじゃないですか~」
「いや、とっくに卒業したから、そういうの。でも異世界転生が現実にあるなら、なんでもありじゃない?」
「なんでもありではないのですよ~。キャハハハハハッ」
「チェッ、なんだよ……それじゃあさ、俺自身には何か無いの? 転生主人公にはチートとかあるのが定番じゃん」
「キャハハハハハッ。やっぱり中2病なのですよ~……しかし、チートというほどではありませんが、主様にはある能力が授けられていま~す」
おっ、何かあるらしい。
「へー、どんな能力?」
「ある程度知能の高い生物に対し、使役契約を施すことができます。使役スキルってやつですね~。左手のひらを見てくださ~い」
「左手のひら?」
言われるままに左手のひらを見ると、その中央に丸い黒褐色のアザがあった。
見事に真円のそれは、人為的なものに見えなくもない。
「このアザが、なんだってんだ?」
「それは使役師の証であり、生物との交信を可能にする使役紋で~す。それを対象に向けて交信を試みれば、意志の疎通が図れるかもしれないのですよ~」
「なんだよその、かもしれないって?」
「対象との相性とか、使役師の能力次第だからで~す。ちなみに私は主様と契約してるので、クチバシが赤くなってま~す」
「なんだ、すでに契約してたのか」
スザク曰く、使役契約が成立すると、対象のどこかの色が変わるそうだ。
変わる色は対象によるらしく、彼女の場合は黄色だったクチバシが、鮮やかな赤になったとか。
そんなことを話してるうちに薬草の生えてる場所に到着し、採取を始めた。
タツマの記憶に従って薬草を探し、その葉を摘み取って布袋の中に詰めていく。
予定していた数量を確保するまで、半日以上かかった。
ノルマを達成すると、町へ戻る。
今、俺が住んでるのは迷宮都市アリガという町で、名前のとおり迷宮がある。
迷宮には魔物が湧き、貴重な鉱石や魔道具も手に入るので、冒険者には人気の場所だ。
しかし今の俺は初心者なので、そこへ挑むために経験を積んでる状況だ。
いつになったら迷宮に潜れるのか、よく分からないんだけどね。