10:攻略情報。
お茶を飲み終えてしまったので、侍女たちがテーブルの横に置いていたティーワゴンからおかわりを注いだ。ついでにユリウスの分も。
「お砂糖二個でしたよね?」
「…………」
ユリウスがじっと見てくるのでなぜだろう、というか返事しろよと睨み返すと、更に睨まれた。
くっそぉ、ツンツンツンツンツンデレめ。ほぼ辛辣野郎なだけじゃないのよ。
「……人前で砂糖を入れたことはない」
「ぬぐふあっ……」
しもた、コレ攻略情報だわ!
ヒロインがかなり仲良くなってから、終盤で知るヤツだ。照れるユリウスと微笑みながらカップに砂糖を入れるヒロインの美麗スチルがあったのよね。
ユリウスをチラリと見ると、ものっそい怪訝な顔になっていた。あー、これはまずい。なんか疑われてる。しかも、どう疑っていいか分からないパターンで疑われているとかいう面倒な感じだ。
そもそもよ? なんで隠してるんだっけ? ズバッと言っちゃう?
脳内会議で、脳内ユリウスに乙女ゲーム内転生の話をしてみる。
脳内ユリウス①『侍医を呼べ』
脳内ユリウス②『薬物検査しろ』
脳内ユリウス③『公爵を呼べ、修道院に入れろ』
脳内ユリウス④『……そうか』(聞き流し)
あ、なんか無理そう。脳内のユリウスでこれなんだから、現実ユリウスはもっとエグいことしそうだもん。
「あら? 誰かと間違えたのかもしれませんわね、失礼致しました」
「お前がか?」
「っ…………なんの話でしょう?」
このツッコミは痛い。そこそこ長い付き合いのユリウスだからこそのツッコミ。
イザベルは、情報の扱い方に細心の注意を払うタイプだった。わがまま放題をするために、相手の情報は正しい場所で最大効力を発せるタイミングで使う。
それをこんな場所でつるりとやらかすはずもなければ、人違いをするはずもないものね。
「そもそも、イザベル自ら茶を淹れるのも変だが? そうやっていつまでも言い逃れするのか…………まぁいい。今日の本題はこれだ。サインしろ」
ユリウスがどこからペラリと出したのは、婚前契約書。婚約前に両家での法律的なことからちょっとしたルールまで決め事をするための証書。
これがここにあり、まだサインされていないということは…………。
「ぬぁっ!? 婚約確定してないじゃん!」
ガタリと立ち上がって、未サインの婚前契約書を奪おうとしたら、サッと避けられてしまった。
「っふ……んんっ。だからサインしろ」
――――いま笑った?
ユリウスが珍しくしかめっ面を緩めた気がする。何が面白かったのよ? 私の必死さか?
ユリウスにイラッとしていたら、サロンのドアがノックされた。
「殿下、大きな声が聞こえ――――イザ、ベル」
ドアの隙間から顔を出したのは、近衛騎士ラウル【♡♡♡】だった。
さっきはいなかったのに、なぜここに来て登場したよ?





