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第一章14 「図書室②」

 

「じゃあ、約束ね! 八千代やちよくん!!」


 嬉しそうに『約束ね』と口にした上近江かみおうみさんは、図書室から先に退出して教室へ向かって行った。

 歩く後ろ姿は、姿勢がいいからかとても綺麗に見えて大人っぽくも見えた。

 つい、見惚れてしまったが頭を横に振り邪念を振り払い図書室の中に戻る。


「一緒に教室行こっ!」


 そう誘ってくれたが、誰に見られるかも分からないため断った。

 もちろん……と言うのも可笑しなことかもしれないが、上近江さんは不満を言った。

 でもすぐに笑顔で了承してくれた。

 ではどうして、笑顔で了承して機嫌良く先の教室へ行ってくれたのかと言うと――。


 上近江さんからお姉さんに、カフェに関する本を借りてもいいか聞いてくれることになった。そのことで残りの時間は2人で話をすることになったのだ。

 話をしたというよりも、今日はたくさん質問をされた。


 朝は何時に学校に来るのか。お昼はいつもお弁当なのか。

 はたくんとは付き合いが長いのか。兄弟はいるのか。

 今はなんの本を読んでいるのか。初恋はしたことがあるのか。

 得意な運動はあるのか。など、1つの会話を広げるには時間が足りなかったため、上近江さんは僕の返事に『うんうん』と頷きながら次々に質問をしてきたのだ。


 昨日は上近江さんの話を聞いていただけだったから、今日は僕に気を使って話を聞き出してくれたのだろう。

 おかげで喋りが苦手な僕でも、気まずい空気を流すことなく過ごすことが出来た。

 初恋について聞かれた時はどう答えようか悩んだが、時間もなかったので『そろそろ時間です』と言って誤魔化したが、上近江さんはあからさまに不満そうなに頬を膨らませた。

 すると何故か僕のすぐ目の前まで顔を寄せて来たので、つい――。


 ――また、明日以降もありますから。


 と、言ってしまったのだ。

 それはもう、上近江さんの表情は一瞬のうちに『ぱあぁっ』と輝いた。

 そして僕が訂正する間も無く、『毎朝図書室で会えるの!?』と言ってきたのだ。

 あまりにも嬉しそうに言うものだから、僕は訂正や否定など出来ず頷くことしか出来ずに、そのまま約束を結ぶことになったのだ。

 僕と一緒にいれることの何が嬉しいのか理由は分からないけれど。

 恐らくこれが、上近江さんが機嫌を良くした理由だと思われる。


「そろそろいいかな――」


 上近江さんが出て行って5分。これ以上は僕が遅刻してしまう。

 そう考えながら図書室の電気を落とし、退出して鍵を閉める。

 携帯を見ると幸介こうすけから着信が入っていた。

 多分、いつも誰よりも早く教室に居る僕がいないから、心配で掛けてくれたのかもしれない。

 折り返そうか悩んだが教室にはすぐ着くし、すでに幸介もいるはず。

 そう考えて教室に戻って来たが、幸介の姿が見えない。

 その代わりに上近江さんが僕をチラチラ見ている姿は見えたが、今は見えていないふりをする。目も合っていないし大丈夫なはず。

 それに佐藤さんと一緒にいるから、下手に目を合わせられない。

 まあ、でも、2人が仲良さそうに話している様子は安心したな。

 しっかり仲直り出来ているようだし。

 とりあえず自分の席に座って、幸介に電話を掛けてみる。


『ツ――――――ッ』


 どうやら通話中のようだ。

 すると僕が座る廊下側最後列、その横の扉が開き、少しやつれた様子の幸介が誰かと電話をしながら入ってきた。


『あぁ、来てる。は? わりぃ、全然理解できない。いや、こう……っと、ああ、なんだ、比べられても無理な物は無理だ。とりあえず大丈夫だから安心しろ。じゃあ切るぞ――』


 幸介の様子を見ながら、幸介が話し掛けて来るタイミングを待つ。


「よっ! こうり、おはよ!! どうした今日は? 遅かったな?」


「おはよう幸介。今日は少し用事があって遅くなった。それと、電話気付かなくてごめん」


 幸介の様子に疑問を感じたけど、何も言わないってことは僕に言わなくていいことなのだろう。


「ん? あー……全然大丈夫だ。それより、昨日はちゃんと私物を取り返せたか?」


「それがさ――」


 僕が返事をしようと口を開けてすぐ『ガラガラガラッ』と教室の扉が開く。

 いつもよりほんの少し早く古町先生が入ってくる。

 幸介にまた後でと言うと自分の席に戻っていった。


「皆さん、おはようございます。席に着いて下さい。ホームルームを始めます」


 さっき見た微笑みは幻だったかもしれない。

 そう思ってしまう程、今日も淡々とした口調で古町先生が1日の始まりを告げる。

 それと同時にチャイムが鳴り、朝のホームルームが始まった――。


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