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81 pink or brown


 妹の両腕に抱えられた二個の物体に、雪都は思わず顔をしかめた。どっちがいいと首を傾げて訊く晴音に、どっちも駄目だと答える。


 「えー、どうしてぇー?可愛いよ、くまさん」

 「俺が学校に持って行って渡すんだろうが、可愛かろうが何だろうが却下だ。もっとちっこいモンにしろ」

 「駄目、くまさんがいい。絶対にくまさん」


 そう主張して譲らない晴音が抱えているのは結構な大きさのあるくまのぬいぐるみで、右腕のがピンクで左腕のが茶色だった。それらは、どう考えても学生鞄に潜ませられるような大きさではない。


 今朝、雪都は母に、先日の御礼に美雨ちゃんに何か買ってらっしゃいと金を渡された。ちょうどお誕生日だしと言われて、どうしてそんなことを母が知っているのかと思ったが、幼い頃には雪都と美雨の誕生日祝いはいつも永沢家と中森家が合同でやっていたのだから、十和子が美雨の誕生日を知っていることなど考えるまでもなく当たり前のことだった。


 六月三日、それが彼女の誕生日だ。

 十二月生まれの雪都より半年早く、美雨は十八歳になる。


 先日、雪都が膝を痛めた時に美雨は、雪都に代わって晴音を迎えに行ってくれた。しかも、雪都が病院に行ってる間に晴音の遊び相手をしてくれただけでなく夕食の準備までしてくれていたのだから、これは御礼のひとつもして当たり前だろう。

 普通なら、菓子折りでも持って挨拶に行くところだろうが、生憎と美雨の両親は多忙でほとんど家にいないために挨拶したくてもその機会がない。それに、雪都と美雨がつき合っていると十和子は思い込んでいるので、そんな形式ばった御礼よりも、気軽な感じのプレゼントにした方がいいだろうと考えたのだ。

 雪都に買って来なさいと言ったのは、十和子自身が忙しくて買いに行く暇がないこともあるが、つき合ってるなら彼女の欲しいものくらいわかるだろうという思いからだった。


 かくして、晴音を保育園に迎えに行ったその足で雪都は制服のままで駅の裏にある大型ショッピングモールに寄った。しかし、美雨が何を貰ったら喜ぶかなんて皆目見当もつかなかったので、晴音に選べと言ってしまった。すると晴音は一目散におもちゃ売り場に駆け込み、件のくまを二匹抱えて、どっちがいいと訊いたという訳だ。


 「やっぱピンク?」

 「だから、もっとちっこいのにしろって」

 「ちっこいくまなんて、みみっちいよ?」

 「くまから離れろよ、くまから」

 「くまだよ、くまくま。絶対にくま!」

 「その根拠は?」

 「みゅうちゃんがくまさん抱っこしたら可愛いもん!」


 そんな理由かよと、雪都はがっくりと力が抜けた。いや、まあ、何と言うか、彼女がくまのぬいぐるみを抱いてたら可愛くないとは言わないけれど。だけど、それはそれだ。

 出来るなら小さいものがいい、それを何気なくほいっと渡したい。出来るだけクラスの他の連中に気取られることなく渡したいのだ。


 「……お前が欲しいだけだろうが」

 「くまさんなら持ってるもん」


 そうだった、娘に大甘な十四郎がぬいぐるみだろうがおもちゃだろうが、晴音が欲しがるだけ買い与えてしまうのだった。

 晴音が「はいっ」と渡すから、思わず受け取ってしまったピンクのくまと雪都は睨めっこする羽目になった。首に薄紫のリボンを巻いているピンクくまを抱いている美雨を想像すると確かにかわい……じゃなくて、何つーか、似合い過ぎ?


 いやいやいや、十八にもなって、ピンクのくまはないだろう、ピンクのくまは。

 だったら茶色か?

 いやいやいやいや、だからそうじゃなくて、出来たらもっと小さい物を……。


 しかし、女の子が欲しがりそうな小さい物で、雪都が思いつくのはアクセサリー類しかない。世の男性の多くがそうであるように、雪都もまた女というものはああいうのが好きだろうと思っているのだった。

 だけど、ネックレスであれブレスレットであれ、雪都が美雨にアクセサリーをプレゼントするというのも妙な気がする。というか、絶対に変だろう。つき合ってもない女の子に指輪じゃないにしても身につける物をプレゼントするなんて変に決まっている。


 「やっぱピンク?ピンクにしとく?」


 ピンクのくまと睨めっこしている兄を見上げて晴音が茶色も可愛いよーともう一匹も差し出すから雪都は、今度は茶くまと睨めっこだ。


 「ね、どっち?」


 首を傾げてそう訊く晴音に、思わず茶色と答えてしまったのはどうしてだろうか。茶くまの首にまかれた白黒ストライプのリボンが、彼女の髪にいつも結ばれているリボンと重なったからだとは、雪都自身ですら気づかないことだった。




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