58:ラウルは受け入れる。
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いつだって、覚悟していた。
いつかはこういう日が訪れると、分かっていたんだからな。
幼い頃から高飛車なイザベル。
黄緑色の髪の毛を振り乱し、あれやこれや好き勝手に命令してくる、可愛らしい存在だった。
普通の子どもなら、『将来は王子様と結婚する』などと夢見るものだろうが、イザベルは違った。
『わがやの、ちいをかんがえると、こうしゃくあたりと、けいやくするわよ』
五歳にして、そう言い放つ子だった。
当時、意味がわからなくて両親に尋ねて苦笑いされたものだ。そして、その時から覚悟をしていた。
貴族は契約結婚をすることがままある。地位が高ければ高いほど自由とは限らない。高いからこその雁字搦めの因習もあるのだと。
イザベルを通じてユリウス殿下に出会い、騎士となり、忠誠を誓った。
騎士の忠誠は、主人に命を捧げるものだ。自分の命より、大切なものを得た。これも因習なのだろうが、俺はそれに誇りを持っている。
イザベルもきっとそう。家に誇りを持っている。だからこそ、家同士での繋がりのために結婚することを、昔から覚悟していたのだろう。
――――と、思ってたんだけどなぁ?
「殿下のこと、好きなのか?」
イザベルを屋敷に送り届ける馬車の中で、つい聞いてしまった。一瞬で真っ赤になり、顔を背けて窓の外を見たイザベルの反応で理解する。
「…………知らないわよ」
弱々しく紡がれた言葉が、真実なのだと伝えてくる。
「この場だけの戯言だと思って聞いてくれ。二人きりになる機会はそうないから……」
「ララ、いるんですけど?」
イザベルの隣に座り、空気に徹している侍女に視線を向ける。目をつぶり、軽く一礼された。何も聞かなかったことにしてくれるだろう。
「彼女は聞いていない」
「そんな無茶な……」
呆れ返りながら、こちらに視線を戻してくれたイザベル。ちゃんと話は聞こうとしてくれるんだよな。
こういうところは、昔も今も優しい。
「なぁ、イザベル。俺は幼い頃からイザベルが好きだったが、一ミリも可能性はなかったのか?」
「ありがと。ないわよ」
「だよな。理由は?」
「だって、ラウルは家族だもの」
――――あぁ。
なんだろう。好きだとかなんだとか、そういうものを超えた愛を感じた。異性間のではない、慈しむ愛。
それで満足してしまえるのだから、俺のこの想いもそういうものだったのかもしれない。
「殿下を裏切らない限り、俺はイザベルを護り抜くよ」
「当たり前じゃない」
何を馬鹿なことを言っているんだ、というような表情。眉を少し寄せて、ちょっと呆れたような顔。
「ふっ、はははは!」
あぁ、イザベルはイザベルなんだな。
ちょっと変わってしまったような気がしていたが、根本的なところは同じなんだよな。
殿下はまだ少し戸惑っているようだが。
俺は小さな優越感を胸に秘めた。
やっと、前に進める気がする。





