48:クリスティーナの想い。
クリスティーナが、エドヴィンが出て行った扉をじっと見つめていた。
「……大丈夫?」
「っ、わからないです」
「なにが?」
「好きとか嫌いじゃどうしょうもないことがあります」
確かにそうよね。どうしようもないし、どうにもならないことって多いわね。貴族って自由そうに見えるけど、本当はたくさんの縛りの中で生きている。
今は多少緩んでるけど、平民みたいに愛や恋や触れ合いを経ての結婚は、ほんの一握り。
女性が外で働く、手に職を持つなんて、以ての外。
なのに、侍女は許される。
パン屋さんをしたい子だっているはずだ。花屋さんをしたい子だっているだろうに。
親の反対を押し切ってもいいけど、そうすると待っているのは絶縁がほとんどだ。
このレールの中で私たちはどれだけ自分の心を守れるのか。
「そうね。クリスティーナは、もう諦めてるの?」
たぶん、この子は幼い頃は心からエドヴィンが好きだったんだと思う。そうじゃなければ、今もこんな風にお互いが一緒にいることが当たり前のようにはならないから。
「私、狡いんです。エドがもし踏み出してくれたら、閉じた宝箱を開けようって……決めてたんです。将来どんなことになってもって……」
クリスティーナはど天然だし鈍感だけど、頭が悪いとか考えてないとかじゃないのよね。
あと、一度決めたことは、やり通す子だったのはよく覚えてる。すごく真面目だなぁ、私こんなに真っ直ぐに走れるかなぁってゲームしながら思った覚えがあるもの。
たぶん、今回のことも、エドヴィンの行動しだいでクリスティーナが将来を決めるって聞こえるように言ってるけど、本当のところは違うんだと思う。
「エドヴィンのこと、大切なんだね」
「っ、はい」
大切だからこそ、好きだからってだけでエドヴィンの将来を潰したくないんだろうな。それに家族との絆もある。でも、エドヴィンが踏み出すのなら、クリスティーナは全てを捨てて一緒になる覚悟が出来てるのか。
「クリスティーナは凄いわね。偉い、物凄く偉いわ。その気持ち、ちゃんとエドヴィンに伝えなさい。こんな仲違いのしかたは嫌でしょ?」
「っ、はい……」
エドヴィンはたぶん馬車でクリスティーナを待っている。
だって、まだ我が家から馬車が出発していないから。二人一緒の馬車に乗ってきたけど、クリスティーナを置いて行くことだって出来るはずだ。我が家に任せればいいだけだから。
それでもエドヴィンがクリスティーナを待つのは、間違いなくそこに愛があるからだと私は思う。
「行って、伝えてきなさい」
「はいっ」
パタパタと走り出すクリスティーナの背中を見送った。どうか、うまくいきますように、と願いながら。





