12:婚前契約書。
馬車に揺られながら、頭を抱える。
なんでこんなことに。
そりゃあんなものを送り付けたからなんだけどね。
とりあえず、取り上げた婚前契約書の確認をしなければ。
「ただいま戻りましたわ!」
「あら、イザベル。おかえりなさい」
玄関ホールに飛び込むと、お母様が花瓶に花を活けている最中だった。
お母様に帰宅の挨拶をし、お父様の所在を確認。二階の執務室にいるとのことなので、お母様もそこに行くよう伝えた。
「あらあら、そんなにカリカリしてどうしたのかしら?」
「いいから、お父様の執務室に来てください」
お母様の腕をぐいっと引っ張り、階段を駆け登る勢いで上がり、お父様の執務室に向かった。
「イザベル、入るときはノックしなさい、とあれほど言っているのに」
「もうしわけございません。以後、気を付けますわ」
「イザベルが謝った……!?」
なぜそうも驚かれるのか。理由は明確だけど、モヤッとはする。自業自得なのだけどね。
両親にユリウスから奪った婚前契約書を突きつける。この書類が出来上がっているということは、両親は確実に関わっているのだから。
「おや」
黄緑色のふわふわ髪を揺らして首を傾げるお父様。私の髪色はこの人からの遺伝。
「あらまぁ」
クスクスと笑いながら頬に手を添えるお母様。茶色に近いブロンドヘアのサラサラストレート。私の髪質はこの人からの遺伝。
逆なら良かったのにと心底思う。
ちなみに性格はよくわからない。二人ともふわっとゆるっとした性格なのだ。
前世の意識が色濃く出てきた今は、更にわからないことになっている。
「イザベルが誰でもいいと言ったじゃないか」
――――まじで?
なんの記憶もないんだけど、以前の私なら言うのかも? 誰かを好きとかなくて、ただ家同士の繋がりでの結婚でいいと思っていたから。
両親は恋愛結婚でも構わないとは言っていた気がする。
「どうせなら家が一番繁栄する相手がいいって言っていたしね。それならその中でもイザベルを愛してくれている人物が一番だろう?」
黄緑ふわふわ頭を揺らしニコニコとしているお父様。
待って、『イザベルを愛してくれている人物』って、誰? 意味がわからないと両親に言うと、両親ともにきょとんとされてしまった。
「あら、ユリウス王太子殿下じゃないの。当たり前でしょ?」
お母様の中では当たり前。もちろん、お父様の中でも当たり前らしい。
私には初耳なのだけど? だって、ユリウスコースでも首チョンパされるのよ?
「とりあえず、これにサインなんてしないからねっ!」
婚前契約書をしっかりと握りしめて、お父様の執務室から飛び出して部屋に籠もった。





