1:首チョンパコース。
――――やっばい!
やばいやばいやばいやばい、なにがやばいって、本気で生命の危機というか、社会的な危機というか、やばい。まじで、やばい。
いつからだっただろう。自分が転生していると気付いたのは。
わりと幼少期だったとは思う。
ただ、なんとなくくらいだった。前世の記憶があるっぽいけれど、そんなこと言うと皆が気持ち悪がるわよね? くらいの認識だった。
もうほぼ忘れかけていたのに……神様とは鬼畜だと思う。
王太子殿下の婚約者探しのお茶会に参加し、なんとなく見覚えのある風景に出くわした。
王太子殿下とふわふわ金髪のご令嬢が楽しそうに話している姿を見て『スチル』という言葉が脳内に浮かび上がった。
わぁ、スチルだぁ――――って、これ乙女ゲームぅぅぅぅ!? と。
今日、私は薄らぼんやりだった自分の前世をハッキリと思い出してしまった。そして、今世が前世でやっていたゲームの登場人物だったということも。
しかも、主人公やモブでもなく『悪役令嬢』だったことを知る。ヒロインをいじめていじめて、いじめ倒す、わっるーい黄緑頭のご令嬢。…………黄緑。脳内に流れ込んでくる情報に飲み込まれながら思う。
「きみどり……………………ないわ…………」
「イザベルッ!?」
遠くから駆け寄ってくる、幼馴染の近衛騎士の頭上に【♡♡♡】が見えた気がした――――。
「……づはぁぁぁぁ! っ、あれ? ここ?」
さっきまで王城の庭園にいた気がするのに、部屋の中。しかもふかふかのベッドに寝ていた。
「気が付いたか。全く、人騒がせな」
「王太子殿下……」
ベッドの横に置いてあるイスに王太子殿下が頭上に【♡♡♡♡♡】を浮かべ、足を組んで座っている。眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな顔で。
――――あ、ツン多めのツンデレ殿下だ。
脳内にぶわりと膨れ上がる乙女ゲームの情報に、またもや目眩がした。
「……た、大変……ご迷惑をおかけしました」
パニクる頭をどうにか落ち着けてしどろもどろに謝罪すると、怪訝な顔をされてしまった。
「お前がそんなに素直だと気持ちが悪いな」
「…………あ」
「あ?」
そういえば私は超絶ワガママで高飛車な悪役令嬢だった。ワガママと暴走を繰り返して、首チョンパされる悪役令嬢。…………あれ? 全ルートで首チョンパされてたくない? え? 私、どうあがいても胴体と頭がさようならコースなの!?