61:おねだりしてみよう。
改めてよろしく、とツェザールがクリスティーナに視線を固定して挨拶していた。
あ、なんだか標的が変わった感じ? という安堵。
やめろ、その二人を標的にするな! という焦燥。
「ツェザールって、婚約者いないの?」
取り敢えず、牽制の意味も込めて暴投してみる。ツェザールがイラッとしてこっちを見たから、隣にいたユリウスの頭を両手でガシッと掴み、ツェザールの視線上に動かしておいた。
「……馬鹿か?」
婚約者に対して、ソレは酷くない?
「イザベル嬢、知っておきながらソレをここで投げる勇気は褒めるが、それ相応の覚悟はあるんだろうな?」
「覚悟? あるわけないじゃないの!」
全員に『ないのかよ……』という顔をされてしまった。いや全員じゃないわ。クリスティーナだけはキラキラとツェザールを見てるわ。あれ、絶対に恋バナ聞きたいだけの女子の顔だよ。
ごめんよクリスティーナ。ソイツからは素敵な恋バナとか出てこないよ。ソイツ、婚約破棄されてるよ。あまりにも闇が深いヤンデレのせいで、幼い頃に婚約者に逃げられてるよ。
しかも、それを十年引きずってるよ。やっとまともに動き出したのが、今回の食客としての滞在だよ。
闇堕ち王子だよ。
設定ではヒロインの聖なる光によって闇は解けゆく――とかのアオリが書いてあったよ。なんなのよ聖なる光って。別に聖女じゃないのに。
いや、メンタル聖女だけど。
「とにかくっ! クリスティーナはエドヴィンのものなので、手出し禁止!」
「キャッ」
「なっ、ちょっ、大声で言わないでください……」
「ほぉ?」
頬を染めるクリスティーナに、焦るエドヴィン。初々しいわね。
ラルフやアリスターがエドヴィンにおめでとうと言いつつもいじって笑っていたけれど、ツェザールはちょっと楽しくなさそうな顔をしていた。実はちょっと好きになってたとか? いやでもツェザールだしなぁ。おもちゃに出来なかった、つまらんな、くらいのあれかもしれない。
どうにかのほほんとした空気に戻り、サインの再開。
最後にエドヴィンが書いて終了。
「さて、今回の目的はこれで完遂したが……イザベル、他にもあるんだろう?」
「ええ。こちら、私の兄というかメンタル姉が我が家を継ぎます。それに伴い、今まで行ってきた事業をこの国と協力して展開したいそうなの」
「なるほど?」
アリスターが、眼鏡キラーンしたので、興味を持ってくれたらしい。
「細かな事業内容はひとまず置いておいて、マクシミリアンは我が家を継ぐための諸々で忙しくなるのよね。だから、それらの中継ぎとして双方の事情を知っている文官を借りたいのだけど、そもそもそんな文官はいないじゃない?」
「ふむ」
ユリウスのこの反応は、たぶん今のだけで全部理解してそうだけど、最後まで言っちゃえ。
「だからね、ユリウス。エドヴィンを文官として雇ってね?」
こてんと首を傾げて、おねだりしてみた。クリスティーナ風に。たぶん私だってやれるはず! という妄想のもとに。
効果の程は知らない。





