出航前夜
1944年8月12日の深夜
第二次世界大戦の真っ直中のハンブルグは慌ただしい雰囲気に覆われていた。
軍港沿いの道路では新鮮な卵やバナナ、その他にも医療品などといった物資を積んだトラックが列を組んで長い渋滞を作っている。
港ではトラックから荷物を降ろし、届け先に荷物を運び入れていた。
そんな慌ただしい港には一隻の潜水艦が停泊している。
艦の上には数人の作業員と乗組員がいるのである。
「艦長、全乗組員の搭乗が完了しました」一人の士官が艦橋に立つもう一人の男性に報告する。
「そうか、物資の積み込みはいつ終わるか?」艦長と呼ばれた男は彼に背を向けたまま言う。
「はっ、現在は渋滞により物資の到着が遅れています」報告書をめくりながら士官は答える。
艦長と呼ばれた男はため息をつき...
「積み込み作業は夜明けまでに終わらせろと言っておけ。明日の朝には出航するんだ」
と士官の方を振り返る。
「この作戦は今戦争の勝敗を分けるものだ、分かってるだろ。コルト・クラウディウス先任士官」
そう言うと艦長は先任士官の肩をポンと叩いてから艦の中に入っていった。
先任士官は艦長が管の内部に入っていくのを確認すると一言つぶやいたのである
「了解、アンドレア艦長」
そして彼もまた、艦の内部に搭乗したのである。
狭い司令塔を一度通じて指揮所にはいる。
指揮所では航海長や機関長、次席士官が整備状態について話し合っている。
(今話しかけるのはよしておこう...)
ただ手の空いてそうな将校が一人いるので話しかける
「エーギンハルト少尉、少々時間をもらっていいかね」
将校はあらかじめ彼がそこにいたのかが分かっていたかのように振り向く
「やはり先任士官殿でしたか。御用は何ですかな?」
「いやはや、やはり聴音兵の耳はすばらしいもんだ。
それで今回の物資補給の主任はどこにいるのか分かるかね?」
頭を少し掻きながら先任士官はエーギンハルト聴音兵に質問する。
「私が最後に見た時は...たしか、前方魚雷室だったと」
「わかった、ありがとう」
そう言ってから彼は前方魚雷室に向かう
「デーニッツ主任は居るかね?」
魚雷室に居る数人の中に主任は居た
彼は先任士官の元に歩いてくると
「物資の遅延の件ですかね?」
主任はばつが悪そうに聞く
「話が早くて助かる。で、今夜中に到着しそうか?」
「ええ、なんとか...ギリギリですが」
「何か言ったかね?」
「いっ、いえっ何も無いです」
主任は足をきちっと揃えてこちらに敬礼する
「冗談だよ、今日までに届いてくれればいいからな」
先任士官は悪い笑みを浮かべながらそう答えた
「では、後は頼んだよ」
そう言うと彼は艦長に報告するために艦長室に向かう
指揮所では話し合いは終わったのかそれぞれが自らの持ち場に戻っている
「クラウディウス中尉」
不意に後ろから声をかけられ、振り向くとそこには
「ローデリヒ中尉か、どうしたんだね?」
次席士官のローデリヒ・アヒム中尉の姿があった
「いえ、ただ現状報告を。現在、全哨戒時の破損箇所の修復箇所の修復は完了しています。
ただ...」
彼は言葉を詰まらせるが...
「最後の物資がまだ届いていないと」
「はい、その通りです」
やはり遅れている物資が最後の問題だった
「現在時刻は...12時55分。もうそろそろ着く頃だろう」
そして4分後の59分、最後の荷物が到着した
最後の荷物ということだけあって甲板にいる作業員の搬入速度は速い
そして深夜1時に搬入作業が完了した
「艦長、入ります」
艦長室のドアをノックしながら確認を取る
「入れ」
ドアを開けると艦長はレコードをセットしていた
「現時刻を持って搬入作業および出航準備、完了しました」
艦長はしばらく黙っていたが
「よろしい、本日4時30分に出航する」