49:エドヴィンの覚悟。
□□□□□
馬車の中で、かなりの格上であるグランフェルト侯爵家とイザベル様に対しての、失礼な行為に頭を抱えていた。
こちらから押しかけておいて、怒りに任せて同伴者を置いて退室など、最低すぎる。
「エド…………いる?」
心細さがうかがえるような震える声が聞こえた。きっと泣きそうなのを堪えて、必死に絞り出したのだろう。
クリスティーナが馬車のドアから顔を覗かせたが、やはり涙目だった。
「ごめん、クリス。おいで」
馬車に乗るよう手を差し伸べると、困ったように微笑まれてしまった。
「もう、友だちではないのでしょう?」
諦めたようにそう言うクリスティーナ。俺のせいで、傷付けてしまった。それなのに、クリスティーナは「嫌な言い方してごめんね」と謝ってきた。
首を振り、もう一度手を差し伸べると、クリスティーナが手を取ってくれた。
まだ、間に合うのだろうか?
家に帰る馬車の中は、酷く重たい空気で、一言も話せなかった。行きとは大違いだ。
クリスの家に到着し、エスコートしようとしたが、断られた。そのまま乗ってていい。一人で降りられると。
きっと、このまま別れたら、俺たちは駄目になる。
馬車から降りて玄関に向かうクリスを追いかけた。
「クリス待って……クリスティーナ、好きだ。友人や家族愛とかじゃない。異性として、好きなんだ」
「っ…………好きだけでは、どうにもならないことってあるのよ?」
「知ってる。君に苦労をかけたくなかった。君に大変な思いをさせたくなかった。それでも俺は君を――――」
知っているんだ。クリスがずっと我慢してるって。ずっと堪えてるって。だから、幸せになってほしくて。何不自由ない人生を歩んでほしくて。でも――――いまの俺には何の力もない。
「エド………………」
クリスの空色の瞳からポタポタと透明な雫がこぼれ落ちた。
泣かせてしまった。傷付けてしまった。
もう無理なのかと思った。
「あのね、私も好きなの。ちゃんと好きなの……お嫁さんにしてくれる?」
「――――っ!」
勢いとは怖いもので、クリスの言葉を聞いた瞬間に、抱きしめてキスをしていた。玄関先で。
「…………玄関先ですることじゃなかったな」
「ふふっ」
さっきまで泣いていたクリスが、ひまわりのように笑った。なんて愛しいんだろうか。この子の笑顔を一生守りたい。
「クリス」
「なあに?」
「少しだけ、時間をくれるかい?」
「何の?」
きょとんとウサギのような顔をして聞いてくるクリス。あぁ、可愛くて鈍感な俺の愛しい子。
きゅむっと鼻を摘んで「察しが悪い」と言うと、頬を膨らませて怒っていた。そんな顔も、可愛い。
「ちゃんとプロポーズしにいくよ。お互いの両親に許可を取って」
家を継ぐだけじゃ足りない。どれだけ泥臭かろうが、恥知らずだと罵られようが、家を立て直す。
クリスやクリスの家族が安心できるように。
――――もう少しだけ、待っていて。





