山にある茶屋
「はぁはぁ」
どこだよここ。山登りになんてくるんじゃなかった。迷うし、暑いし、疲れる。この山から帰ったら二度とするか。
ん? なんだあれは? 家? とりあえず休む場所ができてよかった。歩きすぎて足が棒の様だ。
しかし、近くで見ると山にあるとは思えないほど綺麗だな。母がよく見てた時代劇の茶屋に似ている。古いがよく手入れされている感じがする。誰かいるのか?
「こんにちは」
「こんちは」
人がいたのか。助かった。
「あんたここの人かい? 道に迷ってね。道を教えて欲しいんだが、いいかな?」
「まあまあそれは大変だったでしょう? お茶の一杯でもどうですか。今出しますから」
それは助かる。歩き疲れているし、喉も乾いている。持ってきた飲み物なんて二時間前に飲み尽くしちまった。
「お待たせしました。こちら当店自慢の透明茶です。その名の通り透明なお茶でございます」
5分くらい待つと男が出てきた。さっきの男だ。
「透明なお茶か。それは珍しいな」
見たことがないお茶に戸惑うが喉が渇きすぎている。怖いが飲んでみるか。俺は覚悟を決めてグイッと一気にお茶を飲み干した。
「……うまい」
とてつもなくうまい。俺の言葉じゃ説明できないほど美味い。ただ一つ言えることは今まで飲んできたお茶はお茶じゃない。さらに、このお茶味だけじゃない。力が溢れてくる。さっきまでの疲れが嘘の様だ。
「おい、これはどんなお茶だ。今まで飲んだことがない。とても美味しい。よければ銘柄を教えて欲しい」
「それは秘密です」
「そこをなんとかならないか」
「秘密です」
「そうか。ではもう一杯もらえるか?」
「承知しました」
俺は、飽きるまで飲んだ。多分三十杯はなんだと思う。今更だがお金が心配だ。
「ありがとう。美味かった。代金はいくらだ?」
「お代は結構です」
「いや、そういうわけにはいかないだろう」
「良いのです。それより帰り道をお教えしましょう。あちらの方向に真っ直ぐ行けば麓に着きます。私を信じて歩き続けてください」
男が指で示した道を見る。険しい道だ。しかし、不思議と今の俺なら行ける気がする。
「ああ、わかった。では足りないだろうがここに財布に入っているお金を全て置いていく。足りない分はいつか必ず」
「良いのです。それよりもどうかご無事で」
不思議な男だ。それでは商売にならないだろう。それなのにお金を受け取らない。その姿勢に俺は負けた。
「また会えるか?」
「ご縁が有れば」
「そうか、ありがとう。お茶おいしかったよ」
教わった道をいくといつのまにか麓に着いた。
それから10年経つがあの山のどこを探しても茶屋は見つからなかった。他の山も探したが見つからない。だが、俺は諦めない。いつか必ず探し出してみせる。




