9:夢です、夢。
ユリウスがフンと鼻で笑いながら、更に言葉を続けた。
「で、アリスターにも手紙を出したらしいな?」
「ふぐぉ……」
「馬鹿なのか?」
出したわけじゃないのよ。意図的に出してはいないのっ。不幸な事故なのっ。
てか、アリスターの件もバレているっぽいけど、二人でなにか話したのかな?
「なななな中身は読んだのでしょうか?」
「いや。だが、確認したいことがあるから迎えに行きたいと言い出してな。あいつには何を書いたか言え」
――――偉そうに命令すな!
いや、偉いんだけどさ。中身は聞かないで欲しい。
「私にはコレで、あいつには何を書いた? まるで未来を見てきたような内容だが?」
「っ、あ……いや、夢です、夢。ただ脳内から追い出したくて書いただけなんです」
「夢、なぁ。それにしては、妙に設定がリアルだがな。で、ヒロインとは誰だ?」
「夢ですので、知りませんわ」
ふいっと顔をそらし、ティーカップを手に取った。ゆっくりと口をつけコクリと飲むと、好みの甘さだったこともあり、身体から緊張が抜けて、少しだけ心が和らいだ。
「そうやって目を逸らすときは、不安になっているときだろう?」
「っ――――!」
ユリウスとイザベルは長い付き合いだから、そういう細かいとこバレているのよね。
そりゃ不安よ。だって、ユリウスの婚約者になったんでしょ? ということは、ヒロインはユリウスコースを選んだってことじゃ…………あ、そういえば、もうひとつのルートもユリウスの婚約者だった。
近衛騎士ラウル【♡♡♡】のルート! ラウルルートも、ユリウスの婚約者だったじゃない。
どのみちヒロインを虐めなければ問題なさそうに思えるけど、怖いことがある。
それは世界の強制力や修正力と呼ばれるもの。
前世のコミックやアニメで良くあったパターン。
辿り着きたくない未来から逸れたはずなのに、ルートに戻されて抜け出せないとか、本当によく見たもん。
もしも、あれが発生する世界なのなら? この抵抗も無駄? いえ、諦めたらそこで負け確よ。そんなの嫌よ。
私は、ハッピーかつピースフルに人生を謳歌したいのよ。『波乱万丈イザベル物語』みたいになんか恥ずかしめの劇とかにされたくないのよ!
ちなみに、最近巷で流行っているのは『肉食令嬢』という劇。異性関係での肉食かと思いきや、お肉大好きなだけのドタバタ狩猟劇らしい。
見に行きたいのよね。すっごく人気で、チケットが全然取れないらしい。
「さっきから百面相がしているが、顔がうざいぞ?」
「言い方ぁ。もう少しまろやかに言っていただけませんこと?」
「ふん。で、何を考えていた」
「え? ちょっと現実逃避に『肉しょ…………いえなんでもございません」
「ふぅん?」
コレ、言ったらユリウスがチケット持ってくるやつでしょ? ギスギスした状態で、王族用観覧席とか座りたくないわ…………想像しただけで鼻水垂れそうよ。