17.コボルドメイジ
なんとか新魔法”旋条銃”をものにした俺は、再び迷宮の第2層に挑んだ。
序盤を探索し始めると、すぐにホシカゲが犬頭鬼を感知した。
(わふ、少し先にコボルドがいるです)
「了解。この先でコボルドが出るぞ」
「了解です」
少し進むと、コボルドが3匹出てきた。
こっちを見つけた途端に、吠えながら襲いかかってくる。
「ライフル、ライフル」
すかさずライフルを2連射すると、1発が見事にコボルドの頭を撃ち抜いて即死させた。
さらに隣の奴も狙うと、今度は胸に当たってやはり即死。
最後の1匹は、ヨシツネがすばやく駆け寄って仕留めた。
ヨシツネが振り返りながら言う。
「見事な威力ですね、タツマ様」
「うん、想像以上に使えるね。これでヨシツネに負担を掛けずにすむよ」
「キャハハッ、今のはちょっとカッコ良かったですよ~、主様」
(わふ、凄いのです~)
ライフルがちゃんと使える魔法でよかった。
スザクにすら褒められるんだから、俺の存在意義も捨てたもんじゃない。
その後も順調に探索が進み、コボルドを30匹ほど仕留めて昼食にした。
「もきゅもきゅ……たかがコボルドとはいえ、主様の方が多く狩れるようになったとは驚きですね~、もきゅもきゅ」
「ええ、本当に凄いですね。やはり遠距離から倒せるのがいい」
「ああ、俺もだいぶ慣れてきたよ」
「ハグハグ、バウ(カッコいいのです)」
スザクが言うように、俺とヨシツネの討伐比率が逆転していた。
遠距離から攻撃できるうえに、当たり所によっては即死なのだからそれも当然だ。
さらに言えば、慣れからくる射撃精度向上も大きかった。
おかげで序盤の探索はほぼ終わり、じきに中盤に入ろうかという勢いだ。
「でも次の中盤では犬頭鬼長が出てくるから、気を引き締めないとな」
「それはそんなに強いんですか?」
「うん、噂ではコボルドをふた回りほど大きくして、防具も着けてるんだって。しかもゴブリンリーダーより頭がいいってんだから、油断はできないよ」
「ふむ、それなら私の出番も増えそうですね」
ヨシツネが期待に目を輝かせる。
これまであまり活躍できてないってのもあるが、やはり彼は強敵と戦うのが好きなんだろう。
ちょっとした戦闘狂だ。
昼飯をすませて探索を再開すると、ホシカゲから警告が入った。
(わふ、コボルドがたくさんいるのです。あそこの陰に隠れてるのです)
「ふーん、待ち伏せか……ホシカゲが突っ込んでおびき出せないかな? ザコは俺がライフルで仕留めるよ。リーダーはヨシツネに任せる」
「お任せください」
(それじゃ行くのです)
ホシカゲが吠えながら敵の方に走り出すと、案の定コボルドが出てきた。
そこへ容赦なく俺がライフルを撃ち込むと、バタバタと2匹が倒れる。
さらに2匹のコボルドと、でかいリーダーが出てきたので、俺はザコに攻撃を集中した。
その横をヨシツネが滑らかに駆けていき、リーダーと斬り結ぶ。
コボルドリーダーは噂のとおり、胴体と頭に革の防具を着けていた。
さらに古ぼけた剣を右手に握っており、今までの魔物とはひと味もふた味も違う。
しかしそんなコボルドリーダーに、ヨシツネは嬉々として斬りかかる。
ゴブリンリーダーよりかなり強そうな敵も、彼にとっては大した脅威でないのだろう。
数合ほど剣を交えると、またもや上段から中段に構えを変化させ、いとも簡単に敵を討ち取ってしまった。
俺の方もザコの始末を終えてから、彼に合流する。
「さすがヨシツネ、コボルドリーダーも敵じゃないね」
「いいえ、タツマ様が周りを片付けてくれたので、楽に戦えたんですよ」
(カッコ良かったです、ご主人様)
「キャハハッ、主様はザコ狩りが得意ですからね~」
「ザコ狩り言うなっ!」
けっこう活躍しているはずの俺を、スザクがさらりとディスる。
いや、これは俺を調子に乗らせないための、彼女の愛だと思っておこう。
結局、コボルドリーダーも大したことないのが分かったので、その後も順調に探索は進む。
中盤を半分くらい探索したところでいい時間になったので、地上へ戻った。
外で魔石を精算すると、なんと銀貨90枚にもなった。
コボルドリーダーが1匹で銀貨3枚になるのが、実に美味しい。
いい稼ぎを得たので、帰り道に肉などの食材を買って帰った。
これをシズクに渡して、ちょっと豪華な夕食を作ってもらうのだ。
迷宮探索はハードな仕事だから、いっぱい食べなきゃね。
最近は食卓が充実して、テッシンも喜んでくれている。
翌日は中盤の未踏地域に直行して、探索を続行だ。
昨日と同じくらいのペースで回れたので、深部に入る前に昼食を取った。
「いよいよ深部だなあ。あんまりにもいいペースで進んでいて、怖いぐらいだ」
「そうですね。普通はどれくらいのペースで進むんですか?」
「鋼鉄級の冒険者6人で、3日ぐらい掛かるって話だな」
「それなら、俺たちと同じじゃないですか?」
「いや、普通は俺達みたいに全域を探索しないんだ。普通はまっすぐ守護者部屋を目指して、そこで野営しながら守護者を攻略するんだって」
「なるほど。普通はホシカゲみたいに魔物を感知できないから、移動にも時間が掛かるんでしょうね」
「そういうことみたい。俺たちはホシカゲのおかげで楽ができてるんだ。ありがとな」
そう言って頭を撫でてやると、ホシカゲが嬉しそうに尻尾を振る。
「もきゅもきゅ……しかし、この後は犬頭魔術師が出てくるのですよね~? 今までどおりには進まないのではないですか~?」
「うん、その可能性はあるね。奴らは魔法で遠隔攻撃をしてくるらしいからね」
「タツマ様のライフルがあれば、なんとかなるのではありませんか? 先にメイジを潰してもらえれば、あとは俺がなんとかしますよ」
「ん~、そうだね。でも新しい敵だから、気をつけていこうよ」
「はい」
「ワフン(頑張るです)」
昼食を終えて探索を再開すると、やがて敵発見の報告が入った。
やはり分岐点で待ち伏せをしているようだ。
「それじゃあ、またホシカゲが先行しておびき出してくれるか? 敵の魔法には気をつけるんだぞ」
「ウォン(了解です)」
またもやホシカゲが吠えながら走り出すと、コボルド4匹とリーダーが姿を現した。
コボルドの内2匹が杖らしきものを持っているので、あれがメイジなんだろう。
そいつらが杖をかかげて何やら呪文を唱えだしたので、こちらもライフルをぶっ放す。
まずメイジに当てて呪文を中止させたうえで、さらに追加で攻撃すると、そいつがぶっ倒れた。
それを見たコボルドが怒ってこちらへ向かってきたが、俺のライフルとヨシツネの剣で迎え撃つ。
結局、中盤と大して変わらないぐらいの時間で、制圧が終わった。
「フウッ。メイジも案外、大したことなかったな」
「いいえ、それはタツマ様がいたからでしょう。普通はけっこう苦労するでしょうね」
「そうかな? まあ、メイジの魔法も見てないから分からないか。次は魔法撃たせてみる?」
「そうですね、1度は見ておいてもいいでしょう」
そんな話をしながら魔石を回収すると、探索を再開した。
やがて新たな敵が見つかったので、またホシカゲが先行しておびき出す。
「ワウワウウォーン」
すると今度はメイジ4匹とリーダーが現れ、呪文を唱えだした。
慌ててライフルを放ったものの、2匹の詠唱を止めるのが精一杯だった。
残りのメイジの詠唱が終わると、無数の石のつぶてが飛んできた。
「キャインッ」
「ホシカゲ! くっそ、やりやがったな。ライフルッ、ライフルッ!」
先行していたホシカゲに石が当たり、彼が倒れた。
俺は頭に血がのぼって、ライフルを撃ちまくる。
魔力度外視で何発も撃ってやったら、すぐにメイジが倒れた。
リーダーは1匹で突っ込んできたが、いつもどおりヨシツネが片付ける。
俺はその間にホシカゲに駆け寄って、話しかける。
「大丈夫か? ホシカゲ」
「クウ~ン(面目ないのです~)」
幸い、すぐに起き上がったので大事はないようだ。
見た感じ、傷も無い。
「どこに当たったんだ?」
「ワフン、ウォン(頭にくらったのです。油断したです)」
「そうだな。まさか、メイジが4匹も出てくるとは思わなかった」
「ホシカゲは大丈夫ですか?」
リーダーを片付けたヨシツネが近寄ってきたので、状況を説明した。
「そうですか。なら大丈夫ですね。それにしても、ちょっと油断しましたね」
「そうだね。前回が上手くいったからって、調子に乗らないようにしないと」
「ところで、俺もホシカゲと意思疎通できるようになりませんかね?」
ふいにヨシツネがそんなことを言いだした。
「ヨシツネもホシカゲと話したいってことね。できるならそうしたいけど、どうなの? スザク」
「保証はできませんが、主様がヨシツネと使役契約を交わせばいいのではありませんか~」
「すでに隷属魔法が掛かってるのに、使役契約なんかしていいの?」
「ヨシツネが了承すれば問題ないはずですよ~。隷属魔法よりも、主様の使役術の方が上位になると思いますが~」
「ふーん……という話なんだけど、どうする?」
「俺はすでに、タツマ様に忠誠を捧げると決めているので問題ありません。やってください」
「そうか……それなら、契約してみようか。ちょっと頭下げてくれる?」
ヨシツネが下げた頭に左手を当て、使役術を行使した。
『契約』と唱えると、ヨシツネから了承の反応があり、即座に契約が成立する。
念話でヨシツネに話しかけてみた。
(念話が伝わる? ヨシツネ)
(ウォッ……なるほど、これが念話ですか)
(そうだよ。ホシカゲにも話しかけてみて)
(了解です。ホシカゲ、聞こえるか? ヨシツネだ)
(わふ、ちゃんと聞こえるのです。これからよろしくです)
(これで全員、念話が使えるようになりましたね~。念話は対象を思い浮かべれば、何人でもいけるから便利ですよ~)
(へー、敵に気づかれずに作戦を立てたりするのに便利そうだね)
スザクの言ったとおり、ヨシツネと使役契約をしたら念話が使えるようになった。
これなら声を出さずにパーティ内で相談できて、探索にも便利そうだ。
何より、また仲間同士の絆が深まった気がするな。