5:ぐはぁぁぁ!
大失態にのたうち回っているうちに、夜になってしまった。
侍女たちは部屋の隅でカタカタと震えている。
なんか脅かしてごめんねと言うと、更に震えられた。なんでよ。いやわかってるけどね。
「ふぅ。寝るわ」
「おおおじょうさまっ、湯浴みはどうされますか」
「明日の朝でもいい? 今日はなんだかもう無理だわ。手間を増やしてごめんね」
「ヒッ、いえ、しょ、承知しました」
いま『ヒッ』って聞こえたけど? きのせい? え、私そこまで侍女たちに怖がられてるの? 大丈夫?
夜ふかしは美容の大敵だし、なんか疲れたから寝ようと思ったけれど、昼間に意識を飛ばしてたときに結構寝ていたらしい。
ベッドの中でゴロゴロしているけれど、なかなか眠気が来なかった。
枕元に広がる髪の毛を一房取り、指に巻きつけながら見つめる。
「黄緑だわ……」
元の世界ではありえない色。この世界には色が溢れている。
ふと攻略キャラたちを思い出す。宰相補佐のアリスターの見た目は落ち着くわ。黒髪だからってだけども。
いーなー、黒髪。なんか無駄に髪長いし、丸刈りとかにしてくんないかな。それウイッグにするから。
「…………それこそ、首チョンパされるか」
えー、昨晩なんか失礼なことを考えた気がするんだよね。目の前に座っている宰相補佐アリスター【♡♡】に対して。
なんでこんなことになってるんだっけ?
朝起きたら、宰相補佐が我が家のサロンに来ていると言われた。
なんでだろと思いつつデイドレスに着替えてサロンに向かうと、王太子殿下が呼んでいるから王城まで来るようにと宰相補佐に言われた。
なんで従僕じゃなくて宰相補佐が来たのよ? そう聞いたのに軽やかに無視された。そして「馬車にお乗りください」とメガネをキラーンさせながら言われた。
馬車に乗り、揺られながら目の前のアリスターを見る。頭上に浮かぶ【♡♡】も見る。ハートが二つってことは、攻略はちょっと簡単なんだよね。ただし、クリスティーナには。
もしかしてさ、ヒロインには簡単ということは、私には難しいのでは?
反対に、ヒロインに難しいのなら、私には簡単、とか?
むむむん。この可能性はちょっとこれだけじゃ確定はさせられないよね。かといって、積極的に接触はしたくないしなぁ。
「ところで……」
「はい?」
「あの手紙は、なんだったのですか?」
――――ぐはぁぁぁ!