15.守護者戦
しっかり槍の訓練をした翌日、さっそく迷宮へ潜ってみた。
それで初めて槍でゴブリンと戦ってみたんだが、思った以上に上手くいった。
熱弾で怯ませたところに、ブスリと突き刺せば1撃だ。
メイスより間合いも取れるから、より安全に戦えるようになった。
これならソルジャーも余裕かと思ったんだが、それはちょっと甘すぎた。
あいつらタフだから、当たり所が悪いと1撃じゃ倒せないんだよね。
しかも槍が刺さって抜けないので、結局メイスで戦ってたりして。
「ハアッハアッハアッ……くそっ、死ぬかと、思った」
「まだ槍を使い始めたばかりですから、過信は禁物ですよ。もっと慣れれば的確な攻撃をできるようになります」
「キャハハハハハッ、ちょっと上手くいったからって、調子に乗っちゃ駄目ですよ~」
スザクの言いようにイラッとしたが、言い返せないのが悔しい。
俺って、なんでこんなに弱いのかね。
普通、転生者ってチート能力もらって余裕なんじゃないの?
俺の転生ライフはハードモードってか。
そんなことを考えながら深部に到達し、残りの未踏部分を探索する。
今日もゾロゾロとソルジャーやアーチャーが出てきた。
昨日と同じようにヨシツネが先行しておびき出し、俺とホシカゲが乱入するパターンで対処した。
さすがに何回もやってると槍の扱いにも慣れるもので、ソルジャーでも素早く倒せるようになってきた。
もちろんアーチャーなんて余裕。
おかげでとうとう深部の探索は完了し、守護者部屋の前に来ていた。
「どうしますか? タツマ様」
「うーん、1層の守護者は緑小鬼長にソルジャー2匹とアーチャー2匹のチームだったよね。今の俺達でやれるかな?」
「リーダーはどれぐらい強いんですか?」
「聞いた話だと、ソルジャー2匹分に相当するらしいよ。まあ単純に比較はできないだろうけど」
そう言うと、ヨシツネがしばらく考えてから提案してきた。
「ホシカゲがリーダーを押さえている間に、我々で残りを片付ける手はどうでしょう? そのうえで、リーダーは俺が倒しますよ」
「うーん、やれるか? ホシカゲ」
「ワフ、ワン(わふ、やれるです)」
「やれるってさ……守護者を倒せば、入り口まで歩いて帰らずにすむから、やってみようか」
「ええ。たぶん大丈夫ですよ」
こうして俺達は、初めての守護者戦に挑むことになった。
石の扉の前に立つと、扉の表面に手の形が描かれており、そこに手を当てると扉が右にスライドして開いた。
その先には大きな空間が広がっているようだが、暗くてよく見えない。
ゴクリとつばを飲み込んでからヨシツネに目を向けると、彼が頷いたのでそのまま部屋に踏み込む。
ヨシツネとホシカゲも入ってくると部屋の中が明るくなり、背後で扉が閉まった。
聞いた話では、扉が閉まった後でもその表面に手を触れれば、また開いて外に出られるそうだ。
明るくなった部屋の奥で、座っていたゴブリン達が立ち上がる。
そいつらはソルジャー2匹とアーチャー2匹に加え、一際体の大きなゴブリンがいた。
ヨシツネと同じくらいの背を持つそいつが、ゴブリンリーダーなのだろう。
その手にはボロそうな剣が握られている。
ゴブリンズは不敵に笑いながら、こちらへ近付いてきた。
互いの距離が20歩ほどに近付くと、アーチャーが弓を構える。
そこで俺は左手を突き出しながら、指示を出した。
「走れ、ホシカゲ。ヒート!」
「バウバウウォーン」
アーチャーに向けてヒートを放つと同時に、ヨシツネも駆けだした。
そしてアーチャーが怯んでる隙に、俺もソルジャーに向かって走る。
その先でヨシツネがソルジャーを1刀の元に斬り伏せ、さらにアーチャーに向かう。
俺はもう1匹のソルジャーにヒートを放ち、そいつに槍を突き出した。
ヒートで動きの止まったソルジャーの胸に、槍の穂先が突き刺さる。
しかし浅い。
俺はすかさずそれを引き抜いて、今度は頭部に打撃を放った。
上手いこと槍の柄が頭部に当たり、ソルジャーが昏倒する。
さらに心臓あたりに突き刺すと、ようやくそいつは動かなくなった。
周りを見てみると、すでにリーダー以外はヨシツネに倒されている。
それまでリーダーを牽制していたホシカゲが退き、今度はヨシツネとゴブリンリーダーが向かい合った。
リーダーにも、ヨシツネの手強さが分かるのだろう。
彼以外には目もくれず、剣を構えている。
しばしの沈黙の後、彼らが切り結んだ。
ガツンガツンと剣が打ち合わされ、再び距離を取る。
意外にリーダーが強いのかと思ったが、ヨシツネの表情にはまだまだ余裕があった。
彼が再び斬りかかると、リーダーがそれを迎え撃つ。
しかしヨシツネは上段からの剣を中段に変化させ、すれ違いざまにリーダーの腹を切り裂いた。
「グフォッ」
ゴブリンリーダーが血を吐いて倒れ、そのまま動かなくなる。
「ケガはなかった? ヨシツネ」
「はい、少し様子を見ていましたが、あの程度なら造作もありません」
そう言って剣の血を拭き取るヨシツネの様子は、本当になんでもなさそうだった。
実に頼もしい男だ。
互いの無事を確認し、魔石を取ろうとゴブリンズに近寄ったら、その遺骸が霞のように消え去る。
その後には魔石だけが残されていた。
挑戦者の多い守護者部屋では、遺骸が消え去るのが早いって噂は本当だったんだな。
次の挑戦者を待たせないための仕組みなんだろう。
俺達は魔石を回収すると、守護者部屋の奥の扉の周りに集まった。
扉の近くに石の台座と水晶があり、守護者を倒してからこれに触れると、1層突破の記録がギルドカードに残される。
この証を手に入れた冒険者は、迷宮入り口から2層入り口までショートカットが可能になるって寸法だ。
俺とヨシツネが順に水晶に触れると、扉が開いて下に降りる階段が現れた。
その階段を降りると、1層の入り口と同じような部屋があり、やはり真ん中に水晶が設置されている。
この水晶に手を当てて台座に書いてある呪文を唱えれば、1層入り口へ戻れるらしい。
ちなみに、入り口からここに転移して深部に戻ることも可能だ。
もしゴブリンアーチャーと戦いたければ、わざわざ序盤、中盤を歩かなくても対面できるわけだな。
そんなことをするつもりは、全くないが。
入り口に転移して外に出ると、すぐに魔石を換金した。
ゴブリンリーダーの魔石は銀貨2枚で、その他と合計すると銀貨50枚を超えた。
2人と1匹のパーティにしては立派な稼ぎだろう。
それから冒険者ギルドへ行って、実績ポイントを精算した。
コトハにカードを提出すると、内容を確認した彼女が嬉しそうに言う。
「あら、凄いじゃない。もう1層を突破したのね」
「ええ、しょせんゴブリン相手ですけどね」
「そんなことないわよ。ゴブリンリーダーの率いる群れを倒すには、普通5、6人で掛かるのよ。それを2人と1匹で突破するなんて、けっこう優秀よ」
「まあ、それもヨシツネのおかげなんですけどね」
「ウフフ、そうみたいね。ヨシツネさんも、もう青銅よ。この分なら、2人とも2層を探索するうちに鋼鉄になれそうね。でも無理はしないで」
「それはもう。俺は安全第一ですから」
大真面目でそう言ったら、苦笑しながらコトハに返された。
「本当の安全主義者は迷宮なんかに潜らないわよ」
「アハハッ、それもそうですね」
ちなみに俺とヨシツネの強化度が5%になっていた。
やっぱり迷宮内で戦闘すると、強化度が上がりやすい。
ただし、本当に肉体が強化されるのは、1晩寝た後になるそうだ。
家に帰りながら、明日の話をする。
「さて、明日からは2層だね。2層からはもっと稼げるらしいから、徐々に装備を更新していこう」
「ええ。2層はどんな魔物が出るのですか?」
「えーと、たしか犬頭鬼、犬頭鬼長、犬頭魔術師のはず。コボルドメイジってのは、魔法を使うらしいね」
「それは手強そうですね。それぞれの特徴はもう調べてあるのですか?」
「うん、とりあえず3層までは調べてある。それ以降はまた情報収集が必要だけど」
「さすがですね。そう言えば、地図はどうします?」
「買うよ。たしか銀貨4枚だったはずだ」
「それなら買った方がいいでしょう。ところで、ここの迷宮はどこまで探索されているのですか?」
「えーと、たしか6層ぐらいじゃなかったかな」
「まだまた先は長いですね」
そのとおり、まだまだ先は長いのだ。