表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

6話 痩せぎすの

ちと遅くなりました。

最初から違和感があった。

何かがいつもと違った。


いつものロウリザリエとは何かが違ったのだ。


ロウリザリエの管理を任されているカシュー男爵は眉を顰めた。


空気が違う。


王女を連れてロウリザリエの鍵を開けた。

扉を開ける前までは何も思わなかった。


しかし、扉を開けたときから、彼は常とは違うロウリザリエの雰囲気を感じ取った。


「どうしたの?」

アニーシア王女は図書室の入り口で立ち止まってしまったカシュー男爵に無邪気に問いかけた。


「王女殿下、灯りを入れますので、少しお待ちを…」


王女を止めた男爵をその妻が不思議そうに見やったが、何も言わなかった。

彼は首をかしげながら静かにロウリザリエに入室した。


暗い室内の、扉の近くのオイルランプに火を入れる。王女がロウリザリエに入るかもしれないということで、昼食の時間の内にランプのオイルは充分足してあるし、状態も確認していた。


その時にはこのような違和感はなかったはずだ。


この入り口の灯りは、ロウリザリエに入ってすぐの、ぽっかり広く開いた空間を上手く照らす。他にも灯りはあるが、昼間なら分厚いカーテンを開けてしまえばこの灯りでこと足りた。


計算された造りである。


カシュー男爵はじっと目を凝らして室内を見やった。

特に何か見あたるでもない。


彼は早くカーテンを開けなければと考えた。


「あぁ……」


ロウリザリエの開け放たれた扉の前で感嘆の声が上がった。王女だった。


オイルランプの照らすロウリザリエの姿に見惚れているようだ。

彼女がそれに気を取られているならよい。


カシュー男爵は慣れた様子でまだ暗がりの多い本棚と壁の間を歩き、いそいそと窓に向かった。


大窓のもとにはすぐ辿り着く。カーテンの端の太い紐ーーというかもはや縄と言ってよいーーを握ると、彼は体重を掛けてぐっと引いた。


左右に分かれたカーテンに遮られていた春の陽光が、ロウリザリエを一気に照らす。


「きゃあ!」


室内に女性の高い悲鳴が響いた。


「殿下!?」


カシュー男爵は慌てて扉の方に戻った。視界が開ける前にもう、緊張で心臓の音が響くようだった。


やはり何かがあったのだ。


王女は尻餅をついていた。

扉の前の空間の向こうに鎮座する、一際装飾の精緻な本棚の2つに挟まれた空間を凝視している。妻は王女を支えて膝をついていたが、彼女の身体もはたから見てわかるほど震えているようだった。


「カシュー男爵……!」

続きの間で待機していたユーグ卿も、異常に気付いて手前まで来ていた。


その顔は酷く青褪めている。

冷静沈着を絵に描いたような彼がである。


カシュー男爵は崇高なるバノイ一世に心の中で祈りを捧げ、本棚の間に何があるのかを見た。


「ーー!」

驚きは最早声にならなかった。


何かが倒れている。目がおかしくなったと言うのでなければ、それは人に見える。


真面目な男爵が管理を任されてもう15年になるが、こんなことはなかった。


前任者からもこんな話は聞いたことがない。


この特別なロウリザリエに、いてはならないものがいる。


男爵は身体を硬直させた。身体は動かなかったが、視線は本人も意外なほど冷静にそれを見た。


それは頭を彼の方に向けて横たわっていた。


長い黒髪(ブルネット)を無惨にもきつい引っ詰めにしていた。硬質な生地のスカートは膝丈で、痩せぎすの脚が放り出されていた。


変わった、紺色づくめの地味な服に包まれた身体は、線が細そうだったが、背丈はかなり高いように感じた。


薄い唇の冷たげな容貌はまだ若そうに見えた。


それは薄く目を開けていた。


騒ぎにも動じていないのか、それとも覚醒しきってないのか、ゆっくりと瞼が開いていく。


三白眼がカシュー男爵を捉えて、彼はひっと息を呑んだ。


身を貫くような視線だった。

あっ、それ主人公です。



***


この話はアニーシア視点で、びしょーじょミーツガールのはずでしたが、彼女中心の話が長かったので文章を大幅変更してみました。


ロウリザリエの細かい描写は主人公視点でやりますので、今回はざっくりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ