序章 ー 終わりの始まりと始まりの終わり
空はどこまでも広がっていた。広大で、果てがなく、銀色と淡い青が混ざり合っている。
雲はゆっくりと島のように浮かび、光の海に静かに漂っていた。星々は無数に輝き、現実とは思えないほど近くに感じられた。瞬くことなく、記憶のように静かに輝き続けている。
その下には、一面の水の世界が広がっていた。
透き通った水面は鏡のように空を映し出し、天国と海の境目を見分けることが不可能なほど完璧だった。
彼はまるでガラスのような水面に足を踏み出したが、水面は揺れることもなく、しっかりと彼を支えた。
沈黙が支配していた。
それでも空虚ではない。
恐怖も、混乱も、好奇心さえなく、ただ静かだった。ここでは呼吸が楽になり、気づかぬうちに背負っていた重荷が降ろされたかのような気分だった。
それは深い安らぎだった。
彼はここにどうやって来たのか覚えていなかった。目を覚ました記憶も眠った記憶もなかった。ただ目を開けば、静かな世界があり、彼は一人だったが、それが初めて心地よかった。
すると、遠くで何かが輝いた。
他とは違う光。
星のように冷たくもなく、雲のように柔らかくもない。
それは静かに、しかし強く彼を誘った。
言葉もなく、彼は光に向かって一歩踏み出した。
水面は息を飲んだ。
どれほど歩いたかは分からない。
ここでは時間が動かないように思えた。空が暗くなることもなく、星々も変化せず、そして水面は自分を映すこともなかった。
やがて彼はそれを見た。
巨大な何かが水面のわずか上に浮かび、影も映らず、重力にも縛られないようだった。
それは時計だった。
見たことのない時計だった。
その表面は古く神秘的な素材でできており、嵐の前の雲のような色だった。天使の羽根や後光のような精巧な模様が刻まれ、神聖な雰囲気を放っていた。
時計は家より高く、街道よりも広かった。静止しているが、生きているように周囲の空間を呼吸していた。
中心には金色の針が滑らかに回り、外周には数字ではなく、多くの顔が描かれていた。そのすべてが彼を見つめていた。
彼は目を逸らせなかった。
それは神聖で、言葉では表せないほどの真実を秘めているように感じられた。
針が七番目の顔を通り過ぎた時、彼は息を呑んだ。
針の動きが速すぎる。
八番目の顔に向かって異常な速度で進み、針が八に到達した瞬間、空気が割れた。
光が歪み、世界全体が歪曲した。星々が消え、水面が引っ張られ、彼の体が沈んだ。
衝撃。
目を開くと、すべてが崩壊していた。
静寂も安らぎも消え去り、炎と灰が満ちていた。息苦しいほどの熱気が世界を覆っている。
遠くでは火が燃え盛り、悲鳴と静寂が入り混じり、かつて神聖だったものが破壊されていた。
ただの戦いや敗北ではなく、これは崩壊だった。
その中心に彼自身がいた。
誰に言われるまでもなく、自分がこの惨劇を引き起こしたことを悟った。
彼は走った。
瓦礫と炎の中を駆け抜け、止まれば飲み込まれるような気がした。
あらゆる方向から悲鳴が響き、世界そのものが彼の裏切りを嘆いているようだった。
息が上がり、心臓が鼓動した。
そして、彼は凍りついた。
何かが見ていた。
煙の向こうに、暗く巨大なシルエットが立っていた。その存在は、空間そのものを押し潰すような重みを放っていた。
それは危険で、呪われていた。
だが同時に、孤独だった。
勝利者のそれではなく、取り残された者の孤独だった。
その時、時計の音が響いた。
空を見上げると、あの時計が空全体を覆い尽くしていた。天使の文字が燃えるように輝き、時計の針が逆方向に動き始めていた。
シルエットもまた、静かに見上げていた。
八から七へ針が戻った瞬間、世界は逆転し、すべてが巻き戻された。
そして彼は目を覚ました。
しかしその夢は心から離れなかった。
決して、離れることはなかった。