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面接先から再び連絡があるまでこちらから掛けなおすことも出来ずに、ぼくは着信に気づかなかったふりをして面接の結果を聞いていた。予想通り採用だった。そしてできれば明日から来てほしいと言われたけど、ごにょごにょと言い訳をして、来週頭から働き出すことになった。別に用事もなかったけど、いきなり働くなんて絶対に無理だと思った。大体半年くらい世間から隔離されたような暮らしをしていたぼくが今日面接できたこと自体が奇跡のようなものだ。今日の疲労感は相当なものだった。肉体と精神の回復には数日が必要だと思う。だからいきなりは働きたくない。ぼくは必死に求人誌を見返して条件を確認しながら、就業時間がここに書かれてある時間と違ったらどうしようか悩み始める自分に、どうして面接の時条件の確認をきちんとしなかったことも今までさんざん繰り返してきた失敗だったじゃないかと、自分の成長のなさを嘆き、初出勤までの日々を悶々と過ごした。
ぼくの仕事はスーパーの品だし作業だ。本当は夕方からのシフトを希望していたけど、仕事を覚えるまでの間朝からのシフトに入れさせられてしまった。そこも断ればよかったのに、どうしても出来ませんという一言が口から出てこなかったから、自分で面接まで受けたその仕事をぼくは嫌々やってあげているんだという気分で行うことになった。
一人きりの部屋で考えるとそれがどれだけ歪んだ考え方かが解るのだけど、その時は冷静に物事を考える余裕などなく、そこがまた問題なのだけど、どんな状況におかれても冷静さを失わない精神力がほしい。
でも誰かがくれるわけもないし、今までもそうだったように誰も自分を助けてくれるわけないじゃないか。自分を救えるのは自分の意思のだけだと心に誓ったはずの決意をぼくはあっさり忘れている自分が嫌になる。壁に格言みたいにして貼り付けていつでも見返せるようにしておこうか。
朝の六時に店に着く。よく分からないうちからペットボトルの入った台車を引かされる。膝をついた格好で棚に並べ、今日あったばかりの、ぼくと変わらないくらいの年齢の男に怒鳴られながら丁寧に並べ直す。その時点ですでにぼくのやる気は最低で、今にでも逃げ出してしまいたいくらいなのを、ここで逃げたらまた同じことの繰り返しだ。せめて今日一日でもやり遂げよう。一日分のバイト代くらいは稼いでおこう。それでまた本でも買おう。それを楽しみにしてがんばろう。
そう言い聞かせてみても、一度失ったやる気が復活することはなく、その日のぼくはきっとすごく泣きそうな顔をしながら、嫌です嫌ですって感情を全身で表現したような行動をとっていたんだと思う。
何度もぼくは、「やる気あんのか?」って怒鳴られていたから。
ありません。とは答えられないのが余計に自分に嘘をついているみたいでさらに自己嫌悪まで起こり、ようやく仕事が終わった頃には今日で辞めるという固い決意ができあがっていた。
けど、面と向かって店長には言えずに、その日遅く携帯から電話をかけて店長に根気がないことをなじられつつ、それでも辞めますと伝え約半年ぶりのバイトを終わらせた。
来月に一日分の時給が振り込まれるらしいが、それまでの生活費を何とかしなくてはいけない最悪の状況を作り上げたことに腹が立ち、ぼくはやっぱり駄目人間なんだと痛感するしかほかにやることが思い浮かばず、狭い部屋で夜中中自分を責め続けていた。