4話 狭間をたゆたう
短いですが、いったん投稿します
「・・・・・・かあさん」
ナユタはいつの間にか蹲っていて、目を固く閉じていた。
いつの間にか眠っていたのだろうか。
夢なんて見ていなかったのに、ナユタはつと、小さな声で死んだ母を呼んだ。
「かあさん」
頭が痛い。
最近良くある偏頭痛だ。
「かあさん」
頭痛があるときはいつも、意味もなくこうやって母を呼んでしまう。
体を横たえる床は冷たかった。
風邪を引く、と頭の隅で考えたが、金縛りにあったように指先さえも動かなかった。
頭が痛い。
ナユタは、目をぎゅっと瞑って、奥歯を軋みそうなほどに噛み締めた。
かあさん。
酷い頭痛に耐えるのは、一人ではつらすぎる。
起きなくては、と思うのに、どうしても目を開けることができない。
床は硬くて冷たくて、ちっとも寝心地はよくない。でも動くのがあまりにも億劫だ。
指一本動かないのは、動かせないからなのか、それとも自分が起きたくないだけなのか。
判然としない。
――起きて。
耳の奥に聞こえた声は、死んだ母の思い出だろうか。
ナユタは強張った身体から、少しずつ力を抜いていった。
緩んだ瞼から、じんわりと生暖かい涙が零れ出でた。
微かに目を開いてみたが、彼女の眼は何も捉えなかった。
実は目を開けていないのか、まだ夢の中にいるのか、それとも
「まっくら・・・・・・」
呟いたそのとき、眼前に置かれている自分の手元に光がさして、彼女は自分の、ペンだこのある細い指先を見た。