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第1章 ー 普通の日なんて、もう望めない

作者より—

みなさん、こんにちは。『C-Team』の作者、NoneLikeJTです。

まず最初に…本当にありがとう。ここまでこの物語を読んでくださっているということが、どれほど僕にとって大きな意味を持つか、おそらくみなさんが思っている以上です。

この世界—そしてキャラクターたちは、何年も僕の頭の中で生き続けてきました。

囁き、引っ張り、心を掴み、そして僕に希望を与えながら。

眠れない夜や静かな祈り、書くことを諦めかけた長い沈黙の中でも、『C-Team』は常に僕と共にありました。

簡単な道のりではありませんでした。むしろ今まで生み出そうとした中でも最も難しいものの一つでした。でも、すべてのページ、一つひとつの文章、あらゆる場面が、より大きな何かの一部となっています。それは僕が信じているもの。どうしても伝えたかったもの。

特に、この物語の核となる執筆や書き直しに没頭している間、マーケティングや投稿を支えてくれている僕の友人に感謝を伝えたいと思います。彼のおかげでこの冒険が現実のものとなっています。

あなたが最近この物語を見つけた方でも、最初から追いかけてくれている方でも、この旅を楽しんでもらえれば幸いです。これはまだ、始まりに過ぎないのですから。

愛を込めて。

— NoneLikeJT

最後のチャイムはまだ鳴っていなかったが、教室はすでに空っぽに感じられた。

午後の遅い日差しが高い窓から差し込み、淡い机や磨かれた床に温かな筋を描いていた。

埃がゆっくりと宙を漂い、長いこと動いていないような扇風機が低く唸りながら回っていた。

教室の中では、生徒たちが時計を確認したり、早めにバッグをまとめたり、こっそりスマホをスクロールしたりしていた。

しかし窓際の三列目では、一人の少年が肘を机につき、顎を手に乗せて座っていた。

制服はきちんとしていたが、トップボタンが外れ、ネクタイが少し曲がっている。黒と白のブレザーの袖は、学校指定の黄色い縁取りがあり、手首の少し上までまくられていた。

背は高くもなく、体格も特に良くなかった。

彼の顔立ちは穏やかで、際立って目を引くわけではないが、どこか惹きつけられるものがあった。ハンサムというよりは可愛らしく、温かな茶色の肌と、しっかりと編まれた髪が後ろへと流れていた。

前髪の一本だけが他の髪と違い、純白で額の上に少し垂れている。濃い茶色の瞳は落ち着いていて眠そうに見えたが、その奥には何か生き生きとしたものがあった。まるで決して口に出さない何かを考えているようだった。

彼は窓の外をぼんやりと見つめていた。屋根の向こう、雲の向こう、現実の向こう側を。

机の上には、誰にも見えない黒猫が横たわっていた。

その猫はだらしなく手足を伸ばし、どこか他に行きたいかのように時折尻尾を動かしていた。

毛並みは滑らかで漆黒、まるで日差しを吸い込むような深い黒さだった。目は黄色く柔らかではなく鋭い金色の幾何学的な瞳で、冷たく燃えるような視線だった。

猫は動かず、口も開かずに話した。

しかし声は低く深く響き、骨の奥まで染み渡るようなものだった。古代から変わらない、男性的な響きだった。

「いつまでこの茶番に付き合わねばならんのだ」

少年は窓を見たまま答えた。

「授業中は喋らない約束だろ」

「お前が勝手に決めた約束だ」猫は乾いた雷のような声で返した。「俺は嫌々従っているだけだ」

「いつもそう言ってる」少年はゆっくりと瞬きをした。「雨も太陽も睡眠も、声の大きい女子も、スープも嫌々だろ」

「スープは冷めていた」

「あれはラーメンだった」

「冷えたラーメンは罪だ」

少年の口元がわずかに緩んだ。

「喋る猫に罪を説かれてもね」

猫は大げさに唸りながら横向きになり、尻尾を彼の顔に向けて揺らした。

「俺にはもっと重要なことができるはずだ」猫は不機嫌そうに呟いた。「禁断の知識を解き明かしたり、窓際でない場所で昼寝をしたりできるはずだ。なぜいつも窓際なのだ?」

少年は初めて視線を窓から外し、猫を見下ろした。

「僕が窓際が好きだから」

「俺は嫌いだ」

「じゃあ互角だな」

そのやり取りはいつも通り続きそうだったが、教室に咳払いが響いた。

少年は瞬きをして顔を上げた。

クラス全員が彼を見ていた。

何人かは席で振り返り、他の生徒は荷物を詰める手を止め、好奇心や不気味さの入り混じった視線を向けていた。前の席の女子がこめかみを指差し、「狂っている」の仕草をした。

彼は凍りついた。

猫はまるで初めから存在しなかったかのように消えた。

教壇から、先生がチョークを下ろし、眼鏡を直しながら彼を見つめていた。

「忠島ハル君、独り言をやめて授業に集中したら、成績ももう少しマシになるんじゃないかしら」

教室から小さな笑いが漏れ、沈黙が一層痛々しくなった。

彼は一度だけ瞬きをし、小さく姿勢を正した。

「……すみません」

先生はため息をつき、再び黒板に向き直った。

少年—ハルは深く息を吐き、最後に普通の日を過ごしたのはいつだっただろうかと、ぼんやり考えていた。

最後のチャイムはまだ鳴っていなかったが、教室はすでに空っぽに感じられた。

午後の遅い日差しが高い窓から差し込み、淡い机や磨かれた床に温かな筋を描いていた。

埃がゆっくりと宙を漂い、長いこと動いていないような扇風機が低く唸りながら回っていた。

教室の中では、生徒たちが時計を確認したり、早めにバッグをまとめたり、こっそりスマホをスクロールしたりしていた。

しかし窓際の三列目では、一人の少年が肘を机につき、顎を手に乗せて座っていた。

制服はきちんとしていたが、トップボタンが外れ、ネクタイが少し曲がっている。黒と白のブレザーの袖は、学校指定の黄色い縁取りがあり、手首の少し上までまくられていた。

背は高くもなく、体格も特に良くなかった。

彼の顔立ちは穏やかで、際立って目を引くわけではないが、どこか惹きつけられるものがあった。ハンサムというよりは可愛らしく、温かな茶色の肌と、しっかりと編まれた髪が後ろへと流れていた。

前髪の一本だけが他の髪と違い、純白で額の上に少し垂れている。濃い茶色の瞳は落ち着いていて眠そうに見えたが、その奥には何か生き生きとしたものがあった。まるで決して口に出さない何かを考えているようだった。

彼は窓の外をぼんやりと見つめていた。屋根の向こう、雲の向こう、現実の向こう側を。

机の上には、誰にも見えない黒猫が横たわっていた。

その猫はだらしなく手足を伸ばし、どこか他に行きたいかのように時折尻尾を動かしていた。

毛並みは滑らかで漆黒、まるで日差しを吸い込むような深い黒さだった。目は黄色く柔らかではなく鋭い金色の幾何学的な瞳で、冷たく燃えるような視線だった。

猫は動かず、口も開かずに話した。

しかし声は低く深く響き、骨の奥まで染み渡るようなものだった。古代から変わらない、男性的な響きだった。

「いつまでこの茶番に付き合わねばならんのだ」

少年は窓を見たまま答えた。

「授業中は喋らない約束だろ」

「お前が勝手に決めた約束だ」猫は乾いた雷のような声で返した。「俺は嫌々従っているだけだ」

「いつもそう言ってる」少年はゆっくりと瞬きをした。「雨も太陽も睡眠も、声の大きい女子も、スープも嫌々だろ」

「スープは冷めていた」

「あれはラーメンだった」

「冷えたラーメンは罪だ」

少年の口元がわずかに緩んだ。

「喋る猫に罪を説かれてもね」

猫は大げさに唸りながら横向きになり、尻尾を彼の顔に向けて揺らした。

「俺にはもっと重要なことができるはずだ」猫は不機嫌そうに呟いた。「禁断の知識を解き明かしたり、窓際でない場所で昼寝をしたりできるはずだ。なぜいつも窓際なのだ?」

少年は初めて視線を窓から外し、猫を見下ろした。

「僕が窓際が好きだから」

「俺は嫌いだ」

「じゃあ互角だな」

そのやり取りはいつも通り続きそうだったが、教室に咳払いが響いた。

少年は瞬きをして顔を上げた。

クラス全員が彼を見ていた。

何人かは席で振り返り、他の生徒は荷物を詰める手を止め、好奇心や不気味さの入り混じった視線を向けていた。前の席の女子がこめかみを指差し、「狂っている」の仕草をした。

彼は凍りついた。

猫はまるで初めから存在しなかったかのように消えた。

教壇から、先生がチョークを下ろし、眼鏡を直しながら彼を見つめていた。

「忠島ハル君、独り言をやめて授業に集中したら、成績ももう少しマシになるんじゃないかしら」

教室から小さな笑いが漏れ、沈黙が一層痛々しくなった。

彼は一度だけ瞬きをし、小さく姿勢を正した。

「……すみません」

先生はため息をつき、再び黒板に向き直った。

少年—ハルは深く息を吐き、最後に普通の日を過ごしたのはいつだっただろうかと、ぼんやり考えていた。

チャイムがいつもの気の抜けたような音を鳴らした。それは命令というより、疲れた提案のようだった。


椅子が引かれ、バッグのジッパーが閉じられた。


生徒たちは波のように教室を出ていき、笑い合ったり、友達を呼んだり、あるいは校門へと駆け出したりした。


ハルの動きは遅かった。


すぐには立ち上がらず、いつも通り、教室がほぼ空になるまで待った。その方が視線が少なくて楽だった。


しかしそれでも声は聞こえてきた。


小さく、静かで、ささやきよりわずかに大きい程度の声が。


「あいつまだ学校にいるんだ?」


「ほとんど来てないじゃん。先月なんて三週間も休んでたらしいよ」


「警察署の近くで見たって従兄弟が言ってた」


「髪型とか、絶対ニートだろ」


「授業サボるために精神病を装ってるんじゃないの?」


「うちの姉ちゃんが言ってたけど、病院にいるらしいよ。ほら、あの……ヤバいやつが入るところ」


「気持ち悪いオタクはだいたいああなるよね」


いくつかの視線がハルに向けられ、そしてすぐに逸らされた。


いつも逸らされる。


長く目を合わせてはいけない存在のように。まるでその異質さが伝染するとでも思っているかのように。


ハルは表情に出さなかった。


だが心の中では、その沈黙は騒音よりも重かった。


ブレザーを着て、バッグを肩に掛け、廊下に出ると、放課後のざわめきがさらに孤独を深めた。


廊下を進み、掲示板の横を通り過ぎ、ロッカーの前で寄り添うカップルや、視線を合わせると急いで逸らす生徒たちを通り過ぎた。


校舎を出て、外の空気に触れる。


空はオレンジと青の優しい色合いで染まり、雲は金色の滲みのようだった。校庭に足を踏み入れると、風がブレザーの裾を軽く揺らした。


そして――


「あんな場所には二度と行かん」猫は肩に乗って、最初からそこにいたかのように言った。その口調は芝居がかっていたが、明らかに不快感を表していた。「あれだけの人間に囲まれる気分が分かるか?匂いだけでも――」


ハルは歩き続けた。


「本気だぞ」と猫は不機嫌そうに唸った。「毎回あの雰囲気が窒息しそうだ。蛍光灯も最悪だ。あの場所を設計したのは常識に恨みを持つサディストだろう」


ハルは返事をしなかった。


「ところでまたお前を見ていたぞ」と猫は怠惰に尻尾を揺らしながら続けた。「全員がな。あの裁くような視線をナイフで切り裂けるものなら、俺が――」


「……アズラエル」


その言葉は鋭く、静かに放たれた。まるで抜き放たれた刃のように。


猫――アズラエル――は言葉を止めた。


尻尾が動きを止め、その身体は一瞬硬直した。


「……そうだな」


心地よい沈黙が訪れた。それは誰も見ていない、囁かない、分からない部分を埋めようともしない沈黙だった。


ハルは息を吐き、校舎が家々や静かな木々の間に消えていくのを感じながら、ゆっくりと歩いた。


少しだけ速度を落とし、舗道を見つめながら思った。


どうしてまだ学校に来ているんだろう。


その思考は響かず、ただ沈んだ。


ハルはポケットに手を入れ、学校の建物が悪い夢のように背後に消える中、静かに歩いた。


街路は賑やかだった。笑い声をあげる若者たち、寄り添うカップル、自動販売機の低い音が夕日の中に響いていた。


彼らを横目に通り過ぎた。


恋人に寄り添う少年や、イヤホンを分け合って笑い合うカップルを見て、その胸には静かな痛みが宿った。


自分はその世界の一部ではない。


アパートとカラオケ店の間に挟まれた小さな店に入り、ベルが鳴った。


店内は狭く、派手な包装のスナックや飲料、菓子類が並び、派手なネオンサインが輝いていた。


ハルは迷わず、辛いポテトチップス、謎の肉が入ったパン、派手な紫色の包装のチョコレート、そしてシュワシュワと音を立てる炭酸飲料を手に取った。


アズラエルは棚の上に座り込み、尻尾をゆっくりと揺らした。


「最初は塩分、それから糖分だ。気付けば30キロ増え、階段で息切れだ」


「二日間動かなかった奴が言う台詞か?」とハルが眉を上げる。


「終末に備えて体力を温存しているだけだ。そのゴミを食い続ければ生き残れんぞ」


ハルは皮肉混じりに薄く笑い、レジに向かった。


店員は顔も上げずに対応した。


その時、背後から声が聞こえた。


「あら〜?それ全部一週間分のおやつ?私の知らない秘密のパーティでもあるの?」


ハルは瞬きをした。

聞き覚えのある声だった。

「ミユ……」

「他に誰がいるの?」そう言いながら、彼女はすでにハルの視界に入ってきた。

彼が振り返ると、そこに彼女がいた。

ミユ。

小柄――いつも最初に浮かぶ言葉だった。身長は低いが、決して存在感を失うことはなかった。彼女が入ってきた瞬間、空気が一気に鮮やかになるような存在感だった。

濃い色の髪は高くポニーテールにまとめられ、墨の流れのように揺れていた。紫色のリボンが織り込まれていて、実用性ではなくただお洒落のために。

前髪はいたずらっぽく尖った輪郭の顔を縁取り、柔らかな頬と強気な紫色の瞳を引き立てていた。

その瞳……。

大きく、輝き、際立つように縁取られていて、まるで才能ある画家が描いたかのようだった。水晶に閉じ込められた星の光のような鮮やかな紫色。彼女が笑うたびにきらめき、その笑顔は頻繁に浮かべられた。甘く優しいものではなく、挑発的で少し歪んだ笑顔で、ハルの胸を締め付けるようなものだった。

彼女は美しかった――誰もが気付くような美しさではなく、じわじわと魅力が広がり、不意に心を奪われる美しさだった。彼女を見ていると、ハルの思考が途切れがちになる。

身体にフィットした紫と黒のジャケットの下には、スタイリッシュなメッシュのインナーが覗き、袖は緩く結ばれ、片方の腰にはユーティリティベルトが低く掛けられていた。側面には飾りの手裏剣が付いていた。

彼女は歩くのではなく、軽やかに弾むように動いた。まるで彼をからかうために現れた忍者のように。

理由は説明できない――あるいは認めたくないが――ハルは彼女のお気に入りの標的でいることを全く嫌がらなかった。

店員の目は飛び出さんばかりだった。

「お、お嬢さん……その目は一体どうなって……?すごく――綺麗ですね」明らかに彼女の顔に気を取られ、まともな接客ができていない。

「生まれつきよ」とミユは甘い声で言い、いたずらっぽく微笑んだ。「ラッキーなだけかな」

彼女は少し身を乗り出し、ウインクした。

「でも触らせてあげないわよ」

店員は顔を赤らめ、慌ててスキャナーを手に取り、小声で謝った。

ハルは喉を鳴らし、バッグのストラップを調整しながら、あえて彼女を直視しないようにした。

「……なんでここにいるんだよ」

彼女はニヤリとした。「外で教えてあげる」

彼女はくるりと踵を返し、ドアに向かって歩き始め、肩越しに振り返ってウインクを飛ばした。それは不意打ちのような威力だった。

「待たせないでね、ハーちゃん〜」

既にドアを半分通り抜けながら、彼女はニヤッと笑った。

「じゃないと、一人で楽しく遊び始めちゃうかもよ……」

ハルは二度瞬きした。

さらにもう一度。

レジがピッと音を立て、彼は慌ててコインを取り出した。

「あ、すみません……えっと……」

アズラエルは冷蔵庫の上から唸った。

「だから砂糖を食うなと言っただろう。女の前で頭が止まる」

「うるさい」ハルは呟き、頬を少し赤く染めながら急いでスナックをバッグに詰め、ミユを追いかけて店を出た。

ハルが外に出ると、午後の光は徐々に薄れていた。ドアのベルが優しく鳴り、通りは静かになりつつあった。遠くに自転車に乗る子供たちが見え、歩道の木々が風に揺れていた。

彼は左右を見渡した。

彼女の姿はなかった。

ハルは眉をひそめた。

「……ミユ?」

返事はなかった。

彼は自分の手元を見下ろした。

何もなかった。

「……ちょっと待て」

かすかな音。

振り向くと、案の定彼女がいた。

ミユは縁石にあぐらをかき、まるで王座に座っているかのように堂々としていた。彼女はハルが買った辛いポテトチップスを幸せそうに食べ、飲み物はそばに置かれ、片手にはすでにチョコレートバーを半分持っていた。

「えっと……ミユ……」

彼女は一口噛んだまま見上げ、悪びれることなく笑った。

「何、ハーちゃん?」

「勝手に食べるなよ」ハルは無表情に言ったが、最後はわずかに声が震えた。

ミユは目をぱちくりさせ、子犬のように首を傾げた。「勝手?失礼ね、手伝ってあげてるの」

「手伝って?」彼は繰り返し、その戯れた視線の重さから逃れようと必死だった。

「ジャンクフードやめなきゃって言ったのハルじゃん」と彼女はチップスを振って曖昧に示した。「良い友達でしょ?」

ハルは目を逸らし、首を掻いた。彼女はまたチップスを噛んだ。

後ろのフェンスの上に座ったアズラエルはゆっくりと尻尾を揺らした。「まったく厄介な奴だ」

ミユはまた一口チップスを噛み、リスのように頬を膨らませた。

「ところで今日は猫の王様はどこ?」彼女は膝の上の食べカスを払いながら尋ねた。「まさか、いつも文句ばっかり言ってる昼寝次元に昇天しちゃったとか?」

ハルは辺りを見回し、鼻からため息を吐いた。「アズラエル」

反応はなかった。

少し間が空いた。

すると、まるでアスファルトから熱が揺らぐように、ミユの膝の上の空気が揺らいだ。

アズラエルは空中から現れ、軽やかに彼女の膝に着地したが、即座に身を引いた。

「絶対に嫌だ」彼はそっけなく言い、すぐに飛び降りようとした。

「あっ、ダメだよ」ミユは素早く彼を捕まえ、再び消える前に腕を回して捕まえた。

アズラエルは軽く暴れた。強くというより、プライドを傷つけられたようだった。「離せ、小悪魔め」

「自分で私の上に現れたんでしょ」彼女はニヤリとし、彼をしっかり抱きしめた。「だから私のもの」

「俺を見えるのは俺が許しているからだ」と彼は鋭い金色の目を細めて唸った。「これは特権であり、神聖な信頼だ」

ミユは真面目な顔で頷いた。「じゃあ早速乱用しちゃおうかな」

アズラエルは深く、諦めたような息を吐いた。「ハル、この女をどうにかしろ」

ハルは近くの柱に寄りかかり、薄く微笑みながら二人を見ていた。

「彼女は俺の――」 彼は言葉を止めた。考え直した。 「……まあ、でも自分から彼女に着地したのはお前だぞ」

アズラエルは観念したように彼女の腕の中で身をよじった。

「俺は古代からの偉大な存在だ」彼は呟いた。

「ただの猫でしょ」ミユはすでに彼の耳の間を撫で始めていた。

アズラエルは動きを止めた。

耳がぴくりと動いた。

彼は身体を離そうとして、再び近づき、また離れた。本能とプライドの狭間で揺れていた。

「これは策略だ」

「効果ある?」

「……ない」彼は大声で言いながら、頭を彼女の手に沈めた。

数秒後、低くためらいがちな喉を鳴らす音が聞こえた。

ミユは息を呑んだ。「これが勝利の味?あったかくてふわふわで、バイクみたいな音がする」

アズラエルは目を閉じて呻いた。「最悪だ。何もかもが嫌いだ。弱い自分が嫌だ」

「シーッ」彼女はあやすように顎の下を撫でた。「もう抵抗しないで」

ハルは目の前で繰り広げられる騒動を見ながら、笑いを抑えようとしたが失敗した。

ただ面白いだけではなかった。 可愛らしかった。

アズラエルがプライドにしがみつきながらもバターのように溶けていく様子。

ミユが悪魔にカードゲームで勝利したような満足げな笑顔を浮かべている様子。

二人に当たる夕暮れの光。

彼は一瞬視線を下げ、ポケットに手を入れたまま呟いた。

「……危険だな」

アズラエルは片目を開けた。「何がだ?」

ハルはもう一度二人を、特に彼女を見つめ、肩をすくめた。

「……いや、なんでもない」

しかし、彼はほんの少し微笑んだ。

アズラエルはすっかりミユの膝の上で溶けきり、悪役が被害者に変わったかのようにドラマチックなため息をついた。彼女が耳の後ろを撫でるのを楽しんでいるようだった。

「訴えるぞ……精神的苦痛で……」彼はかろうじて聞こえる声で呟いた。

ミユは誇らしげで、少し得意げすぎるほどの笑みを浮かべていた。

しかし、ハルの目はいつもより少し長く彼女に留まっていた。そして今度は、彼の声は少し静かだった。

「……お前、なんでここにいるんだよ?僕の世界に」

ミユはすぐには答えなかった。

彼女はアズラエルの耳の後ろを最後にもう一度撫で、そっと膝から降ろした。

彼は静かな音とともに地面に着地し、ぶつぶつ文句を言いながら尻尾を振った。

彼女は立ち上がり、手を軽く叩いて埃を払い、まっすぐハルの目を見つめた。

「迎えに来たのよ」

ハルは瞬きもせず、意味を尋ねもしなかった。

彼はすでに分かっていた。

彼女はいつものニヤリとした笑みを浮かべながらも、そこには単なる悪戯心以上の何かがあった。

「Cチームに次のミッションが与えられたわ」

その言葉はまるで空気が重くなるようだった。

ハルはほんの一瞬目を閉じた。

そしてため息をついた。劇的でも苛立っているわけでもなく、ただ受け入れたように。まるで動き出す前に、すでに肩に重荷が戻ってきたかのように。

ミユは一歩近づき、まるで彼を指名するかのように胸元を指差しながら笑った。

「私たちにはキャプテンが必要なのよ……」

また一つ、ため息。

彼の頭を一つの思いが過ぎった。

「……普通の日は、諦めるしかないか……」


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