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94 映画館では背後に気をつけろ


 映画館の発券窓口の前で、さて何を観ようかと怜士は、電光表示されている映画のタイトルと上映時間を見ていた。これから観るのにちょうど時間がいいのは、『大宇宙対戦 ドドム対キングメカガガンドン』だが、そんな怪獣映画をデートで観る訳ないから却下。

 恋愛物がいいだろうか、でなければアクションものだろうか。セスナが観たがりそうな映画がいい。セスナが観たがりそうな映画、映画……えっと、どれ?


 「……」


 考えてみれば、怜士はセスナの映画の趣味さえ知らない。恋愛ものが好きだろうというのは、怜士が世間一般の女の子に持っている偏見だ。セスナがそんな枠に大人しくはまるだろうか。アクションは好きそうかも、オカルトは苦手かもしれない。

 だけど知らない、訊いたことがない。


 可愛いものが好きなことは、今回の頼まれごとをされて初めて知った。『polka dots』のデザイナーにどうしても会いたいのだとセスナに手を合わされてから、怜士は怜士なりに『polka dots』という子供服メーカーを調べてみたのだ。セスナの友達の両親が経営していると言っていたから大丈夫だろうとは思ったが一応、お嬢様育ちのセスナが何か騙されていないかとか、その辺りを重点的に調べた。

 幸い怜士が通っている高校には、金持ちのお坊ちゃまたちが集っている。中には既に父親の会社の経営を手伝っている奴もいて、割と簡単に『polka dots』という会社がこの不景気下においてかなり順調に成長している優良企業だということはわかった。しかも、バックにはあの朝比奈家がついているとか。朝比奈家といえば、この辺りで一番の繁華街であるこの小堀町のあたりの土地を一手に所有している大地主で、飛鳥井家には及ばないもののかなりの名家だ。

 ということは、『polka dots』は基盤も固く、あやしげなところはどこにもない会社ということになる。でなければセスナを一人でなんて行かせないところだが、ついて行こうかという怜士の申し出はセスナによってあっさりと断られた。

 一人で行きたいのだと、何かを決意しているような固い声で言われたら怜士にはもうどうしようもない。とりあえず、ボディガード代わりに運転手を『polka dots』の本社ビルのすぐ裏手に待機させてある。それでひとまずは安心だろうということで、怜士はこうして一人で映画を観ることにした訳だ。


 それにしても、セスナならどの映画を選ぶのだろうか?話題作なら、『グッド・シールドⅡ』……好きだろうか、こんなアクション映画。


 「お、怜士やん」


 発券窓口の前でうーんと唸っていた怜士の背中を、容赦ない大阪流張り手がバシッと襲った。ジーンと痺れた背中をさすりながら振り向くと、同級生の大西敦がニターッと笑っている。敦の横には女の子が一人立っていて、こいつ彼女がいたのか!と目を剥いた怜士の背中を敦が「偶然やな」と、遠慮も何もなくバシバシと叩いた。


 「なんや、怜士も観に来たんか、『大宇宙対戦 ドドム対キングメカガガンドン』。俺らもや。これは見逃せんよな、なんせ十年ぶり新作や。今回のキングメカガガンドンは目玉が飛び出すらしいで、知っとったか?あ、コレはイトコの裕理や。よろしゅうしたってや。そんで、チケットはもう買うたんか?まだか、そうか、ちょうどええ、貰ったんが一枚余っとるからやるわ。運のええやっちゃな、お前。ほな行こか。なんや、遠慮せんでええで。どうせタダで貰ったもんやからな。親父の会社の関係で、ようもらうねん。どうしても気になるっちゅーんやったら、ポップコーンでも買うたってや。コーラもつけてな、アップルマンゴーソーダでもええで。おっと、もう始まってまうな。ほな、行くで。パンフレットも頼むわ」


 怜士が一言も挟めないうちに、敦はガハガハと笑いながら入り口に向った。その後ろに続く、敦の従妹だという目つきの悪い小柄な女の子が怜士を見上げて、「ポップコーンはキャラメル味やで」と言った……。




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