11:気のせい。
近衛騎士ラウル【♡♡♡】の乱入で、婚前契約書へのサインをうやむやにしよう計画を立てた。一瞬だけ。
「チッ、なんでもない。イザベル、サインしろ」
「誰がするかぁぁぁ!」
これは持ち帰り案件だ。元来わがまま悪役令嬢なんだから、これくらいのわがままはセーフなはず! と言い張って、婚前契約書を奪い取るとこまでは成功した。
「ていうか、なんでラウルがいるのよ? さっきまでいなかったでしょ!?」
「は? 俺、今から勤務開始だし」
ラウルにカツカツと近づき、腰に下げてある懐中時計を引っ張り蓋を開けると、針が九時を少し回っていた。もうこんな時間だったのね。
というか、ユリウスが早すぎるのよ。なんで八時に呼び出されなきゃいけないのよ。
「おま、ズボンが脱げるからそれ以上引っ張るな!」
「あ、ごめんね」
「……は? イザベルが謝った……殿下、これイザベルじゃないですよ?」
――――ヲイ。
何だその判断基準は。私だって謝ることくらいあるわよ? たぶん。ナチュラルイザベルのときは……あれ? ラウルに謝ったこととかあったかしら?
「とりあえず、これ預かりますからね?」
「チッ。勝手にしろ。だが明日までに提出してもらうからな?」
明日って早くない? まぁ、良いわ。こっちの手にあるんだから、どうとでもできるわ。
持ち帰ってお父様とお母様に確認を取りましょう。
「私は執務に戻る。ラウル、馬場まで送ってこい」
「ハッ、承知しました」
斜め後ろを歩くラウルの頭の上にはやっぱり【♡♡♡】があった。まぁ、そうなんだけど、ラウルも攻略対象なのよね。あれは攻略対象のみに現れているって認識で良いんだろうけど。ふと気になったのは、ヒロインには見えているのかってこと。
……いや、接触したくない。
そもそも、ラウルで攻略対象三人目なのよね。今日だけで。まじで何かの強制力が働いてない? だって、普段はそうそう遭遇することとかないもの。特にアリスターとか、仕事にかかりっきりで外出とかさえしないって有名なんだけど?
「なあ、イザベル」
「なに?」
「あの手紙なんだ――――」
「あら、馬場に着いたわね。送ってくれてありがとう」
「話を聞――――」
「じゃあね、お仕事がんばりなさいよ」
なにも聞こえなかった。ラウルが何か話したそうにしているのも気付かなかった。ということで、馬車に乗り込んで、ラウルに手を振って、シャッと馬車の窓にかかっているカーテンを閉めた。
よっし。気のせい、気のせい!





