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62 お似合いカップル


 ありがとうございましたと差し出されたビニール袋を受け取って、あゆみはすたすたと歩き出した。コンビニに入るとまるでそれが決まりごとであるかのように漫画雑誌を立ち読みし始める清太郎を予想通りの窓際の雑誌売り場で発見すると、その後頭部に遠慮なくグーに握った拳を振り下ろす。


 「痛っ!何すんだよ、あゆみ」

 「朝っぱらから立ち読みすんなって、何度言やわかんのよ」

 「発売日だぞ、続きが気になるだろうが」

 「帰りに読めばいいでしょ、帰りに」

 「お前がコンビニ入ったんだろが、つき合ってやってんだから感謝しろ」

 「ちょっと待っててつったでしょうが、マンガ読めとは言ってない」

 「待ち時間に何をしようと俺の勝手だ」

 「あー、うっさい!行くよ、ワキクサアゴヒゲ猿」

 「ヒゲは剃ってんだろうが、このワキクサ女」

 「私だってちゃんとシュシュッとやってるっての」

 「あー、こんな時間じゃねえか。行くぞ、遅刻する」

 「だから、さっきからそう言ってんでしょ」


 ギャーギャーとわめき合いながら、それでも二人は息ぴったりに並んで走り出す。コンビニを左に出て、そのまま真っ直ぐ走れば沢浪北高校はすぐそこだ。


 「何買ったんだ?」

 「お菓子」

 「菓子ぃ?」


 走ると、あゆみが持っているコンビニのビニール袋がガサガサと鳴る。飲み物を買っただけにしては妙にふくらんでいると思っていた清太郎は、その理由が菓子と聞いて僅かに眉根を寄せた。昨日、明日からダイエットすると言ったのはどこのどいつだっただろうか。


 「これ以上、太る気か」

 「太ってないっ!それに、これはみんなで食べるんだよ。お弁当食べた後のおやつ、いつも尾崎さんか姫宮さんか飛鳥井さんが持って来てくれるから、たまには私も持って行かないと」

 「お前、まだあの連中と一緒にメシ食ってんのか?」

 「そう、美雨と一緒にね」


 ごく普通に会話しているが、この二人は現在全力疾走中なのだ。学校前の緩やかな坂道をラストスパートとばかりにぐんぐんと駆け上る。


 「美雨に友達が出来るのはいいことだから、協力しないとね。あの娘、かなり引っ込み思案だからさ」

 「中森なぁ、お前の友達にしちゃおとなしいよな」

 「私の友達だからね、そりゃおとなしいよ」


 予鈴が鳴り出した、正門がゆっくりと閉まり始める。


 「そりゃどうでもいいけどよ、しかし意外なグループに食い込んだな、中森の奴」

 「うん、確かに意外だった。あのおとなしい美雨があんな派手なグループに入るなんてさ」

 「男どもも一緒に食うのか?永沢に阿部に早坂だろ、確かに派手だよな。国嶋も結構もてるらしいし、うちの女子の大半はあのグループの内の誰かのファンなんだろ?」

 「一緒つーか、一緒じゃないっつーか。まあ、見えるとこにはいるけど離れてるね。一緒に円陣組んでわいわい食べる訳じゃないよ。女子は女子だけで集まってて、男子は適当にバラバラって感じ」

 「一体、どんな話すんだよ?」

 「普通だよ?受験のこととかも話すし、テレビの話とか色々」

 「女子はそうだろうけどよ、男ども」

 「離れてるから、何を喋ってるかなんて聞こえないよ」

 「あいつらでもエロい話とかすんのかね」

 「あんたじゃあるまいし」


 まるで二人三脚のように足を揃えて清太郎とあゆみは、閉まりかけた門をすり抜ける。一応は間に合っている訳だから怒ることもできず、門を閉めていた教師が呆れたように校舎に駆け込む二人を見送った。


 「阿部と飛鳥井、あとは永沢と姫宮がつき合ってんだろ?いちゃついたりしねえのか」

 「いちゃつかないね、全然そんな感じしない。なんかね、どっちもさっぱりしたカップルだよ」


 あゆみは文系コースの三年B組、清太郎は理系コースの三年D組だから下駄箱は離れている。けれど、履いて来たスニーカーを上靴に履き替えて、下駄箱の間から飛び出したのは二人同時だ。


 「なんかさー、全然いちゃつかないのにしっくりと似合ってんだよね。飛鳥井さんとこも、姫宮さんとこも」


 廊下を一瞬で駆け抜けて、二人は階段を上りはじめた。三年生の教室は三階だ、本鈴が鳴る前に辿り着かなければならない。


 「まさに、お似合いって感じ。阿部くんも永沢くんも、飛鳥井さんも姫宮さんもすっごい人気あるのに誰も手が出せない理由がわかった。ありゃ無理だよ、割って入る勇気はないね」

 「お似合いなぁ」


 まるで二人三脚のように足を揃えて、二人は階段を上って行く。傍から見ればこの二人こそお似合いのカップルだということに、当の清太郎とあゆみは全く気づいていなかった。



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