7:湯浴みしていないから。
アリスターに馬車から降りろと言われて躊躇する。だってさ、呼び出された理由ってアレよね? アリスター宛のやつは、アリスターの懐のポッケにインしているから奪い返せないし……。
――――あ、そうだ。
「昨日のお茶会で倒れましたでしょう? 屋敷に帰ってすぐ休んでしまいましたので…………その、湯浴みしていませんの。流石に王太子殿下の前に立てませんわ」
「…………香水振りまいているのでいいんじゃないでしょうか。臭いませんよ。あ、香水は臭いですが」
「ヌグゥ……」
アリスターァァァァ!
コイツ、いつかまじで坊主にしてやる! んで刈り取った黒髪でウイッグ作ってやる! もっとデリカシー持てぇ!
確かに香水臭いよ? だって着替えるときに、侍女さんがこれでもかと振りかけて来たんだもん。
たぶんナチュラルイザベルがガン振りタイプだったんだよね。私自身が臭かったとかじゃないはず。乙女として、流石にそれは認めたくない。
「ブフッ」
――――ん?
いまどこからか吹き出す声が聞こえたな。アリスターか? お前か、お前なのか?
ギロリと睨むと真顔で右手を差し伸べられた。エスコートはしてくれるらしい。ちょっとは紳士なんだね?
「では、私はこれで」
馬車から降りると、アリスターの手に重ねていた私の左手が、王太子ユリウス【♡♡♡♡♡】に渡された。そしてアリスターは消えていった。
「何やら楽しそうだったな?」
ユリウスが真顔で聞いてくる。さっきも真顔のヤーツ相手にしていたのに、また真顔。しかも今度は激ツンなんだよね。私のメンタル帰りまで保つかしら?
王城内をエスコートされ、連れてこられたのは温室にもなっているサロン。秋目前の今は特にありがたい場所。ガラス張りのこのサロンは、暖かな空気で満たされている。
「飲み物は紅茶でいいな?」
「はい」
侍女に何やら指示を出しているユリウスの頭上を見る。【♡♡♡♡♡】ってさ、誰にも見えてないんだよね? 侍女さんたちも何も気にしてないし。
あれ、触れるのかな? いや、触ったところでどうしようもないだろうけども。
「何だ? じっと見て。用があるならハッキリと言え」
「…………なんでもございませんわ」
なぜにそうもズバッとビシッと言うのよ。顔はいいけど、ツンツンしてるから怖いのよね。なんか怒られてるみたいで。
指示を終えたらしいユリウスが目の前に座ると、侍女たちや護衛たちまでサロンから出て行ってしまった。
普通さ、未婚の紳士淑女を部屋に二人きりとかにしないのよね。何か間違いがあったらいけないから。
ドアを少し開けておいて、側に使用人を立たせるのが決まり。だけど、サロンのドアはしっかりと閉じられていた。
「体調はどうだ?」
ユリウスが優雅に足を組み、紅茶を一口飲んでそう聞いてきた。
あれね、これからが本番なのよね? アレのこと聞くんでしょ? アリスターと同じように、ズバッと抉ってくるんでしょ!?
――――うらぁぁぁ! どんと来いやぁ!