14:婚約したくない理由。
何度も何度も何度も、ユリウスから早くしろという伝言が届けられたが、全スルーしてドレスを着てガッツリとメイクもしてもらった。
まったく、ユリウスは乙女に急げなど紳士の風上にも置けないヤツだ。
ゲームの時は結構好きだったけど、実際に接しているとツンツンツンツンキャラなんて面倒なだけだと思う。
悠々と歩いてサロンに向かうと、イライラオーラを背負ったユリウスが腕組みして待っていた。
完全無視し、にこりと笑いながら向かい側に座ると、チッと舌打ちされてしまった。
「遅い!」
「あら? これくらいも待てないのですか? 早漏ですか?」
前世で最強の煽り文句を言ってみたら、ユリウスの額に青筋が立った。
――――あらまぁ、怖いわね。
「それで、こんな朝早くから何をしに来られましたの?」
「もうすぐ昼だが?」
働く貴族と、無職の貴族令嬢は生きる時間帯が違うのよね。正直、前世からしたら怠惰でしかないほどに惰眠を貪っているけれど、ほとんどのご令嬢がこんな感じだから、気にせずダルダル過ごそうと思っている。
あと、引きこもっていれば、あんな黒歴史的手紙の存在も忘れ去られるだろうし?
「用がないのであれば、王城に帰って国民のために馬車馬のごとく働いてください」
「お前なぁ……性格変わりすぎじゃないか? 本当にイザベルなのか?」
――――あれ?
前世を思い出す前も、ユリウスにはこんな感じの対応じゃなかったかな? あー言えばこー言う的な。
てか、ラウルもだけど、なんでイザベルじゃない判定………………あ!
「それそれ、実は記憶喪失なんですの。だから婚約は破棄してくださいませ」
「意味が分からん」
「え? 記憶喪失とは、精神的もしくは外傷的な何らかの――――」
「そこじゃない」
そこじゃないって、じゃあどこなのよ。
「婚約破棄? あ、そうですね! そもそも正式には婚約してませんものね」
「そこでもない」
「じゃあどこなんですの? ちゃんと説明してくださいませ」
なぜかユリウス様にハァと大きなため息をつかれてしまった。
なんでそんなに呆れた感じでこっちを見るのよ。まるで残念な子を見るような目。なんかムカつくわね?
「記憶喪失という明らかな嘘に、それを理由に破棄したがる意味が分からない」
「……意味? ないですけど? 婚約したくないだけです」
「なぜ婚約したくない」
え? ユリウス様ってアホなの? 婚約したくないのは、婚約したくないからでしょ?
「…………イザベル、悪いことは言わない。一度医者に診てもらえ」
――――なんでやねん!





