エピローグ
シナノ国が表舞台に躍り出てから約1年、その人口は15万人を超えた。
産業も順調に発展していて、経済は絶好調だ。
そして今、俺たちは新たなステージに立とうとしていた。
我が国の首都スワ。
その行政府前広場に、大勢の人間が集まっていた。
そして正面に設置されたステージ上には、様々な種族の代表者が並んでいる。
やがてウンケイが、音声拡散の魔道具で喋りだした。
「それでは皆さん。只今から、シナノ共和国の樹立宣言と、タツマ王の戴冠式を執り行います」
民衆から盛大な歓声が上がった。
そんな中、竜人族の巫女 サクヤが前に進み出て、宣言をする。
「竜人族代表 サクヤじゃ。様々な障害を乗り越え、シナノ国は生き残った。そしてよりよい国を造るため、今ここにシナノ共和国の樹立を宣言する」
再び会場が歓声の嵐に包まれる。
すると会場の周囲に仕掛けられた花火が上がり、民衆の気分をさらに盛り上げた。
そんな喧騒の中で、あらかじめ準備されていた建国宣言書に、各種族の代表がサインを入れていく。
その作業がひととおり済むと、またウンケイが告げた。
「それでは建国の祖 タツマ様が国王となるに当たり、スザク様より王冠の授与をしていただきます」
するとステージ中央へ舞い上がったスザクが霊鳥の姿を取り、優雅に舞い降りた。
俺が彼女の前へ進み出ると、カンベエが捧げ持った王冠を、スザクがその翼で持ち上げ、俺の頭上に載せた。
それと同時に、また爆発的な拍手と歓声が沸き起こった。
本当は恥ずかしくて逃げ出したい気持ちを必死に押さえ込み、俺はステージの最前列へ進み出る。
するとマイクのような魔道具が目の前に用意された。
俺は民衆に静まるように手振りで指示をし、ある程度鎮まったところで喋り始める。
「ありがとう、みんな。思えば5年前、俺は四神の力を手に入れてから、この地で建国を目指した。このヒノモトで最強であろう力を手に入れた者として、何かを成したかったからだ」
また歓声が爆発する。
「それから今日まで、必死で走り続けてきた。その間、たくさんの人を救ったとは思うけど、救えなかった命もある。そして1年前の戦争では多くの犠牲者を出し、同時に多くの敵兵士も死なせた」
残念そうな顔でそう言うと、不満の声が上がった。
「おそらく多くの者は、それは人族の自業自得だと言うだろう。たしかにそうかもしれない。だけど、この国に侵攻してきた兵士が全て悪人だったとは思わない。それぞれに家族もあり、生活がある人たちだったのだ」
ここで少し間を置く。
「俺が言いたいのは、たとえ個々には善良な人々であっても、時には侵略者になってしまうということだ。人族に限らず、俺たちはいろんなしがらみとか感情に捉われているから。だから極一部の人間に、国の全てを任せてはいけない。そのための共和制だ」
それを肯定する声が上がる。
「もちろん、この制度が完璧だとは思わない。どんな組織も時が経てば腐るし、人は欲望から逃れられない。しかし、この建国の思想を少しでも長く受け継ぎ、よりよい生活を守っていきたいと思う。だからみんな、明日からはまた気を引き締めて欲しい。そしてもっと多くの同胞を救い出そう」
再び歓声の爆発。
「でもみんな、人族を憎むだけの存在にはならないで欲しい。今はまだ許せないかもしれないけど、少しずつでもいい。俺たちも変わっていこう。実は今、月心教を通して、少数民族への偏見を無くそうとしている。まだまだ時間は掛かるだろうけど、偏見は消せる。だけど、その時に俺たちが憎しみに凝り固まっていては、前に進めない。だから許す心を持とう。そして、互いに歩み寄ろうじゃないか。その先には、きっと素晴らしい未来がある。このヒノモトの民全てが、笑い合える世界が」
いつしか、会場は静まり返っていた。
「もちろんそんな理想ばかり追っていたら、また攻められるかもしれない。だから、まずは自分たちの国を守ろう。このシナノの大地は、どんな種族も平等に暮らせる楽園だ。この地を守ってこそ、よりよい未来が訪れるんだ」
”そうだ、守ろう”という少数の声が聞こえた。
「これからは全ての少数民族にとって、このシナノ共和国が祖国となる。ようこそ、祖国へ。そして、みんなでこの国を、さらに盛り立てていこう」
俺が両手を広げてそう宣言した途端、広場が熱狂に包まれた。
全ての民衆が国と俺の名前を呼び、万歳と叫ぶ。
少なくとも今この瞬間だけは、国民が一体になった。
そう信じたい。
その日、俺たちはいろいろなイベントをこなしてから、ようやく深夜に我が家へ戻った。
「ふあーっ、疲れたなぁ」
「本当ね。私もクタクタ」
「王妃の仕事も楽じゃないのですぅ」
あちこち引っ張り回された俺とアヤメ、ササミは疲労困憊だ。
そんな俺たちを、ヨシツネやベンケイが微笑ましそうに見守っている。
すぐに絹服妖精のシズカが、お茶を出してくれた。
「ありがとう、シズカ」
「ん、お疲れさま」
酔い覚ましにお茶をすすっていたら、スザクが話しかけてきた。
「いよいよ国王になりましたね~、主様。今後はどうするのですか~?」
「どうするって、別に今までと変わらないよ。可能であれば共和会議に仕事を押し付けて、ベンケイと技術開発をしたり、旅をしたいとは思うけど」
「ハッハッハ、それは楽しそうですな。しかし、まだまだタツマ様の力は必要でしょう」
さりげなく願望を語ったが、ベンケイに釘を差されてしまった。
しかし、共和国に体制を変更するに当たって、権力を分散することになったから、俺の願望も夢物語ではないはずだ。
すると、今度はヨシツネが願望を語り始めた。
「しばらくは共和国の足元固めに専念するべきでしょうね。そして国力が十分に増したら、他国を征服しましょう。ヒノモトの大地を統一するんです」
「ブハッ……メチャクチャ言うなぁ、ヨシツネ。俺はそんな面倒なこと、やらないからな」
あまりに過激な提案に、お茶を吹き出してしまった。
しかし、周りの人間はそれほど悪いとは思っていないらしい。
「ヒノモトの大地の統一ですか。それはちょっとそそられますね。神々を除けば、誰も成し遂げていない偉業です」
「こらこら、ウンケイまであおるんじゃない」
ウンケイまで悪乗りしだしたので窘めたら、他のみんなも好きなことを言いだした。
「あら、それによって皆が幸せになれるなら、いいんじゃないかしら」
「そしたら私はこの地で2番目に尊い女性? ふわぁ、ロマンチックなのですぅ」
「タツマ様になら、それも可能ではないですかな」
「それくらいやってこその主様ですね~」
「男だったら、それぐらい考えなくてどうするよ、タツマ」
「主がやると言うのなら、我は協力するぞ」
「フォッフォッフォ、さすがは四神を従える英雄ですなあ」
「ん、タツマはそれくらいやるべき」
「もしできたら、カッコいいよ、タツマ」
「ワフ、ワオーン(わふ、さすがご主人様なのです)」
「クルルルルーッ(やっちゃいましょうよ、ご主人様)」
こいつら、好きなこと言いやがって。
アホらしいので放っておいたが、その後もしばらくヒノモト征服計画が話し合われていた。
そんなことは勝手に言ってろってんだ。
せっかく異世界に転生して、国を作ったんだ。
この国が安定している間に、好きなことを楽しまなきゃな。
国のことは官僚と、共和会議に任せときゃいい。
俺は……そうだな。
このヒノモトの地を旅して、いろんな物を見て歩きたい。
美味い食い物とか、この国を豊かにする物が、もっと見つかるかもしれない。
うん、これなら堂々と国を出て歩き回れるな。
そう、国のためなんだ。
迫害されてる少数民族がいれば、この国に勧誘すればいいし、まだまだやることはいっぱいだ。
こうしてはいられない。
さっそく明日から、脱出計画を練ろう。
そしてもっともっと異世界生活を、満喫してやるのだ。
完
以上で完結となります。
無事にここまで書ききれたのも、本作を応援してくれた皆さまのおかげです。
本当にありがとうございました。
ところで、ほぼ予定どおりに完結した本作ですが、終盤を書いていて思いました。
”あれ、これって続編書けるんじゃね?”
今、頭の中にある構想はこうです。
”数年後、シナノ共和国を軌道に乗せたタツマは、諸国を漫遊していた。
しかしそんな折、海外の不穏な動きを察知したタツマは、またまた強敵に立ち向かうことに”
まだプロット書いてないので確約はできませんが、”俺の周りは聖獣ばかり2”みたいな感じで始めようかと。
ただし当面は他の作品を改稿しながら、のんびりプロットを練る予定なので、少し時間をいただきます。
投稿する時はこちらでも告知させてもらうので、ブクマを外さないでいてもらえると幸いです。
今後も拙作をよろしくお願いします。