31 何かがおかしい
お遊び回、短いです。
この教師、絶対おかしいだろ……クラス全員がそう思っていたが、クラス全員がそう言えないでいた。しんと静まりかえった教室に化学教師、沢口トキオの男にしては少し高めの声がとうとうと流れる。
「水素と塩素を燃焼バーナーで燃焼すると、左の反応式のように反応する。開始反応の活性化エネルギーが大きいこれに必要なエネルギーを与えると反応が開始され、連鎖反応の活性化エネルギーは小さいため、反応は起こりやすく大きな反応熱によって爆発的に反応が起こるんだネ。このため、H二過剰とし、常温付近で反応させるように十分に冷却を行ってやるという訳だ」
どうして塩酸の製造方法なんてこんなに事細かに説明するのか?高校化学のレベルでは、化合物の性質程度がわかっていれば充分なんじゃ……。
この四月に赴任して来たこの謎の教師がE組の沢口澪の父であることを知っているのはA組では美雨一人だけであったが、美雨はまだそのことを誰にも言ったことはない。別に隠している訳ではなく、このクラスにはその程度の世間話すらする相手が美雨にはまだいなかったというだけのことだ。
「キミたちの愚鈍な頭脳でも理解できるように説明したつもりだが、わかったかネ?」
教師が言うに事欠いて、愚鈍な頭脳とは何事だろうか。血の気の多い和馬あたりのこめかみにはピクリと青筋が立ったが、それでも何故か言い返すことで関わりを持つのは避けたいという自己防衛機能が働いてしまう。人間とて動物だという証明だろうか、野生の勘が 『ヤメトケ』 と囁くのである。
化学は自分で勉強するしかないなと、クラス全員がそう思った。いや、約一名を除いてそう思った。
「先生、質問があります」
カタンと椅子を引く音を響かせて、教室のほぼ真ん中あたりで一人の生徒が立ちあがった。このクラスの委員長にして、何故か男ながらに手芸部部長である市川博隆だ。
「先ほどの説明では、開始反応はCl2 → 2Clとのことでしたが、では連鎖反応は、Cl + H2 → HCl + H ・ H + Cl2 → HCl + Clとなるのですか?」
「そう、その通りだね」
「では、塩酸を気化する方法も説明していただきたいのですが」
「ほう……キミ、意外と優秀だね。塩酸を気化すると、周知の通り塩化水素ガスになる訳だが……」
塩化水素ガスって、何かとっても危険なものではなかったろうか?
授業中なのに、他に三十人も生徒がいるのに、トキオと博隆だけが違う次元にいるような……。
クラス全員が思っていた……いや、博隆を除いた他全員が思っていた。
この二人、絶対何かがおかしい。
なんかよくわからない話ですよね、本編にあまり関係ないし。
書き直そうかと思いましたが、過去の私がなにやら色々調べて頑張って書いたようなので、このままにしました。




