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71 めんたまハンバーグ


 「めんたま?」

 「そう、めんたまハンバーグ」

 「めんたま、めんたま……えっと、何だろ?」


 首を傾げながら美雨は、永沢家のキッチンを見回した。

 そのキッチンはいくつかの物が増えているものの、美雨の幼い頃の記憶とほぼ一致している。他所様の家だというのに子供の頃の美雨は、勝手にこの冷蔵庫を開けてジュースとか出していたものだ。


 そんなことを美雨が懐かしく思い出しているうちに、晴音が背伸びして冷蔵庫を開けた。そして、上の方を指差して、「めんたま、めんたま」と言う。どうやら、卵を指差しているようだ。


 「ああ、目玉焼き。わかった、目玉焼きが乗ったハンバーグだ」


 やっとわかってもらえて、晴音はにっこりと笑った。その笑顔があまりに可愛くて、美雨もつい一緒に笑ってしまう。可愛いよーと、我慢できずに抱きしめたりして。


 保育園から帰って来て晴音は、しばらくは積み木やママゴトで美雨と一緒におとなしく遊んでいたのだが、やがてお腹がすいたと言い出した。確かにもう夕方の六時を過ぎている、お腹がすいても仕方のない時間だった。

 晴音は美雨の手を引いてキッチンまで連れて来ると、ご飯作ってと言った。リクエストは、めんたまハンバーグ。


 「お肉はあるのかな?ひき肉なんだけど、わかる?」


 ちゃんとわかっているようで、晴音は冷凍庫からカチコチに凍ったひき肉を出した。美雨が受け取ってみると結構大きなパックで、500グラムあった。ハンバーグを作るには十分な量だ。


 「うーん、でも勝手に作っちゃっていいのかな」


 美雨が勝手にこの冷蔵庫を開けていたのは、十年も前のことだ。今では、中を見るのさえ憚られる。それなのに、勝手に買い置きらしい材料を使ってハンバーグを作るなんて、いくら晴音が作ってと言ったからと言ってもしていい事なのだろうか?


 「めんたまハンバーグ!めんたまハンバーグ!」


 適当な節をつけて歌いながら、晴音が美雨の足元で妙な踊りを踊り始めた。『めんたま』のところで腰に手を当てて、お尻をふりふりして、『ハンバーグ』のところでは、両手を上にあげてくるりと回る。


 か、可愛い!

 晴音ちゃん、可愛過ぎるっ、


 美雨は、またもやぎゅっと晴音を抱きしめた。傍から見たら立派にヘンな人なのだけど、家に帰って来てからもう何度もやられたので、晴音はすっかり慣れてしまって平然としている。


 「あと、玉ねぎがいるんだけど。パン粉と」

 「タマネギ、あるよ」


 そう言って晴音が指差したのは、小さなひきだしが縦に並んでいる、通気性の良さそうな五段の食料ストッカーだった。一番上のひきだしを引っ張って見ると、玉ねぎとじゃがいもが一緒に入っている。他のひきだしも見てみたら、調味料や缶詰なんかの中にパン粉を見つけた。


 「材料は、あるねぇ」


 テーブルの上にハンバーグの材料を並べて、美雨はどうしようかと腕組みをして考えた。勝手に作ってしまっていいものやらどうやら、どうにも決めかねる。


 「あとね、ポテコロサラダ!」

 「ポテ……コロ?」


 『ポテ』は、わかる。ポテトだろう。しかし、『コロ』は?……ポテトコロコロサラダだろうか。

 せっかく『めんたま』の謎がとけたのに、これは新たなる謎だ。美雨が「んんん?」と、首を傾げていると、晴音が再び冷凍庫を開けて、カーネルコーンと書かれた袋を出した。


 「ポテコロサラダー」

 「ああ、ポテトコーンサラダなんだ?」

 「ポテコロー」


 だいぶ晴音のネーミングパターンが読めてきたぞと、美雨は晴音の手から冷凍コーンの袋を受け取った。そしてそれを、ハンバーグの材料と並べて置く。

 ポテトコーンサラダ用のじゃがいもは、玉ねぎと一緒にストッカーに入っていた。あとはきゅうりか何かあれば、サラダの材料も揃う。


 「よし、どうせなら本格的に作るかな」


 ハンバーグとサラダ、あとはご飯を炊いてお味噌汁でも作ってと、ぶつぶつ言いながら美雨は動きだした。そんな美雨の足元では晴音が、「ポテコロ、ポテコロ」と、適当な節をつけて歌いながらお尻をふりふりしていた。




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