93 クリームソーダと裏腹な土曜日
カシャカシャと陶器が触れ合う音がそこかしこからする喫茶店の窓際の席で創太は、大きく見開かれたまん丸の目と見詰め合っていた。
元気よくはねているピンクベージュの髪、つぶらな瞳、ほんのりと桜色の頬……かなり可愛い女の子だ、さすがに雪都の妹だけある。どうして君はもう十年早く生まれて来てくれなかったんだと創太は、己が悲しい運命を呪った……。
「じゃなくて!なしてお前は、子連れで来るんだよっ」
テーブルをぶっ叩いて、涙目で創太がそう叫ぶと、晴音の隣に座った雪都が「あー?」と絶好調に不機嫌そうな顔をあげた。
「お前が、来てくれなきゃ死ぬとか何とか大袈裟にほざくからわざわざ来てやったんだろうが」
「子連れはねえだろ、子連れは!置いて来いよぉー」
「五歳児を一人で置いて来れるか、馬鹿。晴音、好きなもん頼め。この兄ちゃんの奢りだ」
「クリームソーダ」
「おーい」
「あ、俺もおかわり。えっと、ナポリタン?」
「ナポリタンじゃねえだろ、和馬っ!エビピラフはどうした、ついさっき可愛いウェートレスのお姉さんが、お待たせしましたぁって笑顔で持って来てくださったエビビラフは!」
「食った、足りねえ。ナポリタン」
「おーい」
「昼飯時に呼び出す方が悪い、ナポリタン」
おいおいと泣き崩れる創太の横で、和馬がすみませんと手をあげた。ナポリタンと晴音のクリームソーダを和馬が頼み、雪都がアイスコーヒーと追加する。
「雪都は、メシ食って来たのか?」
「おう、食ってる最中にこいつが電話かけて来やがった」
「そうか。晴音、久しぶりだな」
「かずま、ひさしぶり」
「おう」
そんな他愛ない会話が交わされる中で、創太がわざとらしく「殺されるー、姉ちゃんに殺されるー」とうめいている。雪都は心底嫌そうな顔で、それでも「何の用だよと」訊いた。
「合コン!」
「パス」
「最後まで聞けよぉ。相手は女子大だぞ、女子大生」
それがどうしたよと雪都が吐き捨てると、和馬が「どうせ姉ちゃんの友達だろ」と突っ込みを入れる。白いエプロンをつけたウェートレスが、お待たせしましたとナポリタンとクリームソーダ、それにアイスコーヒーを運んで来た。
「高三にもなって姉ちゃんの言いなりになってんなよな、情けねえ」
「和馬、お前だってうちの姉ちゃんの恐ろしさは知ってんだろうが」
「それでも男なら、嫌なことは嫌だとはっきり言えって」
「言えねえ、言えるわけねえだろぉー。殺されるぅー。な、永沢!その可愛らしいお妹様は家に返却して、お前はむちむちうっふんな女子大生と危険な恋のアバンチュールだ」
「晴音、遠慮しねえでもっと頼め」
「クリームマシマシパンケーキ」
「頼む、この通りだ。姉ちゃんの友達がさ、お前の写真見て気に入っちまったんだよ。お前を連れて行かなきゃ、俺は姉ちゃんに殺される」
「お前、修学旅行の写真を写真立てに入れて飾るのやめろよ……」
姫宮さんには内緒にしとくからさぁーと、両手を合わせて拝む創太に、和馬が眉間の皺をいつもより一割増し程度に深くした。
「んじゃ、なんで俺まで呼ばれたんだよ」
「数合わせ」
「ミックスサンド追加」
「和馬、お前は肥満街道を突っ走る気か!飛鳥井さんにふられるぞ、それはそれで俺的にはオッケーだけどな」
「晴音、買物して帰ろうな」
「ジュースがもうなかったよ、パンも」
「そうか」
「そうかじゃねえだろ、永沢。和馬、お前も来てくれるよな。女子大生だぞ、女子大生。飛鳥井さんには内緒にしとくか……ぐわっ!」
後頭部にきれいにきまった和馬の拳に、創太はきゅーっとテーブルに突っ伏した。エメラルドグリーンのソーダ水を嬉しそうに飲んでいる晴音に、雪都と和馬が二人揃って、「美味いか?」と訊いた。




