16.ライフル
1層を突破した翌日、俺達はさっそく2層へ潜った。
2層も全て探索するつもりだから、まずは分岐を左側へ進む。
やがてホシカゲが新たな敵を発見した。
さらに進むと、予想どおり犬頭鬼に出くわした。
コボルドってのは、犬の頭を持った人型の魔物で、体中毛むくじゃらな狼男みたいな奴だ。
ただし、ゴブリンと同じぐらいの背丈で3頭身なので、ずんぐりした魔物だな。
「アオーン、バウバウッ!」
そんな奴らが3匹、こん棒を振り上げて迫ってきた。
すぐさまヨシツネがそれを迎え撃ち、俺はその後ろから熱弾で援護する。
ホシカゲも走り回ってコボルドを牽制し、ヨシツネが囲まれないようにしている。
しかしコボルドはゴブリンソルジャーよりも強いらしく、ヨシツネも1撃では倒せない。
俺のしょぼいヒートも毛皮に遮られてか、ほとんど効いていなかった。
そのうち、俺に目を付けた1匹がこっちに向かってきやがった。
ベロを垂らし、牙をむき出しながら迫るコボルドを間近で見るのは、かなり怖いものがある。
俺は怖気づきそうになる自分を叱咤して、槍で迎え撃った。
さすがにコボルドも槍を突きつけられると、多少は警戒する。
やがて焦れてこん棒を振り回したコボルドの脇腹に、槍を突き刺した。
「ガーッ! ギュアーッ!」
脇腹に槍を刺したままコボルドが暴れ回る。
槍を掴んで俺を振り回そうとしたので、こちらも負けじと槍をねじり、さらに突っこんでやった。
すると奴が膝を着いたので、槍から手を離し、腰に付けていたメイスで頭部を殴ることで、ようやく仕留められた。
「ハアッハアッ……すげー、馬鹿力、だったな」
荒く息をつきながら周りを見ると、すでに2匹を仕留めたヨシツネがこっちを見ていた。
「お見事です、タツマ様」
「見事って言ったって、ハアッハアッ……けっこう手こずった、けどな。ハアッハアッ」
「初めての敵で、それだけやれれば十分ですよ」
「フーッ……ヨシツネは2匹倒しても、息ひとつ乱してないじゃん」
「まあ、俺は経験ありますから」
ヨシツネは大したことないと言わんばかりに、肩を竦めてみせる。
「ま、ヨシツネと張り合っても仕方ないか。でも、もっと効率的に戦う方法は無いもんかな?」
「うーん、そうですね……もっと槍の扱いに習熟して、的確に突けるようになるしかないと思いますが」
「それができれば苦労はないよ。まだまだ先は長そうだな」
するとスザクから提案があった。
「それなら、魔法を強化すればいいのではないですか~」
「魔法を強化って、どうやって?」
「主様の強化度が上がってるので、魔力や制御能力も上がっているはずですよ~。また練習すれば、新たな魔法が使えるかもしれませんね~」
「へー、肉体強化って筋力が上がるだけじゃないんだ?」
「そうですよ~。魔力や感覚なども上昇するので~す」
「ああ、それは俺も感じますね。そうか、感覚も鋭くなっているのか。凄い恩恵ですね、スサノオの加護は」
ヨシツネが、なるほどという表情で納得している。
俺には感じられないんだが、やはり戦ってる領域が違うんだろうか。
「ま、まあ、それなら今日はほどほどに流しておいて、明日は外で魔法の練習をしようか」
「ええ、それがいいでしょう」
その後は慎重に探索を続けた。
ホシカゲのおかげで不意打ちをくらうことはないし、数が多い場合も避けた。
3~4匹の群れだけを狙い撃ちにして、コボルドを狩り続ける。
結局、それほど探索も進まず、倒せたのも22匹だけだった。
しかし、コボルドの魔石は2個で銀貨3枚なので、合計で33枚になった。
2層初日としてはこんなものだろう。
翌日は予定どおり、薬草の採れる森へ行って魔法の練習をした。
「さて、練習するといっても、どうしたもんかね?」
「以前、主様がやろうとしていた方法はいかがですか~。弾の先端を尖らせ、より硬くしてみてくださ~い」
「そうだな。それで試してみようか。ちゃんと成長してるといいんだけど」
俺は左手を前にかざし、弾の形を思い浮かべた。
やはり殺傷能力を上げるなら、ライフル弾みたいに先細りにするべきだろう。
とりあえず火属性を込めるのはやめておいて、無属性魔法で硬い弾を作り出す。
やがてそれらしき弾を撃ち出せたものの、目標の木からは大きく外れた。
「ありゃ、それらしい弾はできたけど、命中精度が悪いな。うーん、銃身を形成してライフリングを入れてみるか……」
スザクに指摘されたように、俺の能力はいくらか向上していた。
おかげで弾丸はほぼイメージどおりに形成できたのに、まっすぐ飛んでいかない。
考えてみれば、弾を後ろから突いてるだけでは、弾道が安定するはずもないだろう。
見た感じ、弾の実体化が進んで空気抵抗も受けやすくなってるようだ。
そうなると、ライフリングを入れた銃身を形成して、弾に回転を与えてやりたいところだ。
ジャイロ効果によって、弾の直進性が増すからな。
俺はうんうん唸りながら、必死でライフリングを刻んだ銃身をイメージし、そこから弾の発射を試みた。
最初は銃身が上手く作れなかったり、弾の大きさが合わなかったりと、いろいろ苦労した。
しかし試行錯誤の結果、手頃な組み合わせを見つけ出す。
その組み合わせで撃った弾は、今までにないくらいの反動と引き換えに、凄い勢いを叩き出した。
そしてそれは、的にしていた木をえぐってみせたのだ。
「凄いのです、主様。今までのへなちょこ弾とは大違いですよ~」
「へなちょこ言うなっ!」
(わふ、カッコいいのです、ご主人様)
「うーん、この威力なら、コボルドも1撃でいけそうですね」
相変わらずスザクの言いようはひどいが、新型魔法は好評だ。
俺はこの魔法を”旋条銃”と名付けた。
その後は繰り返しライフルを撃って速射性を高め、魔力が尽きると槍の練習をした。
ちなみにヨシツネが、自分にライフルを撃ってくれと言ったので、恐る恐る撃ったら剣で弾き返された。
これ、前世のピストルと同じぐらいの初速あると思うんだけどな。
達人すぎるだろう、ヨシツネ。
逆に言うと、勘のいい敵には通じないってことだから、まだまだ油断は禁物だ。
さらに、距離が遠すぎると弾丸が実体を保てないので、長距離狙撃は無理。
まともに使えるのは、せいぜい20mくらいじゃなかろうか。
まあ、さらなる練習や強化度アップで、その辺の底上げはできると思う。
こうしてなんとか新型魔法に目処を付け、いくらか薬草を採取して家に帰った。
さて、これで2層の探索は進むだろうか?