8:脳にはなんの障害もない。
「おかげさまで、なんともございませんわ。本当にご迷惑をお掛けしました」
礼儀として、一応真面目に返答しておきました。
さぁ、来い! 覚悟は出来てる!
「そうか。それで、昨日の結果だが」
――――昨日? 結果?
「イザベルが婚約者に決まった」
「…………はい? 誰の?」
「私のだが? なぜそれ以外があると?」
いや、だって……なぜに私がユリウスの婚約者? え、まさか…………え? ヒロインちゃん、ユリウスを選んだの? 茨の道よ? ツンツンツンツンした激ツンだよ? 攻略難易度【♡♡♡♡♡】だよ? ヒロインちゃん、顔派なの!? それともМなの!? ねぇ! どっち!?
「で、返事は?」
いや、返事って何に対してよ。睨みつけないでもらえますかね。そもそも、いつの間に婚約者とか決まったのよ。普通、家同士の話し合いが――――。
「陛下と侯爵たちの話し合いは既に済んでいる」
お父様とお母様、昨日なにも言ってませんでしたけど?
そもそも、話し合いが済んでいるということは、返事もなにも、拒否権など存在しないのでは?
「イザベル、返事」
「っ、首チョンパしないという契約書を作ってください!」
つい。そう、つい口から飛び出していた。
言ってしまった瞬間、ユリウスの顔というか眉がピクリと動いた。
「くび、チョンパ?」
「斬首です!」
「………………やはり、昨日倒れたときに頭を打ったか。元より少し可怪しかったが、脳に何らかの障害が出てしまったようだな……」
――――をい、失礼だな。
元よりそこそこちゃんと生きていたよ、私は。確かにわがまま放題だったけどさ。
そうだ、わがまま放題だったけど、いいの? それを王太子殿下の婚約者にして、いいの? 聞きたいけど聞けないというか、聞いたら終わるというか。
「この手紙も意味不明だしな。一度医者に診てもらえ」
ユリウスが内ポケットからスッと取り出した封筒には、我が家の家紋が入っている。そして、宛名がガッツリ私の字で『ユリウス』と書いてあった。
ものすごく見覚えのある封筒だ。おおよそ十五分前にも見た気もする。
「ほぉ? その顔は見覚えがあるのか。イザベル、お前が書いたんだな?」
「…………」
あー、マズい。ユリウスの顔が、なんか明らかにドSの顔だわ。
「確か、オトしたくない、顔だけはいい、だったか?」
「だ……だけ、とは書いてないはずです! 顔はいい――――あ」
「ふん。やはりか」
――――しまった!
完全に語るに落ちたこの状況。どうしたらいいの? ってか、どうしたらいいの、の事態が二つも重なってるんだけど、どうしたらいいの?