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信長のキャディー  作者: 阿弥陀乃トンマージ
第1章

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第2話

「あ~良いなあ、北海道!」 美蘭が車の窓を開けて声を上げる。

「お蘭、昨日からそればっかりだな……」

 信長が苦笑する。

「いやいや、信さんもそう思いませんか?」

「まあ、飯は旨い……女子も良い……」

 信長が目を閉じて、深々と頷く。

「……未成年の僕がいないのを良いことにススキノで羽目を外し過ぎてないですよね?」

 美蘭がジト目で信長を見つめる。

「な、なにを言うか……今の時代は下手なことをすれば、すぐにSNSで拡散されてしまうだろう。その辺はきちんと弁えておる……」

「なら良いんですけど……」

「しかし、最初は蝦夷地へ行けと言われた時はどうしたものかと思ったが……なかなか悪くはないな……」

「へへっ……」

 美蘭が信長の顔を見てニヤニヤとする。

「なんだ?」

「信さんの飛行機でのビビりっぷりは笑えましたよ」

「い、致し方あるまい! あんな鉄の塊が鳥のように空を飛ぶなど、にわかには信じがたい……! 正直に申せば、この車というやつにも最近ようやく慣れてきたばかりだというのに……!」

「まあ、戦国時代の人にとってはなかなか大変ですよね……でも……」

「でも?」

「『マスターピース』は恐らく……いや、十中八九海外での開催が濃厚です。飛行機での移動にも今の内から慣れておいてもらわないと……」

「むう……天下を狙うのはやはり簡単ではないな……」

 信長は渋い表情になる。車が停まる。

「あ、着きました。ありがとうございます……わざわざ迎えに来ていただいて……信さん、降りましょう」

「うむ」

 美蘭に促されて信長が車を降りる。美蘭が建物を指し示す。

「ここが今日、マッチプレーを行うゴルフ場です。うちのゴルフ場と提携関係を結んでいるんですよ」

「で、あるか」

「それじゃあ、早速着替えて、コースに出ましょう」

「ああ」

 信長と美蘭はゴルフウェアに着替えて、コースに出る。

「えっと……今日の対戦相手の方は……ああっ!?」

「どうした、お蘭?」

「あ、あれを……」

 美蘭が指差した先には、跪いて肩で激しく息する屈強そうな男がいた。

「あの男は……」

「今日の対戦相手の方です。このゴルフ場所属のゴルファーでも屈指の実力者だとか……でも、何故あんな姿に……」

「それは、私が散々と打ち負かしてしまったからですよ……」

「!」

 そこにゴルフウェアの上に白地に黒く縁をとった羽織服を着て、青色の頭巾を被って、羽毛で出来た扇子を持った髭を生やした男性がゆっくりと歩いてくる。

「貴様……ひょっとして……かの諸葛孔明か?」

「ほう、ご存知であるとは光栄です」

 孔明と呼ばれた男性は恭しく礼をする。美蘭が驚きながら信長に問う。

「しょ、諸葛孔明って、あの三国志の!?」

「ああ、昔、書物で読んだ通りの出で立ちじゃ」

「ゴルフウェアは着てなかったと思いますけど……でも、どうして孔明さんが北海道に?」

「ふむ、なかなか良い質問ですねえ……」

 孔明が美蘭に対して笑いかける。

「あ、ありがとうございます……」

「どういうわけか、この時代にやってきてしまった私はとりあえずゴルフに没頭しました……そして、数ヶ月が経ったある時にこう思い立ったのです……『そうだ、北(伐)に行こう!』と……」

「(伐)が気になるな!」

 美蘭が声を上げる。

「主である劉備玄徳亡き後、幾度となく北伐……魏を征伐しようと軍を興しておったからな……」

 信長が頷く。

「風の噂で、織田信長殿、貴方がこの地にやってくると聞いたもので、大六天魔王の実力は果たしてどれほどのものであるかと、興味が湧きましてね……海を越えてやってきたわけです」

「……あれ? なんで会話が出来ているんだろう?」

 孔明の説明を聞いていた美蘭が不思議そうに首を傾げる。

「私たち……いわゆる傑物には不思議な力が備わっているようで……傑物同士、あるいはこの時代の誰が聞いても理解出来るように話すことが出来るようですよ……」

「そ、そうなんですね……」

「それはまあ、どうでもよいが……しかし、さすがというべきじゃな、儂に目を付けるとは……」

 信長はどこか嬉しそうに頷く。

「あらためて……織田信長殿、貴殿に勝負を申し込みます……!」

 孔明が羽扇をビシっと信長に向ける。

「望むところじゃ……!」

 信長が笑みを浮かべて応える。第六天魔王と稀代の天才軍師のマッチプレーゴルフが始まる……!

「はっ!」

「ナイスショット!」

「ふっ!」

「ナイスオン!」

「ほっ!」

「ナイスイン!」

「ふん……ざっとこんなもんじゃ」

「す、凄いですよ、信さん! これで三連続バーディーです! 初めてまわるコースなのに!」

「お蘭のお陰じゃ……」

「はい?」

「お主が的確にコースの特徴を把握し、芝の向きなども読んでくれておるからこそじゃ……」

「い、いやあ、それがキャディーの役割ですから……」

 信長の言葉に美蘭は照れくさそうに自らの後頭部を撫でる。

「しかし……」

「え?」

「孔明が不気味じゃな……」

「そう言われると……もうすぐラウンド中盤になりますが、なんというか、淡々とゴルフをやっていますね……ただ、技量は確かにあります」

「大崩れはしていないな」

「さきほどもラウンドを周ったわけですから、どこかでミスは出ると思います。傑物と言えども人間ですから。それを待ちましょう」

「……そうであるな」

 そして、迎えたラウンドの中盤……。パー5のロングホールで孔明がティーショットを放つ。

「……!」

「むっ!」

「こ、これは……ミスショットだ!」

 孔明の打ったショットは飛距離こそ出たが、ボールは木々の生い茂る方へ突っ込んでいく。

「お蘭の言った通りじゃな。ミスが出よったわ……」

「ええ、これはOBですね……」

「……それはどうでしょうか……?」

 孔明が笑みを浮かべる。

「なに……?」

「ああっ!?」

 次の瞬間、もの凄い風が吹き、孔明のボールが風に乗って、軌道を大きく変える。孔明が両手を大げさに広げて呟く。

「東南の風を……吹かせましょう……」

「!」

 風に乗ったボールはグングンと伸びて、グリーンにオン、何度か転がり、カップに入る。美蘭が愕然とする。

「ホ、ホールインワン……!」

「これで1打逆転ですね……」

「そ、そんな……なんて幸運……」

「違う……」

「え? 信さん、違うって……?」

「奴の狙い通りじゃ」

「! 突風が吹くのを予想していたんですか!?」

「なにも驚くことはない。赤壁の戦いでも証明済みじゃ」

「そ、そんな……」

 この後、信長はバーディーパットを外してしまい、孔明が1打差でリードとなった。孔明が羽扇を優雅に仰ぎながら呟く。

「さて……これで戦の流れが変わりますね……」

 孔明の言葉通り、ここから孔明のナイスプレーが続き、信長にはイージーミスが続いた。スコアは孔明の2打差リードで、最終ホールを迎えた。最終ホールはパー3のショートホールである。

「……」

 信長は黙り込んでいる。

「要所要所で風が信さんにとって邪魔になって、孔明さんには有利に……まるで風を司っているみたいだ……」

「ふふっ、面白いことを言うのう……」

 美蘭の呟きに信長が笑う。

「笑っている場合じゃ……!」

「静かにせい。孔明がティーショットを打つ」

「は、はい……」

「……はっ!」

 孔明は無理にグリーンへのワンオンは狙わず、グリーンとフェアウェイの間にある池の手前に打った。美蘭が顔をしかめる。

「ク、クレバーな攻めだ……」

「風の流れが複雑になってきましたからね、無理はしません……」

 孔明が美蘭に対して笑いかける。美蘭がハッとなる。

「た、確かに、風が色んな方向から……」

 信長がティーショットを打とうとする。美蘭が慌てる。

「の、信さん! 風がある程度止むまで待った方が……」

「……是非に及ばず」

「の、信さん!」

「……ふん!」

 信長がティーショットを打つ。しかし、かなり低い弾道で飛ぶ。ミスショットだ。美蘭が両手で頭を抱える。

「ああっ!?」

「! ふふっ……」

 孔明が羽扇で笑みを隠す。

「孔明よ……勝利を確信するのは早いぞ?」

「……なんですって?」

「戦というものは終わってみなければ分からない……」

「……!?」

「ええっ!?」

 信長のショットは池に落ちるかと思われたが、そこから急に加速してグリーンにオン。何度かバウンドして、カップにインする。孔明と美蘭が驚く。

「ホールインワンじゃ……」

「低い位置での風の流れを見極めたというのですか……?」

「そこまで神がかったことは出来ん……」

「?」

「儂はこれまでの人生で、どんな逆風にも打ち勝ってきた……此度もそうしたまでよ」

「! ふふふ……」

 孔明はその後パーを取り、スコアはタイとなる。美蘭が二人に問う。

「延長戦……やりますか?」

「無論じゃ」

 信長が頷く。

「いえ、やめておきましょう……」

 孔明は首を左右に振る。

「なんじゃと?」

「織田信長殿、決着は『マスターピース』でつけるとしましょう……」

「! なるほど、それは面白いな……」

「それでは失礼いたします……」

 孔明が優雅な物腰で、その場から去って行く。

「諸葛孔明……やつとこの時点で戦えたのは収穫であったわ……」

 信長は孔明の背中を見つめながら、笑みを浮かべて呟く。

お読み頂いてありがとうございます。

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