5.魔法のインク
お題
・左利き
・駅のベンチ
・魔法のインク
ChatGPTより
グランドセントラル駅のベンチには1日中、絵を描いているおじさまがいます。
シルクハットにコート、水筒には紅茶が入っており、英国紳士然としています。
おじさまは今日もペン1本で絵を描きます。
電車の絵、通りすがりのマダムの絵、威厳のある車掌さんの絵。
そこにいる人や物を描いている時もあれば、知らないどこか遠いところを描いていることもあります。
今日は1人、お世辞にも身なりの良いとはいえない男の子がおじさまの前に現れました。
「おっさん、俺の絵を描いてくれよ。おっさんが描けばこんな俺だって大物になれるんだろ?そしたらこれの100倍の金払ってやるよ」
そう言ってくしゃくしゃの5ポンド札が握られた拳をおじさまにつきつけます。
「いいですよ。その代わりそれは受け取れません。キミがどうやってそのお金を手に入れたかはわかりませんが、キミのお金ではないようですから」
おじさまはお金を受け取らずに隣に男の子を座らせ、足元の大きなトランクケースから見たことのない色をしたインク瓶を出しました。
男の子はそのインクに釘付けになりました。
なぜなら虹色に輝いているように見えたからです。
「おっさん…そのインクって…?」
「シーっ」
おじさんはおどけたような表情で静かにするよう、人差し指を口に当てると、持っていたつけペンの先をどぷりとインク瓶につけました。
輝くインクがポタポタと瓶の中に垂れ、小さな瓶の中でいろんな色の波紋が広がります。
スケッチブックを1枚捲ると流れるようにペンを走らせます。
たちまち紙にのる色が変わり、いろいろなものが描かれて行きます。
青い空白い雲赤い屋根の建物に金色の原っぱ、その真ん中にはポツンと緑の服を着た男性が立っています。
「さあ出来たよ」
おじさんがビリリと破いたスケッチブックのページを男の子に渡します。
それを受け取った男の子はなんと緑の服を着た男性になってしまったのです。
ページの他には片手にガーデンフォークを持っています。
「うわぁ!なんだこれ!」
驚いて両手を離し立ち上がると、ページもガーデンフォークも消え、元のボロ服に戻ってしまいました。
「おじさん!どういうこと?!」
振り向いた男の子はまた驚きます。
おじさまが消えてしまっていたからです。
腰が抜けてしまった男の子は、しばらくベンチに座っていました。
ふと自分の手の中に5ポンド札が握られていることに気づいて、見つめてみます。
そして、先ほどとは違う、少し大人びた表情でグランドセントラル駅をあとにするのでした。
7月5日に間に合いませんでした…。
6日分はお休みします。