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さっくり完結短編

暇と暇

作者: 昼行灯


暇である。


どうして暇かと言えば、暇だからである。

午前中に洗濯を終え、朝兼昼食を食べてその洗い物を済ました。食後に淹れた紅茶を飲みながら仕事のメールをチェックし、必要な仕事に着手する。業務は順調に進んだ。余計な上司のちゃちゃがなければ時間に余裕ができるものだ。リモートワーク万歳である。

人によっては他人との接触がないとストレスになる人もいるらしい。幸いなことにそのタイプではない。一人上等のこの性質はリモートワークととても相性が良い。感染症対策で一気に進んだリモートワークは気の合わない人との接触も肩を擦り合わせる満員電車に揺られることも規定された月に数回の出勤日以外はなくなった。願ったり叶ったりである。そんな順風満帆なリモートワークも一つ難もあった。


暇が苦手なのである。


ただぼーっと過ごすことができない。映画を流しながら読書をしたり、調べ物をしながら資料をまとめたり。

一つのことに集中するよりも二つのことを同時進行していた方が落ち着くのだ。

ここが会社ならば雑務しながら同僚の仕事を手伝ったり、へのへのもへじを書きながら人間観察をしたりもできるのだが、残念ながらこの部屋には私一人しかいない。人間観察をしようと思ったら鏡を用意しなければならなくなる。いや、そもそも思考まで読み取れる相手という名の自分は観察対象になりえない。楽しいリモートワークの唯一の弊害である。その一人では解消しずらい問題のせいで空いた手がぶらぶらと宙で振られる。やることがない。つまり、暇なのだ。


暇。ひま。ヒマ。


暇とは一体何なのだろう。


哲学になりそうな予感を背に感じながらもひとまず検索してみる。辞書を引いても良かったがこれでも一応仕事中である。眼の前のパソコンを使った方が早い。


暇――休暇、休み、動作の間に生じるわずかな時間。


概ね私が想像していた通りの答えが載っていた。閑とも書く新たな発見まであった。さらに他のページも確認してみる。心なしか楽しくなってきた。


暇――自由に使える時間。なすべきことの何もない時間。


まさに今の私だった。重ねて言うがこれでも仕事中である。外出や旅行はいくら上司の目が薄いリモートワークでも無理だ。業務連絡には速やかに返答しなければならない。しかし効率よく仕事をこなせば時間が自由に使える。その一方でやるべきことをこなしてしまうとなすべきことが何もない。

暇な時間を活用した調べ物は腹の底にストンと落ちた。満ち足りた気分である。調べるという作業は私にとっては健康の秘訣かもしれない。


間もなく終業時間が訪れようとしている。会社で用意されたテンプレートに本日の業務報告を記入して送信する。問題がなければ了承の返信がくる。メールの返信を既読にすれば本日の業務は終了である。いわゆる定時退社だ。もっともリモートワークだとあまり実感がない。通勤という作業はビジネスとプライベートの切り替えには必要なのかもしれない。だがあの満員電車に乗るよりは会社のノートパソコンと私個人のノートパソコンを切り替えた方が容易でストレスもない。

会社から業務報告の返事が来た。了承だった。本日の仕事は滞りなく終わった。 私の会社の繁忙期前の閑散期なんてこんなものである。今のうちに心と体の栄養を摂っておけと言わんばかりに暇なのだ。


明日はまた明日の仕事がやってくる。おそらく暇も何気ない顔でついてくるだろう。

明日の暇はどうしようか。気になっている論文のピックアップでもしようか。それとも電子書籍のサイト内を巡ってみようか。新しいツールを試してみるのもよいかもしれない。

まだ来るとは限らない暇な時間の過ごし方を自由になった時間を消費して考える。どうしてこんなにも真剣に思考を巡らしているのだろう。


つまり、暇なのだ。



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