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全員集合

桜が咲いて春を感じる四月上旬、春休みも後半に入り、もうすぐで新学期が始まる小川篤史は、服部留理と川口里奈と共に山奥にある館に向かっている最中だった。決して三人は楽しい旅行をしているわけではない。

篤史の手には四日前に届いたばかりの案内状がある。それを眺めると何度目かのため息をつく。そして、バスの窓の外に目をやる。

三人が行く館は全国に住んでいる探偵を呼んでいる、というもので、何が行われるのかは知らない。ただ集まる日時と場所だけが記されていて、別紙に主催者側の挨拶と共に、他の探偵も呼んでいるという文章が書かれている。

この案内状が届いた時、篤史は正直、行きたくないと思ったが、全国から呼ばれている探偵達に会いたいという思いもあった。中にはテレビで活躍している探偵もいるので、もしかしたら会えるかも・・・と考えたのだ。

その館は関西にあるのだが、山奥という事もあり、電車で一時間、バスで一時間半乗らないといけないのだ。電車を降りたところまでは良かったのだが、バスで一時間半というのを案内状で確認した三人は、嫌だという気持ちが出てゲンナリしてしまった。

昼食を挟んで、バスに乗って四十分が過ぎた頃、里奈が口を開いた。

「結構、遠い所にあるんやね」

「オレもこんなに遠いと思わへんかった」

篤史は里奈のほうに顔を向けて言う。

「それにしても、探偵の館ってふざけた館の名前なんとかならへんかったんか?」

引き続き、篤史は独り言のように言った。

「それは言えてる。篤史、風間幸助って誰なん?」

留理は篤史から受け取った別紙の主催者の名前を見て、誰だか聞いた。

「オレと一緒の探偵や。二十歳で探偵になり、その能力はピカイチらしいねん」

有名な探偵を知っている篤史はサラリと答える。

「勝負したら負けるん?」

「当たり前や。相手はIQ210の超天才や。東大や京大・・・いや、日本全国の大学が現役合格出来るくらいの頭脳の持ち主らしいからな。対決したらオレなんかあっという間に負けてしまうで」

篤史は悔しいが仕方ないという口調だ。

「今、何歳なん?」

「風間探偵は五十六歳や」

「意外と歳いってるんやね。篤史、負けたらアカンで」

里奈は若い探偵と想像していたらしく、年齢を聞いてガックリとしたが、篤史に頑張るように言う。

「そうやな。探偵の館は風間探偵の別荘らしいねん」

「その別荘に探偵が呼ばれたんやろ? 何があるんやろ?」

留理はまったく検討がつかないという表情をしている。

「多分、風間探偵の自慢話でも聞かされるんやないかな?」

篤史は勝手な想像をして答えた。














それから五十分後に最寄りのバス停に着いた篤史達は、そこから二十分歩くと探偵である風間幸助の別荘、別名・探偵の館に着いた。館を前にした三人は無事に着いたという事でホッとしていたが、早く中に入ってゆっくりしたいという気持ちが先行していた。

「でかい別荘やな」

荷物を一旦地面に置いた篤史が、ため息混じりに言う。

別荘の外観はヨーロッパ風であり、まるで王室の宮殿みたいで日本とはかけ離れた別荘だ。

「あれ? 小川じゃないか?」

三人の背後から若い男性が篤史に声をかけてきて振り返る。

「あ、青山やんか! お前も呼ばれてたんやな」

つい最近会ったばかりなのだが、また会えて嬉しいという思いを声に出す篤史は、疲れた気持ちが一気に晴れた。

裕太は同じくらいの年齢の女性と一緒に来ていた。

「そうなんだ」

「篤史、知り合い?」

里奈は篤史の耳元でそっと耳打ちをして聞く。

「うん。コイツもオレと一緒の高校生探偵の青山裕太。隣にいるのが彼女の君島利佳さんや。青山はついこないだ大阪に来たって言うたやろ?」

篤史は二人の幼馴染に紹介する。

紹介された裕太と君島利佳は、よろしくと会釈をする。

留理と里奈はこの人が篤史のライバルかと思っていた。

「篤史から話は聞いてます」

留理は幼馴染を見た後に裕太に言った。

「ホント、こんな若い子達が探偵をやってるなんて頼もしいわね。高校生探偵二人組」

そう言ってきたのは、呼ばれた探偵の一人、金子まきだ。

まきは三十代半ばなのに、実年齢より十歳も若く見え、パステルカラーのニットにデニムパンツにヒール、ニットの上にはトレンチコートを羽織っていて、いかにも大人の女性という感じだ。

「金子探偵でしたよね?」

裕太がまきに声をかける。

「そうよ。名前を覚えていてくれて光栄だわ、青山君」

ニッコリ微笑むまき。

「知ってるの?」

利佳は彼氏である裕太にそっと聞く。

「あぁ。前に新聞記者が殺害された事件で、一度会ったんだ。たまたま金子探偵が東京に旅行をしてて、その新聞記者が金子探偵の宿泊してたホテルで殺害されたんだ」

裕太は利佳だけではなく篤史達にも教える。

「そうだったんだ」

「とりあえず、中に入りましょうよ」

まきはそう言うと颯爽と別荘の中に入っていった。

それを見た留理は密かにカッコいいと思っていた。

別荘に入ってすぐに受付があり、探偵の館のお手伝いである中井好美が名簿を見ながら、名前を確認している。

「小川様とお友達、青山様とお友達、金子様でよろしいですね?」

好美は全員の顔を見ながら確かめるようにして聞く。

「そうです」

篤史が代表で答える。

「では、お部屋のほうにご案内させていただきます」

好美は部屋の鍵を持って、先頭に歩き始めた。

三階建ての別荘は、一階は食堂と浴室と大広間、二階はビリヤードなどが出来る部屋、DVDを鑑賞したり音楽を聴いたり出来る部屋、三階が宿泊出来るいくつかの部屋があり、全ての階にエレベーターで向かう事が出来る。

好美に案内された全員は、鍵を受け取ると部屋に入る。篤史と裕太は二人部屋、留理と里奈と利佳は三人部屋、まきは一人部屋という割り当てられた。

「みなさん、夕食の時間は午後六時半です。時間厳守でお願いします」

好美は夕食の時間を告げると、深々とおじきをしてその場を去っていった。

篤史達は部屋に入ると、夕食の時間までホッと一息つくことになった。








夕食の時間になり、食堂に集まった一同。食堂に飾ってある一枚の絵画を見つけた篤史達はなんともいえない気持ちになっていた。

その絵画は、外国の男女が火だるまになって逃げ回っていて、その表情はえげつない表情をしている。

「不気味な絵やな」

篤史は気持ち悪いという気持ちを抑えて言った。

「ホントよね。よくこんな絵、食堂に飾っておけるよね」

利佳も同感したようだ。

「この絵画は天罰っていう題名の絵画よ」

五人の背後から女性の声がして振り返る。

「天罰・・・?」

里奈はその女性に首を傾げて聞く。

「生き地獄・・・。この絵画によく似合う言葉ね」

「高田探偵も呼ばれていたんですね」

裕太はまたしても知っている探偵を見て、呼ばれても不思議はないという表情をしている。

「そうよ。私は高田京美よ」

自分の名前を名乗る高田京美は、まきより年下だが大人っぽい顔をしているせいか、年上に見える。

まるでまきと京美の年齢が逆なんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

「みんなもこうなる前に自分の管理はちゃんとしておいたほうがいいわよ」

京美はそう言うと、自分の席に着いた。

「高田探偵ってこの前、テレビで話題になってたやんな? 十年前の未解決事件の犯人を見つけたって・・・」

留理は篤史に聞く。

「そうや。未解決事件の犯人を見つけたなんてすごいやんな」

篤史はすごいという尊敬の声で言う。

「でも、見かけによらずクールな女性やんな」

「テレビで見たけど、優しそうな感じがしてたんやけどな」

里奈と利佳は京美の凛とした横顔を見ながら言う。

「高田探偵は探偵の中でも性格が悪いって噂が有名なんだよな。一緒に仕事をやりたくないっていう人が多いくらいなんだよな」

裕太は噂を聞いていたせいか、京美と一緒にいるのが気が重いという口調で言った。

「そんな噂があるんや・・・」

里奈はそんな感じがしないのに・・・という感じだ。

「コラコラ・・・そんな噂を信じたらいけないよ」

四十代前半の男性が篤史達に忠告する。

「あ、森山探偵・・・」

篤史は思いがけない再会に嬉しそうな声を出す。

「小川君と青山君も呼ばれていたんだね」

森山と呼ばれた探偵が篤史と裕太に笑顔を向ける。

「この人は森山修さんといって、前に事件で会った事のある探偵なんや」

篤史は自分の幼なじみと利佳に紹介する。

森山修は恰幅のいい体格で、優しそうな笑顔がトレードマークで探偵に見えない感じだ。

「小川君にまた会えて良かったよ」

笑顔のまま修は言う。

「高田探偵の生い立ちを知れば、性格が悪いって言えないんじゃないかな?」

京美の生い立ちを知っているのか、修は意味ありげに言う。

「高田探偵の生い立ち?」

利佳はなんだろうと首を傾げる。

「まぁ、そこは自分の口からは話せないけどね」

人の生い立ちを勝手に話すわけにはいかないと思った修は言葉を濁す。

そこに好美が入ってくる。

「みなさん、自分の名前の名札が置かれている席にお座り下さい」

好美はまだ席に着いていない探偵に座るように促す。

好美の指示に全員は自分の席に着く。

そして、すぐに一人の男性が食堂に入ってきた。

「みなさん、お揃いですね」

「風間探偵のお出ましね」

京美はうっとりした笑顔で見る。

まるで愛する人を見ているかのようだ。

「私は風間幸助です。本日は来ていただきありがとうございます」

細身で白髪交じりの風間幸助は丁重にお礼を言う。

「私達をこんなところに呼び出してどうしたのよ?」

まきは不審な目を向けて、別荘に呼んだ目的を聞いた。

「ここに探偵諸君を呼んだのは、他でもない私の話を聞いてもらいたくてな。私が関わった事件も交えてね」

幸助は好美が注いだ赤ワインを一口飲んだ後に答えた。

どうやら、世間話をしたいらしい。その答えを聞いたまきは、何よそれと言わんばかりに呆れた表情を浮かべた。

「まずは事件の話でもしようかな。世間でも知られている洋服屋の殺人事件からだ」

(この事件は確か三年前に起こった事件やな)

篤史はこの殺人事件をニュースで知ったが、幸助がどうやって解決に導いたのか、とても興味があったのだ。

「この事件はある洋服屋の店員、五人が閉店後、何者かに刺殺されたんだ。当時、犯人の目撃証言も少なく、迷宮入りの殺人事件になると囁かれていた。事件が発生してから三ヶ月後に私は警察に依頼されて、犯行現場に向かったんだ。そして、犯行現場に入ったらわかったんだ」

幸助は最後の一文を意味ありげに話す。

「わかったって何がわかったんですか?」

京美は身を乗り出して幸助に聞く。

「犯人像がな」

「さすが、IQ210だけあって、すぐにわかったんですね」

裕太は運ばれてきた前菜を一口食べてから言った。

「当たり前だ。私の頭脳をバカにしてもらったら困る。その殺人事件の犯人は二日後に無事に逮捕されたよ」

「確か、東京の世田谷のアパートに住んでた二十代の男性じゃなかったっけ?」

まきは思い出す表情をしながら言う。

「そうだ」

幸助が頷くと、好美は全員分のスープを運んできた。

「風間探偵、自分達を呼んだのはそんな話をするために呼んだのではないだろ? 早く本当の話をしたらどうだい?」

修はナフキンで口を拭いた後、何の目的で呼んだのか、本当の事を話して欲しいと願い出る。

「ハハハ・・・そうだな。森山探偵は鋭い人だ」

「もしかして、今の話は前置きだったんですか?」

篤史は信じられないというふうに聞く。

「まぁ、そういうことになるな」

「本当の話ってなんなのよ?」

まきは再び呆れた表情を浮かべてため息をつく。

「実は私が関わった事件の中でまだ未解決の事件があるのだ」

幸助はスプーンを置いて、改まった口調で話し始める。

「IQ210って聞いていたので、未解決事件はないと思ってました」

里奈は意外だというふうに言う。

「そう思う人がいても仕方ないな。じゃあ、今からその事件の話をしよう。今から十七年前、私の父の兄、つまり伯父が自宅の風呂場で変死体として見つかった。警察は伯父に病気などがないところを見て、殺人として断定して捜査をしていたが、犯人の手がかりはまったくなかった。伯父は真面目で優しくて気前もよく、恨みを買うような人間ではなかった。それに、当時、自殺する理由もなかったため、自殺の線も排除して、私も今までずっと犯人を捜してきた。そして、半年前にやっと犯人がわかったんだよ」

幸助は改まったまま話す。

「でも、その事件って時効を迎えてますよね? 今は時効が二十五年に引き伸ばされましたけど・・・」

京美は右手を顎に当てて言う。

「そうなんだ。もう時効になってて、警察に突き出しても無理なんだ」

幸助は残念そうに言う。

「その犯人がこの中にいるってわけ?」

幸助の言葉のニュアンスから、まさかと思いつつもまきは篤史達の顔を見ながら言う。

「そうだ。警察に突き出せない代わりといってはなんだが、みんなに当ててもらおうと思ってな」

「この中にいるって・・・誰なんだ?」

修は明らかに動揺している。

「そうよ。言いなさいよ」

まきは幸助に正直に伯父を殺害した犯人の名前を言うように催促する。

「犯人の名前は明かせないな。犯人がわかった探偵は私のところまで言ってくれれば光栄だな」

幸助はそう言うと立ち上がった。

「どこ行くのよ?」

「部屋に戻るんだ。話は終わったからな。好美さん、食事は部屋まで持ってきてくれ」

幸助から指示された好美は、厨房から顔を出してはい、と返事した。

「でも、まだ食事中なのに・・・」

篤史はわけがわからないまま目線を泳がせていると、幸助は食堂を出ていってしまった。

この時、篤史達はこの別荘で殺人が起こるとは、誰一人知る由がなかった。

そう、犯人以外、全員・・・。

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