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19.3層の壁

 無事に2層を突破した俺たちは、翌日を薬草採取と鍛錬に充てることにした。

 午前中はいつもの森で汗を流してから、昼飯を取る。


「いよいよ明日からは3層ですね。しかし、けっこう厄介な魔物が出るようです」

「うん、そうみたいだね。序盤では幻影狐ファントムフォックスが出るんだって」

「幻影を使いこなす魔物ですね」


 昨日、2層を突破してからポイントを精算するついでに、3層の情報も仕入れてきた。

 ちなみに俺たちは鋼鉄スチール級に昇格し、強化度も10に上がっていた。

 これで俺たちも1人前の冒険者だ。


 しかし問題は3層に出てくる魔物だ。

 今までのようなゴブリンやコボルドの類じゃなくて、獣系になるらしい。

 序盤はファントムフォックス、中盤で狂暴猪マッドボア、そして深部が風狼ウインドウルフだ。

 これがそれぞれに特殊な能力を持っていて、スチール級でも攻略は容易でないと聞く。


「うん、姿を隠したり、分身を見せるっていうから、俺の旋条銃ライフルとは相性が悪そうなんだよね」

「そうですね。実際に戦ってみないと分かりませんが、厄介な相手になりそうです」

「それならば、ホシカゲの探知能力を利用すればいいのではないですか~? もきゅもきゅ」


 ここでスザクが案を出す。


「ホシカゲの能力を利用って、どうやるの?」

「ファントムフォックスは光を操って幻を見せるだけですから、臭いや音をたどればいいのですよ~。ホシカゲの感覚を使役リンクで共有すれば、それほど惑わされないのではありませんか~。もきゅもきゅ」

(わふ、僕が役に立つです?)

「そうか、目に頼ろうとするからいけないんだ。タツマ様、俺もホシカゲほどではありませんが、耳と鼻には自信があります。その感覚で敵を探ってみましょう」

「お、おう。上手くいくといいね」


 みんな、やる気になってるな。

 スザクも最近、いろいろとアドバイスしてくれて助かる。

 俺も頑張らなきゃ。





 翌日は初めての3層挑戦だ。

 入り口から転移して探索を始めると、ホシカゲが魔物を探知する。


(わふ、何か来るのです)


 ホシカゲの警告に続き、銀色の狐が3匹現れた。

 あれが噂のファントムフォックスだろう。

 中型犬より少し大きいぐらいの体格だが、その口にはしっかりと牙が生えている。


 奴らは俺達を認識すると、一斉にこちらへ突っかかってきた。

 さらに途中でフォックスの輪郭が、いきなりぼやける。


「ウワッ、分身しやがった。ライフル!」


 姿がぼやけたと思ったら、1匹の体が3つに分身して向かってきた。

 すかさず真ん中の奴にライフルを撃ったものの、それは外れだった。


「ガルゥッ」


 俺に飛びかかってきたフォックスに、ホシカゲが横から飛びついた。

 彼が牙を突き立てようとすると、フォックスがそれを嫌って離脱する。

 さらにヨシツネに飛びかかった奴も、彼の剣を躱して逃げおおせた。


「本当にやりにくいな。けど、ホシカゲには本体が分かるのか?」

「ワオン(なんとなく分かるのです)」

「よし、それなら感覚を共有してみよう」


 そう言いながら集中すると、ホシカゲの意識が流れ込んできた。

 完全に感覚を同調させるのは難しいが、視覚情報に別の情報が乗っかり、フォックスの存在が補強された。

 すかさずその中の1匹にライフルを連射した。


「ギャンッ」


 3発中の1発が目標に当たり、ホシカゲの感覚の正しさが証明された。

 しかし、それで警戒度を上げたフォックスが、激しく動きだした。

 今度はジグザグに走りながら、また幻影を繰りだしてくる。

 こうなると俺も相手を追いきれず、ライフルが空しく宙に消えた。


 しかしヨシツネとホシカゲは違った。

 迫ってきたフォックスに駆け寄ると、ヨシツネの剣とホシカゲの牙が敵を捉える。

 ヨシツネの方は1刀の元に斬り捨てられ、ホシカゲの方はしばらく首に食いついているうちに動かなくなった。


 見事に仕事を果たした彼らに近寄りながら、労をねぎらう。


「お疲れさん。ホシカゲはお手柄だったな」

「ワフン(やったのですぅ)」

「さすが、ホシカゲの感覚は鋭いですね。おかげで幻影に惑わされずにすみました」

「ああ、スザクの言ったとおりだったな」

「キャハハハハハッ、これも主様の使役リンクあってのものですよ~」


 珍しくスザクに褒められた。

 普通ならけっこう苦労するファントムフォックスを、あっさりと倒したせいなのだろう。


 その後も順調に探索が進み、その日のうちに序盤の大部分を回ることができた。

 ちなみに今回も地図を銀貨6枚で買っているが、中盤以降は空白も多い。

 ここから先はさらに難易度が高くなるため、探索が後回しになっているのだろう。

 本当に苦しいのは、明日からだな。


 ちなみにファントムフォックスの魔石は2匹分で銀貨3枚だったので、今日の儲けは銀貨60枚足らずだった。

 2層のコボルドメイジより安いってのは、その脅威度からしてどうかと思うのだが。





 翌日から3層中盤の探索を始めると、やがて2匹のマッドボアと遭遇した。

 けっこう大きな猪の魔物で、成人男性と同じぐらいの体重がありそうだ。

 しかもその下顎には凶悪な牙が生えていて、体は分厚い毛皮に覆われている。


「かなり頑丈らしいから、注意してな」

「了解です」

「ワオン(頑張るのです)」


 まず俺がライフルを連射したが、見事に毛皮で阻まれた。

 よほど近くで撃つか、眼球にでも当てなきゃ倒せそうにない。


 攻撃を受けたボアが一斉に突撃してくる。

 俺は正面からライフルを撃ちつつ、ギリギリまで引きつけてから身体をひるがえした。

 しかし、躱したと思った瞬間にボアが頭を振ったため、その牙に足を引っかけられる。


「ウワッ!」

「主様っ!」

「タツマ様!」

「ウォン(ご主人様)!」


 俺は回転しながら地面に叩き付けられ、そのまま転げ回った。

 メチャクチャいてえぞ。


 敵に引っかけられた革のブーツが切り裂かれ、ふくらはぎから血が出てる。

 そんな状況を認識するかしないかのうちに、ボアが突進を止めてこちらに振り返った。

 さらに前足で地面をかくようにして、再突進の構えを見せる。


「ウォンウォンウォンッ!」


 そんなボアにホシカゲが果敢に立ち向かい、時間を稼いでくれた。

 もう1匹のボアもヨシツネが押さえている。

 俺はその間に治癒ポーションを取り出し、ケガの上から振りかけた。

 幸い大したケガではなかったため、それだけで血が止まり、痛みも薄らぐ。


「キャインッ!」


 ここでとうとうホシカゲがボアの攻撃で吹っ飛ばされた。

 ひどいケガはしてないみたいだが、早く助けないとヤバい。


 俺は強い怒りに突き動かされ、ボアに駆け寄った。

 向こうもこちらに気づき、突進しようとする。

 そんなボアに突進するような形で、俺は渾身のライフルを放った。

 至近で放たれた不可視の弾丸が、見事にボアの目ン玉を貫き、絶命させた。


「ゼハーッ、ゼハーッ……や、やっと倒せた……そういえば、ヨシツネは?」


 今にもへたり込みそうな状況で振り返ると、ちょうどヨシツネがボアにとどめを刺すところだった。

 彼の剣がボアの首筋に突き刺さると、すぐに動かなくなる。

 それを確認したら、とうとう立っていられなくなり、その場にへたり込んでしまった。


 さらに、スザクが肩に停まった。


「大丈夫ですか~? 主様。本当に心配しましたよ~」

「ああ、なんとかな……そうだ、ホシカゲは?」


 ホシカゲに目をやると、彼が体を起こそうとしていた。

 俺はなんとか立ち上がり、彼の所まで行く。

 ケガの状況を確認すると、左肩から血が流れていた。

 慌ててポーションを取り出して塗ってやると、すぐに血が止まった。


「クウーン(ありがとうです)」

「ホシカゲこそありがとうな。お前が足止めしてくれなかったら、ヤバかったよ」


 するとヨシツネも合流してくる。


「大丈夫ですか? タツマ様。手間取ってしまってすみませんでした」

「いや、俺の傷は大したことなかったからいいよ。それにしても、こんな状態じゃあ、戦い方を見直さないといけないな」

「そうですね。仲間を増やすかどうかしないと、この先厳しそうです」

「だよな~。とりあえず今日はこのまま帰って、奴隷商でも覗いてみようか」


 3人ともボロボロだったので、魔石を回収してすぐに帰路に就いた。

 地上で魔石を換金すると、1個で銀貨4枚だ。

 あの強さでコボルドメイジと同じとは、ちょっと納得がいかない。


 それにしても、どうやって戦力を強化したもんかね。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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