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67 放課後のティータイム


 もうすっかり常連になってしまったケーキ屋の奥に二つだけ置かれたテーブルの窓際の方を占領して、美雨と澪がキャーキャーと声をあげて笑っていた。あゆみが身振り手振りつきで話して聞かせる清太郎の失敗談があまりに可笑しくて、美雨と澪はお互いの手を取り合って息が苦しくなるほどに笑い転げる。


 「おぬしらは、いつも楽しそうじゃな」


 ケーキを運んで来た朔夜が、そんな美雨たちを見てにやりと笑った。騒がしくしてすみませんと三人揃って礼儀正しく頭を下げる女子高生たちに、他に客はおらんから構わんと答える。


 「いちごタルトにミルクティーが、おぬしじゃったな。ブルーベリーチーズケーキにレモンティーが、おぬし。で、こっちがザッハトルテとカフェオレ。間違いはないかの?」


 「はーい、合ってまーす」と声を揃える三人に、朔夜はよしよしと頷いた。目が優しく細められている。


 「奥さん、最近はいませんでしたよね?」

 「おお、ちょっと後輩に頼まれごとをされてな。しかし、もう終ったでな」


 「そうなんだー」と、これも声を揃えた三人に、ゆっくりして行けと言い残して朔夜は下がって行った。

 朔夜の姿が見えなくなると、三人は早速フォークを持ち上げた。美雨が苺タルト、澪がブルーベリーチーズケーキ、あゆみがザッハトルテだ。

 今日は試してみたい新作ケーキがなかったから、それぞれに一番好きなケーキを注文したのだ。


 「美雨って、本当に苺が好きだよね」


 赤い苺がお行儀よく並んだタルトに早速フォークを刺した美雨に、あゆみが笑った。昼も苺尽くしだったのにと続いた言葉に、昼食を一緒に取っていない澪が首をかしげる。


 「美雨ね、今日のお昼はパンだったんだよ。それも苺味の甘そうなのばっかり」

 「そうだったんですね」

 「あれって永沢に、苺味のパンを買って来てって頼んだの?」


 タルトをぱくっと口に放り込んだ美雨は、あゆみの素朴な疑問に動きを止めた。フォークをくわえて、そのまま動かない。


 「どうして永沢くんが出て来るのです?」

 「ああ、美雨のパンは永沢が買って来てくれたんだよ。自分の分を買うついでに」

 「なるほど」


 澪とあゆみが会話している間に美雨は、口の中のタルトを飲み込んだ。大好きなタルトの筈なのに、味が全くわからなかった。しかもなんだか喉に詰まっているような気がして、慌ててミルクティーのカップを持ち上げる。一口飲むと予想よりもずっと熱くて、あちっと思わず声が出たところを澪とあゆみの目がじっと見ていた。


 「さてはおぬし、何か隠しておるな?」


 朔夜の口調を真似たあゆみが、ずいっと美雨の方に顔を近づけた。カップ片手に美雨は、エヘヘと曖昧に笑ってみたが、もちろんそんなことで誤魔化せる筈がない。


 「挙動不審、です」


 澪もあゆみとは反対側から、ずいっと顔を近づけて来る。

 親友二人に両側から迫られて、美雨のこめかみに冷や汗がたらりと垂れたとか、垂れなかったとか。


 「あのね」

 「うん?」

 「はい?」

 「永沢くんには姫宮さんが私の分も買って来てって頼んでくれてね」

 「ほうほう」

 「はいはい」

 「何でもいいって言ったら、苺味を買って来てくれてね」

 「つまり永沢は、美雨が苺好きって知ってたってこと?」

 「……そうだね、そうなるね」

 「そんな好みまで知ってるほど、美雨と永沢って仲良かったっけ?屋上でも喋ってるとこなんて、一度も見たことないけど」

 「あー、えーと、それは、その」

 「美雨?」

 「美雨ちゃん?」


 もうこれはダメだと観念して、実は幼馴染なのと美雨が白状したらあゆみと澪は目を大きく見開いた。


 「幼馴染って、幼馴染?え、あの永沢雪都と?」

 「保育園が一緒だったんだよ、それだけ。あゆみちゃんと田中くんみたいに、ずっと一緒だった訳じゃないし」

 「でも、えええ、ホントに?」


 しつこい位に訊き返して来るあゆみに、美雨は「ホント、ホント」と笑いながら持ったままだったカップに口をつけた。


 「どうして今まで教えてくれなかったのよ……そういえば美雨、最近はあまり阿久津先生のことを言わないよね。まさかとは思うけど、永沢のことを……」


 またもや熱いミルクティを思わずごくんと飲み込んでしまって、美雨は目を白黒させた。胃が熱いなんて、滅多に感じないことだ。


 「ちょっ、駄目だよ!彼女がいる人なんて好きになっちゃ、絶対に駄目だからね」

 「や、違うよ、そんなんじゃないってば」


 「あゆみちゃんは早とちり過ぎるよ」と美雨が言うと、「じゃあ、どうして教えてくれなかったの」とあゆみが切り返す。そんな二人の間に「まあまあ」と、澪が割って入った。


 「美雨ちゃんは、ちょっと言いそびれちゃっただけよね?」

 「そう、そうなの。言いそびれてたの」

 「ホントにぃー?」

 「ホントに本当だよ。大体、私が好きなのは……」

 「好きなのは?」

 「あ、阿久津先生だもん。私はね、優しくて落ち着いた大人の人が好きなの」

 「永沢だって落ち着いてるじゃない、それに優しいんでしょ?パンとか買って来てくれるもんね。まあ、大人じゃないけどさ。ほら、美雨の理想の条件が揃ってる」

 「揃ってない!大人じゃないって、あゆみちゃんが言ったじゃない」

 「大人は、必須なんだ?」

 「大人が必須というより、阿久津先生がいいの。すごく穏やかな目で、喋り方も優しいし」

 「ふーん?」

 「もう!だから、私は永沢くんのことなんて何とも思ってないってば」


 まるで宣言するようにそう言いきると、この話は終ったとばかりに美雨はぱくぱくといちごタルトを食べ出した。あゆみがまだ疑っているような目で見ていることは気にせずに、タルトの上にびっしりと乗っているいちごを片っ端から口の中に押し込む。


 ……ただの幼馴染だよ。


 雪都の顔が頭に浮かんで、美雨の心臓はドクンと跳ねた。


 だって永沢くんには姫宮さんがいるし、私が好きなのは阿久津先生だし。


 パンを買って来てくれた、苺尽くしだった。美雨が苺が好きなことをまだ覚えていてくれたのかと思うと嬉しかった。なんだか、とてもとても嬉しかった。


 お、幼馴染だもん、嫌いな訳ないもん。


 幼馴染としては好きだが、それがそのまま恋愛感情と結びつくなんて、そんなことある筈ない。


 「……この苺、すっぱい」


 絶対に、そんなことある筈ない。




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