103.反撃
鬼神シュテンが連合軍兵士の命を犠牲にして、魔物の群れを呼び寄せた。
それに対抗するため、俺はビャッコ、セイリュウ、ゲンブを戦闘形態にして送り出した。
通常の四神形態よりもさらに大きく強力になった彼らが、魔物とぶつかり合う。
獣系、虫系、竜系と様々な魔物の大群が、四神に迫っていた。
しかし、ただの魔物よりも遥かに高次な存在である四神にとって、それはさほど脅威でもない。
まずビャッコが魔物の群れに飛び込み、その強靭な四肢を振るい、牙を突き立てた。
それだけで弱い魔物は引き裂かれ、吹き飛ばされて戦闘能力を失っていく。
続いてセイリュウが上空から迫り、氷の槍を数十本撃ち出した。
それは易々と魔物の体に突き刺さり、命を奪っていく。
そしてゲンブは砂のブレスを吐きつつ、複数の石の槍を魔物に撃ち込んでいく。
これまた強力な攻撃で、多くの魔物を蹴散らしていた。
そんな戦闘が始まってしばらくすると、スザクが俺の所へ戻ってきた。
「お待たせしました、主様~。私も解放してもらえますか~」
「ああ、もちろんだ。ビャッコたちに加勢してやってくれ。”戦闘形態”解放」
解放と同時に宙に浮かび上がったスザクが、バトルモードに変化する。
それは俺がアマテラスの加護をもらった時に現れた、巨大な炎の霊鳥だ。
5割ほどでかくなったスザクが、歓喜の叫びを上げた。
「ケエェェェェェェーーンッ!」
これからスザクによる魔物の蹂躙が始まるのかと思っていたら、思わぬ邪魔が入った。
「「ギュワオォォォォォーーッ!」」
地を駆ける魔物だけでなく、新たなワイバーンが敵に加わったのだ。
やはりワイバーンは、1匹だけじゃなかったようだ。
しかもけっこうでかいのが、3匹もいる。
カエデのおばはん、あんな魔物をどうやって手懐けたのかね?
新たな脅威に対し、空を飛ぶセイリュウとスザクが立ち向かった。
しかし、セイリュウは決して機敏に飛べるわけでもなく、遠くから魔法を放つぐらいしかできない。
対するワイバーンは、魔力で肉体を強化している強力な竜種だ。
一見、ひ弱そうに見えるその肉体を縦横に飛び回らせ、さらに炎のブレスまで吐いてきた。
1対1であれば十分に対抗できるスザクも、3匹のワイバーン相手では分が悪い。
今ひとつセイリュウの援護も噛み合わない状況で、早くもスザクが窮地に陥ろうとしていた。
しかし、俺の手元にはそれを援護する武器があった。
「ニカ、すぐに来てくれ。お前の助けが必要だ」
普段はベンケイと一緒にいるニカを呼び出しつつ、俺はティーガーの銃身に鋼鉄弾を形成していた。
手元に置いた鋼鉄塊からAPFSDS(装弾筒付き翼安定徹甲弾)を作ったのだが、さすがに俺1人では時間が掛かる。
自分で作った鋼鉄弾をワイバーンに向けてぶっ放したところへ、ちょうどニカが現れた。
「タツマ、なに?」
「お、ちょうどいいところへ。あのワイバーンを撃ち落とすから、弾作ってくれ」
「ん、わかった」
その後はニカのサポートを受け、鋼鉄弾をバンバン撃ちまくった。
スザクとセイリュウ、俺が1匹ずつワイバーンを受け持つ形で、空中戦が展開される。
鋼鉄弾が直撃すれば、さすがのワイバーンでも致命傷なのだが、なかなか当たらなかった。
あいつら、ヒラヒラ飛び回ってるし、妙に勘が良くて避けられてしまうのだ。
竜種ってのは伊達じゃない。
しかし、俺とセイリュウが2匹を引きつけてる間に、とうとうスザクが1匹目を撃破した。
彼女の体が超音速の炎の矢となって、ワイバーンを破壊したのだ。
後に”不死鳥の矢”と呼ばれる必殺技の誕生だ。
その後は数を減らした敵を1匹ずつスザクが片付け、空中戦は終了した。
手薄になった地上戦にセイリュウが戻る一方で、スザクが俺の下へ飛んでくる。
「お疲れさまで~す、主様」
「スザクこそ、お疲れ。よくやってくれたな」
「キャハハハハッ、主様のためならなんでもやりますよ~。それで、次はどうするのですか~?」
「とりあえず魔物はビャッコたちでなんとかなりそうだから、俺たちはカエデを仕留めようと思う。奴の居場所に、心当たりないかな?」
「残念ながら、上空からでは分かりませんね~」
「やっぱりそうか……」
できれば敵の頭を潰したいと思っていたが、そうそう都合よくはいかない。
しかし、ちょうどそこにホシカゲから念話が入った。
(わふ、敵の後方に怪しい瘴気溜まりを見つけたです、ご主人様)
(本当か? ホシカゲ。どこだ、そこ?)
(敵の陣地から東に、300メートルくらいなのです)
(でかしたっ。すぐに行くから、見張っててくれ)
連合軍が後退し始めてからも、ホシカゲとヤミカゲ隊を索敵に出しておいたのが役立った。
その情報を周りの仲間に伝えながら、後事を託す。
「今、ホシカゲからカエデらしき存在の報告があった。俺はスザクと行って決着をつけるから、ここを頼めるか?」
「タツマ様が自ら赴く必要がありますか? このままでも敵は撃退できると思いますが」
「いや、このままだといつまで続くか分からない。それに魔物だってなるべく殺したくないし、敵の兵士は捕虜にしたいんだ」
「それは……たしかにそのとおりですね。分かりました。あまり無理はしないよう、お願いします」
「ああ、そのつもりだ。スザクっ」
再び巨大化したスザクの背中に乗り移ると、彼女は力強く羽ばたき、目標地点へ向かう。
すぐにホシカゲの上空にたどり着くと、彼に呼びかけた。
(ホシカゲ、瘴気溜まりってどこだ?)
(わふ、あの辺なのです)
念話と共に彼の意識が流れ込んできて、怪しそうな場所が判明した。
そこはただの森にしか見えないが、おそらく闇魔法で偽装されているのだろう。
「焼き払えっ、スザク!」
「了解で~す。ケエェェェェェェーーンッ!」
スザクの口から紅蓮の炎が吐き出され、目標地点の周囲が焼き払われる。
すると、そんな超高熱の炎をも寄せつけない空間が、そこに浮かび上がった。
案の定その中心には、ダークエルフの女がいる。
そいつは不敵に笑いながら、喋り始めた。
「クックック、あっさりと見つかっちまったね。こいつは予想外だ」
「ああ、そうだ。もう逃がさねーぞ、カエデ!」
彼女から少し離れた所に降り立ち、魔導銃を構える。
今回は取り回しのしやすいパンターを持ってきた。
「アハハッ、これぐらいで勝ったつもりかい? わざわざ出てきてくれて、こっちが感謝してるぐらいさ。フンッ!」
そう言って彼女が片手を振ると、周囲で燃え盛っていた炎が消えた。
何をやったか分からないが、さすが鬼神シュテンが憑依してるだけはある。
俺は油断なくパンターを向けながら、さらに話しかけた。
「いずれにしろ、これで決着だ。シュテンはあの世に帰れっ!」
「生意気いうんじゃないよ。そっちこそあの世に送ってやる!」
それが、シュテンとの最後の戦いの始まりだった。