29 犯人は誰だ?
「神様、これは運命ですか?」
手摺の上に肘を置き、祈りを捧げるように手を組んで空を見つめている創太を真琴はきれいに無視した。相手をすればいくらでも調子に乗るから、放っておくに限るのだ。
真琴が読書を決め込んでいると、創太の一人芝居はさらに続く。
「天使が舞い降りて来ました、美雨天使。ラブリーな僕のエンジェルが」
どうでもいいが、このボキャブラリーセンスは何とかならないものなのだろうか。ラブリーとかエンジェルとか、今時の高校生は普通に使わないだろう。
真琴は、文庫本のページをめくった。そろそろクライマックス、犯人が誰かわかる頃合いだ。
「運命ですね、これは運命だ。そうに決まっている、いや決めた。この新見創太、この時のために今まで彼女が出来なかったのですよね。あのラブリーエンジェルに出会うために!」
ここまで来たらどうなんだろうか……友人として止めてやるべきか、それより友人やめるべきか。
後者の方が楽で断然いいなと思いながら、真琴はもう一ページめくる。さあ、犯人は誰だ?あいつか、それともこいつか。真琴の推理では、この婚約者があやしいと思う。一番善良そうなのが犯人というのは、推理小説のセオリーだ。もっとも、セオリー通りの推理小説ほどつまらないものはないが。
「飛鳥井さんは和馬のスケベ野郎に譲り、姫宮さんは永沢の大馬鹿野郎に譲ったこの新見創太、全てはこの日のために!」
春樹は除外なのか、どうでもいいけど。
真琴が本のページから顔をあげると、女の子四人が楽しそうに喋っている。中森さんねぇと、真琴は恥ずかしそうにうつむきがちに笑っている美雨を見た。確かに可愛い、けれど年上好きの真琴の趣味ではない。
雪都あたりなら好きそうなタイプかな……。
何となくだけど、ほわんとした雰囲気が希羅梨と似ている。そう思って何気なく雪都の方を見た真琴は、思わず目を大きく見開いた。
雪都が、今まで見たことないような眼差しを女の子たちの方に向けている。彼女である希羅梨を見ているようにも見えるが、けれどいつもこんな風に一緒にいても雪都があんな目をしたことはない。
推理するまでもない、いつもと今日の違いは、創太がさっきからうるさいく騒いでるラブリーエンジェルだ。
真琴は、ふっと短く嘆息した。
美雨と同じく希羅梨もまた、年上好きな真琴の趣味ではない。だけど趣味ではなくても、友達であることに代わりないのだった。
真琴は、自分がかなり薄情な性格だということは自覚しているが、それでも友達が泣くのは嫌だと思うくらいの情はある。
見なかったことにしよう、そう決めて真琴は雪都から目を逸らした。
「おお、エンジェル!マイエンジェルゥ―!!」
小芝居を続けている創太はきれいに無視して、真琴は本のページをめくった。
さあ、犯人は誰だ?




