ちきにくやりにくい
我々は生命の存在する星を発見した。
その星は『地球』と呼ばれており、地上も海中も、砂漠の上まで生命で溢れていた。我々は生唾を呑んだ。
はっきりいって、この星が終わりかけているのはわかっていた。気候は狂い、資源は既に枯渇しかかっており、何より知的生命体があまりにも増えすぎて、自然環境を破壊している。他の星の侵略者にとっては侵略価値のない星だといえるであろう。
しかし我々にはそんなことはどうでもいいのである。
我々は肉を食いに来たのだ。
肉が食える場所であれば、侵略価値があるといえるのだ、我々にとっては。
我々がこの星を発見できたのは、はっきりいって地球人による導きがあったからだった。彼らは宇宙に向けてメッセージを発信していた。
『宇宙の友達へ』
『我々の声が聞こえたらお応えください』
『どうか、我々の星へいらしてください』
そんなメッセージを受け取り、我々はお望み通りにやって来た。
何かの罠かと当然思ったが、どうやら彼らは無邪気にも、本気で何の見返りもない友好を望んでいたようだ。
彼らは暗黒森林理論を知らないのだろうか? 大ヒットしたSF小説『三体Ⅱ黑暗森林』を読んでいないのだろうか? この宇宙は真っ暗な森林のようなところであり、知的生命体という名の猛獣がうろついており、そこで明かりを振りかざして「ここにいまーす」とか己らの存在をアピールすることは、エイリアンに「侵略しに来てくださーい」と大声で叫ぶことに等しいということがわからないのであろうか? しかもものすごい笑顔で。
広場に降り立った我々を、地球人たちは『大歓迎! 獣星人御一行様』と書かれた横断幕とともに出迎えた。我々には笑顔のブタが群がっているようにしか見えなかった。
しかし油断は禁物だ。
歓迎するふりをして、こちらを油断させ、何かの罠にはめるつもりかもしれない。先手必勝だ。
我々は我々の宇宙船から駆け出すなり、やつらに光線を浴びせた。有機物ならばなんでもやわらかい豆腐に変えてしまう光線だ。我々が『やわやわ光線』と呼ぶ、我々の文明自慢の殺戮兵器だ。
我々の目の前にたちまち大量の豆腐が生まれ、やわらかく崩れた。地球人たちはようやく我々が侵略者だということに気づいたようで、大パニックになった。
しかし我々は肉食獣である。うまそうな地球人を淡白な豆腐にはあまり変えたくない。豆腐光線で恐怖を植え付け、この星を我々のための畜肉牧場にする計画だ。我々は早々に攻撃を中止すると、やつらに呼びかけた。
「抵抗するな。服従せよ。大人しく我々に飼育される者は安楽死処分したのち食肉とする。我々にとってかわいいものはペットとして飼ってやらんでもない」
すると大勢のメスの地球人たちが突進してきた。ある者はシャキシャキと野菜のような気持ち悪いダンスを踊りながら、ある者はベロを出して顔をアプリで加工しながら、ある者は衣服を脱ぎ捨てて蠱惑的に全裸を見せつけながら、押し寄せてきた。
「あたし、かわいくないですか〜?」
「なんでもしてあげちゃう〜」
「あなたのペットにしてくださぁ〜いっ」
ふざけるな。我々はすべてBLだ。気持ち悪いメスどもは即刻全員豆腐にしてやった。
すると続けてイケメンどもがポーズをキメながらこちらへ群がってきた。
「オレら、イケメン」
「何してほしいんだい?」
「キミのことを愛してあげる」
ふざけるな。我々は皆、かわいいショタにしか興味がない。どいつもこいつもそいつらは見るからにタチだった。我々がタチとして、かわいいショタを攻めるのである。ふざけたタチどもを即刻全員豆腐にしてやった。
なんだこのふざけた惑星は。やりにくいなと思っていると、巨大なウルトマランがどこからともなくやって来て、我々の前に地響きを立てて降りた。こいつの肉はなんだか銀色でギラギラしていてうまそうではなかったので即刻豆腐にした。
結局どいつもこいつも地球人はふざけていたので、地上は真っ白な豆腐の海と化し、静けさだけが漂った。
作者はオチのあるショートショートを書くと決めてこの小説を書きはじめたのだが、結局誰もいなくなった。