18.使役リンク
みんなで念話が使えるようになってから、改めて2層深部を探索した。
ちょくちょくコボルドの集団が出てきたが、さほど苦戦することもなく着実に討伐数を増やしていく。
ホシカゲが先行するのは変わらなかったが、敵が出てきたら脇に避けるよう指示しておいた。
そのうえで俺が旋条銃でメイジの詠唱を邪魔し、ヨシツネが突っ込む。
ここで使役術によるみんなの連携が、想像以上の効果をもたらした。
はっきりと言葉にしなくても、互いの意図が分かるようになったからだ。
例えば、ヨシツネがリーダーに向かう途中に邪魔なコボルドがいれば、それを俺が排除する。
逆に狙撃したいのにヨシツネの体が邪魔なら彼が避けるなど、無言で連携できるようになったのだ。
まさに以心伝心て感じで、実に動きやすい。
それをホシカゲにも教えてやったら、彼の動きも変わった。
今までは勝手に走り回ったり、魔物を攻撃するだけだったのが、ヨシツネと連携できるようになったのだ。
もちろん俺もライフルで援護しているが、前衛同士で協力できるのは大きい。
あいにくとホシカゲはそれほど攻撃力は高くないが、コボルドぐらいなら十分に相手ができる。
ヨシツネも周辺が安全になり、前よりも早くリーダーを倒せるようになった。
こうして深部の半分くらいを探索した時点で、地上へ戻った。
外で魔石を精算すると、とうとう銀貨100枚を超えた。
1日で金貨相当を稼げるようになるとは、俺達も成長したもんだ。
あんまり嬉しかったんで、家に帰るとすぐにテッシンへ金貨1枚を進呈した。
「テッシンさん、これを受け取ってください」
「おいおい、金貨なんてどうしたんだい?」
「実は、今日初めて1日の稼ぎが金貨を超えたんです。ちょっと早いけど、来月の家賃てことで」
「凄いじゃないか! つい先日まで薬草採取ばかりだったというのに……ずいぶん頑張ってるみたいだな?」
「いいえ、これもヨシツネとホシカゲのおかげですよ。俺だけじゃ、絶対に無理ですから」
俺がそう言うと、ヨシツネが反論する。
「とんでもない。タツマ様の魔法も凄いですよ」
「タツマが魔法を? いつの間にか、魔法を習っていたのか?」
「い、いやぁ……なんて言うのかな。精霊術みたいな能力に目覚めたって感じです。魔術師ギルドとかは関係ないですよ」
俺が苦しい言い訳をすると、テッシンが疑わしそうな目で見てきた。
「そうか……別にお前がやましいことをしていなければ、それでいい。しかし、魔術師ギルドには気をつけるんだぞ」
「ええ、なるべく関わらないようにします」
テッシンがここまで神経質になるには理由がある。
魔術師ってのは、一般人にとっては大きなステータスだから、ギルドによって魔術の伝承は厳しく制限されているのだ。
もし別ルートで魔術が習得できるなんて話が広まったら、間違いなく目を付けられる。
そうなったら、どんな難癖をつけられるか分からない。
そんな連中とのお付き合いは、ごめんこうむりたいものだ。
「さあさあ、そんな話はやめてご飯にしましょ」
雰囲気が悪くなりかけたので、シズクが気を遣ってくれた。
ありがたくその流れに乗って、食卓に着いた。
最近は俺達が食材を買ってくるので、メニューが豪華になっている。
今日も美味しいご飯をたっぷりいただきました。
翌日は2層の深部に直行して、未踏部分を探索した。
ちょうど半日ぐらいで探索が完了したので、守護者部屋の前で昼食を取る。
「さーて、いよいよ守護者戦だな」
「ええ、コボルドリーダー2匹とメイジ4匹が出てくるんですよね」
「そうなんだ。しかもメイジも防具を着けてるんだって」
「6匹も出てきて、しかもメイジの防御力も高いとなると、この人数ではちょっと苦しいかも、ですね」
「そうだよな~。6人ですら、ああやって泊まり込みで攻略してる人たちがいるんだから」
今回は先客がいて、6人のパーティが扉の前で野営をしていた。
守護者部屋は出ようと思えばいつでも出れるので、ヤバくなったらさっさと脱出してくるのだ。
そして体を休めながら作戦を練り、再び挑戦して攻略を目指すのが一般的だったりする。
彼らからすれば、俺らなど自殺願望者にしか見えないだろう。
「俺達も1度くらいは様子を見て、脱出してもいいんじゃないですか」
「そうだな~。夕刻まで時間もあるから、様子見してみよっか」
そんな話をしていたら、スザクが割り込んできた。
「キャハハハハッ、とうとう私が役に立つ時がきたようですね~。もきゅもきゅ」
「なんだよ、スザク。何か作戦でもあるの?」
「私が上空から戦況を観察して、指示を出すんですよ~。もきゅもきゅ」
「それって、役に立つのか?」
「もちろんですよ~。主様も私のありがたみを実感するでしょ~。もきゅもきゅ」
「本当か?……まあ、どうせ様子見するつもりだからいいけど」
その後、少し食休みを取ってから守護者に挑もうとしたら、先客の冒険者にひやかされた。
「おいおい、2人と1匹で守護者戦なんて、なめすぎじゃないか?」
「ヒヒヒッ、ほっとけ。自分の体で思い知ればいいのさ」
「ちげーねー、ギャハハッ」
一見忠告しているようにも思えるが、明らかに俺たちを馬鹿にしている。
本当に無謀かどうか、見せてやろうじゃないか。
扉に触れて道が開くと、俺はサッサと踏み込んだ。
すると1層と同じように部屋が明るくなり、奥の方でコボルドが立ち上がるのが見えた。
噂どおり、メイジ4匹にリーダー2匹の組み合わせだ。
しかもメイジが革の鎧と兜を着けてるから、防御力が高い。
すぐにメイジが魔法の詠唱に入ったので、ライフルで邪魔をする。
同時にホシカゲはリーダーの1匹に、ヨシツネも残りのリーダーに駆け寄っていった。
そしてスザクは俺の肩を離れ、上空に舞い上がる。
とりあえずライフルの4連射で詠唱を止めようと思ったが、邪魔できたのは1匹だけだ。
普通なら大ダメージを与えるところを、防具に阻まれたのだ。
残りの3匹のメイジから石つぶてが放たれ、ホシカゲとヨシツネに降り注ぐ。
しかし、ホシカゲはそれを左右に飛び回ることで回避し、ヨシツネは左腕で頭を守りながら強引に突っきった。
石つぶてといっても、備えていれば耐えられるぐらいの威力しかないのだ。
俺が次はどいつを撃とうかと考えていたところに、スザクから指示が入った。
(主様、あれを先に潰してくださ~い)
その指示と同時に、スザクが上空から俯瞰しているイメージが俺に流れ込んできた。
それは俺の視覚情報よりも分かりやすく、狙うべき相手との位置関係が明確だった。
スザクが指示した獲物は、さっき俺が詠唱を止めた奴で、すでに新たな詠唱に入っていた。
すかさずそいつにライフルを放ったのだが、なぜか俺はそいつをヘッドショットできる気がした。
そして実際に弾が頭部に命中し、メイジが1撃で沈む。
すぐにスザクから新たな指示が届き、俺は新たな詠唱に入ったメイジを狙撃していった。
情報が補完されているせいか、狙撃の精度が妙に高まっている。
続けて2匹のメイジを仕留めたところで、最後のメイジから石の槍が放たれる。
その槍がリーダーと切り結んでいるヨシツネを横から襲う形になったのだが、彼はそれを見ていたかのように躱してみせた。
すかさず最後のメイジを仕留めると、ホシカゲが足止めしているリーダーを狙撃する。
さすがにリーダーはタフだったし、激しく動き回っていたので、仕留めるには至らない。
しかしホシカゲにケガをさせないぐらいの役には立ち、そのままリーダーを足止めできた。
そのうちにヨシツネが自分の相手を倒し、加勢に入ってくる。
こうなるともう一方的な展開で、大して手間は掛からなかった。
俺とホシカゲでリーダーの注意を引きつつ、ヨシツネが斬りこむ形で攻撃を重ねる。
やがて、最後に体勢の崩れたリーダーをヨシツネが討ち取り、戦闘が終わった。
息を切らせているヨシツネに歩み寄りながら、話しかける。
「お疲れ。リーダーを2匹とも仕留めるなんて、さすがはヨシツネだ」
「ハッ、ハッ、ハッ……それを、言うなら、メイジを、4匹も、仕留めた、タツマ様、の方が、上でしょう」
「そんなことないって。でも今回は狙撃がしやすかったな」
そう言うと、スザクが俺の肩に下りてきた。
「キャハハハハハッ、それは私のサポートによるものなんですよ~、主様」
「そうみたいだな。でもあれって、どういうこと?」
「私が上空からの観測情報を主様に伝えたため、より狙撃に集中できたのですよ~。これぞ愛の力~」
「お前が俺を愛していたとは知らなかったよ……まあ、たしかに安心して狙撃に集中できたのは事実だな。スザクが観測手を務めてくれたんだな」
「キャハハハハハッ、これも主様が使役術による連携を見い出したからこそなのですよ~。今後は私も戦闘に貢献できそうですね~」
「なるほど。この使役リンクとでもいう感覚は、まだまだ大きな可能性を秘めていそうだな。これからも、いろいろ試していこう」
「はい、これなら迷宮の攻略も進みそうですね」
「ワオン(僕も頑張るのです)」
その後、魔石を回収して3層へ降り、そこから地上へ戻った。
今日はメイジを多く狩ったので、魔石の精算額は銀貨80枚にもなった。
まだ日は高かったが、守護者戦を終えて疲れていたので、帰ることにした。
また良い食材でも買って、シズクに料理してもらおう。
美味いものを食い、ゆっくり休息を取ってから、また迷宮に挑めばいい。