54:戸惑うユリウス。
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想定外のことばかりが起こる。
イザベルが変わった。改心したとか、そいうレベルではない。人格が変わったと感じるほどに。
家格や相性から、婚約者の最有力候補になっていたイザベル。
だが、ずっと話が進まなかった。
理由は明快。彼女の性格と振る舞いに、議会が二の足を踏んでいたからだ。
王太子妃になるということは、将来は王妃だ。イザベルの傲慢さが、普通の者たちには恐ろしく感じていたのだろう。
私は好ましく思っていたが。
一見、わがまま放題なイザベルだったが、法則性はあった。
相手の失態で他人が迷惑を被ると感じたとき、誰かしらが怪我をしそうなとき、それによって心を傷つけられる者が出そうなときが特に酷かった。
そう、酷かったのだ。酷すぎて、皆が引く。
「少しは堪えろ」
「嫌ですわ。なぜ私が我慢せねばなりませんの?」
そんな風に堂々と言い切ってしまう。これほど清々しい女性はいままでもこれからも出逢えないだろうなと思っていた。
私は、イザベルに恋をしていた。
裏から手を回し続け、侯爵にも話を通し、イザベルが誰の手にも渡らぬようにしていた。
予定調和の婚約者探しのお茶会。婚約者など、探してはいなかった。
ただ、イザベルと仲睦まじく話し、皆に私たちの関係性を植え付けるのが目的だった。
「キャッ!」
緩やかな巻き髪を振り乱し、勢いよく転けそうになっている令嬢を抱き留めた。目の前で怪我などされたら面倒で。
「ありが――――王太子殿下!?」
「あぁ、王太子殿下だな」
「ですよね……ありがとう存じます」
ただ挨拶程度の会話をしていただけだった。
目の端にイザベルがいることには気付いていた。だから、チラリと彼女の表情を確認した。やきもちでも妬いてくれれば儲けものだと。
「きゃぁぁぁぁ」
大きな口を開けて、白目を剥いて、直立のまま仰向けに倒れた。スローモーションだった。間に合うはずもないのに、全力で駆け寄った。
イザベルを抱き留めたのは、たまたまなのか近くにいたラウル。
――――クソッ。
王太子らしからぬ悪態を心中でついて、ラウルからイザベルを奪い取る。
王城内の客間に連れて行き、そっとベッドに寝かせた。
侍医いわく、原因不明。ただ気絶して、いまは寝ているだけ。何かの病気などの検査は後日落ち着いてからでも大丈夫だと言われたが、本当に大丈夫なのだろうかと不安になっていると、イザベルが目覚めた。
「……づはぁぁぁぁ! っ、あれ? ここ?」
「気が付いたか。全く、人騒がせな」
「王太子殿下……」
――――王太子殿下?
目覚めた瞬間から、イザベルは何かが違った。





