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106.国交樹立

 散々、カイ国の外交官を脅して帰してから、1週間後にようやく戻ってきた。

 首都と辺境を行き来する時間が掛かるとはいえ、けっこうな時間だ。

 しかし、再び会った外交官の態度は大きく変わっていた。

 俺たちの要求をほとんど飲む形になっていたのだ。


「これはまた、ずいぶんと気前が良くなりましたね」

「はい、判明した事実を伝えると、国主様を始め、我が国の重鎮も理解を示してくれました。それに賠償金を捕虜交換の中に紛れ込ませる配慮にも、甚く感銘しておりました…………ところで……」


 ウンケイの問いかけに愛想よく答えるカンスケだったが、まだ何か言いたそうにしている。


「ところで、なんですか?」

「はい……実はこの件について国主様に報告した直後に、異変が起きたのです」

「ほう、どのような異変でしょうか?」

「それが、国主様のお屋敷にあるひと抱えほどの岩が突然、粉々に砕け散ったのです。それはもう、大きな音を立てて」

「なんと、そのようなことが起こり得るのですか? なにやらカイ国は、物騒な所なのですねぇ」


 しれっとカイ国をけなすウンケイを、カンスケが恨めしそうに睨み返した。

 そして遠慮がちに問いかけてくる。


「そのう……あの事件は貴国の仕業ではないのですか?」

「いやいや、何を証拠にそのようなことを仰られるのですか。言いがかりを付けられては困りますな」


 白々しくウンケイが否定したが、大嘘だ。

 実はカンスケが国主のシンゲンに報告した際、最初は”そんな要求は呑めない、戦争だ”と吹き上がっていたらしいのだ。

 それを忍者の報告で察知した俺は、スザクにゴクウを付けて送り出してやった。


 そして夜の闇とゴクウの魔法で隠蔽されたスザクが、国主邸の庭に火の弾をぶち込んだ。

 ケガ人とかは出なかったが、カイの国主邸は一時、大騒ぎになったそうだ。

 そしてこれに身の危険を感じたシンゲンが、一気に低姿勢に転じてきたってのが真相だ。

 四神をおおっぴらに使うつもりはないが、これぐらいの脅しはあってもいいだろう。

 なんてったって、我が国で略奪をするため、大軍を送り込んできたような国だからな。


 その後も疑わし気にしているカンスケを尻目に、捕虜交換の交渉を進めた。

 そしてカイ国の懐具合をかんがみて、捕虜2万人と奴隷2万7千人を交換することで落ち着いた。

 俺たちの完全勝利だ。


 ついでにこの際なので、国境線についても確定しておいた。

 カイとシナノの国境付近の地図を提示し、国境線の情報を確認し合ったのだ。

 川とか山などを目印にしてるから、基本的に本来あるべき国境線と変わらない。

 魔境外縁部は魔物が多くて人族は支配しきれていないのだが、こちらから余分な領土は、あえて取らないようにした。

 そんなことをしなくても土地はいっぱい余ってるし、国境からこっちには手を出すなって釘を刺すのが目的だからだ。



 こうしてカイ国との交渉を進めつつ、ミカワおよびスルガ・トオトウミとも交渉を進めた。

 こちらも両国に書状を送って、カイまで外交官を派遣させた。

 そして捕虜と話をさせたり、カイ国の関係者からも事情を聞かせることで、彼らは敗戦を認識した。


 そして彼らはその情報を母国に持ち帰り、上層部と話をする。

 当然、母国の連中はなかなか信じなかったから、またまたスザクにイタズラしてもらった。

 これでようやく聞き分けのよくなったモトヤスとヨシモトが、渋々取引きに応じたようだ。

 結局、3国とも捕虜を、1.5倍ほどの奴隷と交換することで落ち着いた。

 我が国が手に入れた奴隷は、合わせて2万2千人といったところだ。


 もちろん国境も確定し、あくまでも表面的にだが、友好条約も交わすことができた。

 まあ、当面は敵視されるだろうけどな。





「完全勝利を祝って、カンパーイ!」


 ようやく全ての国との交渉が終わり、自宅でお祝いをした。

 メンバーは四神の他に、ヨシツネ、ベンケイ、アヤメ、ササミ、ウンケイ、ホシカゲ、トモエ、ゴクウ、ニカ、シズカだ。

 久しぶりの家族水入らずって感じだ。


「プハーッ、いい気分ですね」

「うん、一時はどうなるかと思ったけど、ようやくひと息つけるよ」

「アハハッ、そうは言っても、また国民が一気に増えるんですよね」

「そうなんだよな~。でも行政機構も整ってきたから、なんとかなるんじゃない?」


 過去に移民を大量受け入れした時のデスマーチが、頭をよぎる。

 あん時は大変だった。

 しかし、今は孤児出身の官僚も育ってきたし、エルフ系職員も増えたので、以前ほどではないだろう。


「しかし、たとえ友好条約を結んだとはいえ、人族の国家は油断できませんよね?」

「うん、もちろん。だから俺たちも少し変わろうと思うんだ」


 ヨシツネの質問に、俺は何気なく答えた。

 するとベンケイがそれに反応する。


「変わる、とは、どのようにですかな?」

「うん、今はもう、俺たちの存在を知られたわけだろう? だからさ、今後は引きこもるんじゃなくて、堂々と付き合っていこうと思うんだ」

「ほほう。すると、カイ国につながる街道も整備するのですかな?」

「そうそう。そして国境沿いに町を築いて、大々的に交易をしようと思うんだ。外交官が駐在する場所なんかを、そこに作ってもいいな」


 そしたらササミが話に割り込んできた。


「エーッ、そんなことしたら、また軍隊が攻めてきませんかぁ? なんか怖いですぅ」

「もちろんそのための対策はするさ。町はガチガチに城壁で固めて、兵も常駐させるし、基本的に国民以外はこっちに入れないようにする」

「うーん、そんなんで大丈夫ですかぁ」

「大丈夫だって。万一、軍隊が攻めてきても、事前に察知する仕組みも作るからね」


 なんとなく不安そうなササミを、今度はアヤメが諭す。


「事前に備えておけば大丈夫よ。でもそうすると、今後の交易相手はカイ国が中心になるのかしら?」

「いいえ、それだと弱みを握られかねないので、オワリ国とも交易しますよ」


 ここでウンケイも話に加わってきた。

 この辺の話は、基本的にウンケイと相談しながら方針を決めてあるのだ。


「え、でも例の通路はおおっぴらにできないから、物量は限られますよね?」

「そこで南の国境沿いにも町を作るんですよ。そこからミノ国を通って、オワリにつながる道を整備します」

「へー。そうすると、南の国境まで道を通すんですね。でもそれって、凄く大変じゃない?」

「いや、それは必要ない。ゲンブの空間魔法でこことつなげればいいからな」

「あっ、そうか」


 そう言うと、他の連中も納得していた。

 俺が考えているのは、昔の日本でいう中山道を作ることだ。

 ただし日本でいう南木曽の辺りに町は作るが、首都までの道は作らない。

 首都とは、亜空間通路でつなげちまえばいいからだ。

 そうすれば敵の侵攻も心配しなくていいしな。


 そして南木曽から向こうでは、ミノ、ミカワ、オワリの3ヶ国を巻き込んで街道を整備する。

 ついでに関税もゼロか低率にして、商業を活性化させるつもりだ。

 たぶんノブナガはこの話に乗ってくるから、共同してミノ、ミカワの国主を抱き込めばいい。

 もし誰かが渋るのなら、そいつの家の庭石が爆発するだけだ、クックック。


「うーむ、なるほど。西と東で交易と外交の窓口を作るわけですな。それならば、この国の発展がますます加速しますな」

「そうそう、人もどんどん増やすし、産業振興も奨励する。ベンケイたちの仕事も増えるから、頑張ってもらわないとね」

「ハッハッハ、まあそれは同胞に頑張ってもらうとして、ますますにぎやかになりそうですなあ」

「本当ですね。最初はここにいる者だけで始まったのに、嘘みたいです」


 ベンケイの言葉に、ヨシツネも感慨深そうに頷く。


「ホッホッホ、ところで主殿。国の形は変えぬのですかな? ほれ、共和国とかなんとか言っておったと思いますが」

「うん、よく覚えてたね、ゲンブ。そうだなあ、そろそろ共和制に向けて仕組みを整えていきたいな。そして俺は、国主をやめてのんびり暮らすんだ」

「「イヤイヤイヤッ!」」


 国主から逃れる願望を口にしたら、みんなからダメ出しされた。

 なぜだ?

 俺の平穏は?


 しかし、ここでウンケイが意外なことを言いだした。


「まあ、タツマ様にはまだまだやることがいくらでもありますが、肩書を見直すのはありかもしれませんね。海の向こうでは、皇帝とか国王と呼ばれる存在が国を統べていると聞きます。人族中心の国家を治める国主ではなく、全ての民を統べる存在として、名称を変えるのはいかがでしょうか?」

「皇帝?」

「国王?」


 彼の提案をみんなが口々に唱える。

 しかし、いくらなんでも皇帝はないだろう。

 こっぱずかしくて、名乗れない。


「ま、まあ、もし名乗るなら王、かな?」

「それでは、シナノ共和国王 タツマ様ですね」

「えっ、それもう、決まりなの?」


 結局、その決定は覆ることなく、俺は国王に押し上げられることになった。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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